7.やっぱり無茶苦茶
アーサーは放っておくことにしたのだが、流石に可哀想かな? と思ったので、森がどういう状況にあるのか調べてやることにした。
調べ始めたところで気づいたのだが、流石に情報が膨大過ぎたようで、完全に把握するのに一週間かかるらしい。どうやらこの能力、限界はあまりないようだが、情報が膨大だと時間がかかるらしい。
今出来る範囲でやってみると、今いる場所を中心にして半径五キロの範囲をマップにし、どこに生き物が何体いるのか表示することが出来た。
「一度情報が判明したモンスターは、名前も表示されるのか……結構知らないモンスター多いんだな」
群れがかなり多い。ハイ・オークの群れなんて、大小を考えないと十もある。他にも別のモンスターの群れが数えきれないほど………ここだけぽっかり空いてるのが不思議なくらいだ。
一体や二体でいるほうが少ないな。それにしても、本当に異常が起きてるのかよく分からないな。自然なのか、人為的なのか分からない。もう少し調べたほうがいいだろうか? とりあえずおいておくか。
「おい、アーサー。この森やっぱおかしいかもしれん」
「え? 本当?」
ようやくある程度回復したアーサーに、【情報の支配者】で作成したマップを見せる。“可視化”の情報を加えたら、簡単に見せられるようになった。
マップを指差しながら、アーサーと色々話し合う。
やはり異常なようだ。といっても、なんでこうなってるのかは一週間かけるか、森中駆け回って情報集めるかのどちらかしかない。後者はめんどいので切羽詰まったらだ。
「うーん。これはやっぱり、少し調べてみる必要があるかな」
「調べるなら勝手にやってくれ、俺は自分の能力の検証でもやってるよ」
「そうかい? レツくんがいると心強いんだが………」
「まだ自分の能力をよく理解してないからな、足手まといになる可能性もあるから遠慮しておくよ」
足手まといになる気はないが、過信する気はないので遠慮しておいた。
「それじゃ、行ってくるねッ!」
「おう」
光と残像を残して消えていったアーサー。一人になったので、検証がしやすいように場を整えよう。といっても、モンスターが入って来ないように魔法による結界をはるだけだけどな。
魔法の一覧を出して、目当ての魔法を探す。
お、これがよさそうだな。
「魔法の記録:絶魔領域」
モンスター避けの魔法としては最高位のものを選んでみた。周囲が一瞬光った後は、何事もなくなっているが、情報によるとちゃんと作動しているらしい。
この【情報の支配者】による魔法の再現だが、どんな魔法もノーコストで使用出来るかわりに、ほぼデフォルトの効果と範囲しか再現出来ない。普通に魔法を使う場合は、発動に使う魔力量を増やすことで威力を上げたり、減らすことで威力を下げたり出来るのだが、この方法だとそれが出来ないのだ。
まぁ、全ての魔法がノーコストで使えるメリットがあるので、別に気にはならないけど
「さてと、今まで使ってきた感じだと、この能力はかなり自由度が高い」
俺の想像通りに発揮されるし、“地獄の黒炎”を使用した時は、文字の色が変わるという気遣いまで出来ていた。優秀過ぎる。自我があるんじゃないかと疑うレベルだ。
とにもかくにも、どんな無茶な想像でも、時間さえかければ出来るハズだ。まぁ、それに関する情報が揃ってればだけども
「とりあえず、今はコイツで試してみよう」
俺が取り出したのはスマホだ。こっちじゃインターネットは使えないが、【情報の支配者】が替わりになるので問題ない。それでも、写真撮影機能とか、録画とか録音とか何かと使える機能が多いので、なんとかならないかと思った次第だ。
そこで、よくある異世界転移ものだと、神様だとかがスマホの燃料を魔力に変更したりしている時がある。俺なら、それが出来るんじゃないかと思った。
「という訳で物は試し」
スマホの燃料の“情報”を、電力から魔力に変える。見た目には変化がないが、魔力を流し込んでみると、みるみるバッテリーが回復していく。
成功だ。後は、様子見しながら駄目だったら次の手を考えることにした。
「お次は、現在の森の状況を見るか」
先ほどのマップを出してみると、先ほどとはかなり状況が変わっていた。いくともあったモンスターの群れは、3分の2くらいに減っていた。
いや
というか、現在進行形で減っていっている。物凄い速度で動いている一つのマークが、モンスターの群れに突っ込んでいって、ものの数秒で全員倒すと、再び凄い速度で動き出した。
「やってる。やってる」
どうやらアーサーは精力的に働いているようだ。それにしても、驚異的なスピードだな。速度に特化してると言われても信じられる速度だ。
ん? 今気づいたが、コイツ時々止まっては数十分ほど動かない時があるんだけど……もしかするけど、ポージングしてるんじゃないよな? いや、アイツのことだからありえるな。
「まぁいいか、失敗はしないだろ」
あんな奴だが、実力はそうとうなものだ。ステータスを見た限りじゃ、一回世界救ってるみたいだし。
マップを閉じて、そろそろ時間も丁度いいので昼食を食べることにする。といっても、朝と同じく焼いた魚だけれどね。
暫く待っていい感じに焼けたのを食べようとしたら、残像を残しながら光が飛んできて、魚を一本かっさらっていった。
「休む時は休まないとねッ!」
「お疲れさん」
焼いた魚をさした串を持って、歯をキラリとさせるアーサー。持ってるのは焼いた魚なのに、妙に絵になる。無駄なイケメンさがうざい。
とりあえず無視して食べる。
「そういや、全部片付けたのか?」
「一応ね。まだ残ってるかもしれないけど、殆ど倒したと思うよ」
「ふーん」
「早めに気づいて良かったよ。あのままだったら、すぐそこの王都アルマに向かってたかもしれないしねッ!」
「ちょっと待て」
え? 何? すぐそこに人間の住んでる町あったの? それが分かってれば、調味料とか食材とか入手しに行けたのに………
とりあえず、アーサーから情報収集することにする。
「え? でも、レツくん魔人じゃない」
「あ、それで聞きたいことがある。魔人ってなんか特徴とかあるのか?」
「うん。先ずは、濃い魔力がただ漏れになってることかな? 魔力に精通してる人なら遠い所からでも感じるほどだし、常人でもおかしいと感じるレベルで」
へぇー。まぁ、魔力なら【永久機関】に無理矢理押し込めばなんとかなる。そういう使い方も出来るみたいだし。
「後は、目が赤いんだよ」
「? それぐらいなら、普通じゃないのか?」
「ううん。凄く鮮やかな赤色なんだよ、紅とも言えるね。血のような赤色だよ」
「嫌な言い方するな。ま、それぐらいならなんとかなる」
「え?」
「ほら」
「………本当に無茶苦茶だね」
ただ漏れになっていた魔力を【永久機関】に押し込んで、目の赤色の情報を黒色に変更。さらに、もしかしたら鑑定持ちがいるかもしらないので、ステータスの魔人と表記されている所を、人間に変えておいた。これでバッチリだ。
「これなら大丈夫だろ?」
「完璧も完璧だね」
「うし! 明日にでも行って調味料とか買ってこよう」
「お金はどうするの?」
「途中モンスターでも倒して、それを売って資金にするさ。後、この服」
「成る程ね」
今日の所は、他に穴がないか調べたりすることにしよう。明日は、異世界来て初の都市に行こうか。




