5.無茶苦茶=便利
「ふぁ~。以外と寝れるな」
異世界2日目。
昨日は、肉体的にも精神的にも疲れていたため、生活環境を整えると、直ぐに寝てしまった。まだ日が出ているうちだったが、洞窟内はそれなりに暗かったので以外と寝られた。
まだ空が白んでいるので、かなり朝早い時間帯のようだ。
ぐぅ~と、果物ぐらいしか食べていない俺の腹が、正直に空腹を訴える。
「あぁ゛ー、だるい」
「やぁ! よく眠れたかい?」
声をかけられたので隣を見ると、眩しいくらいに輝いている無駄にイケメンなゾンビが、歯をキラリとさせていた。
朝が弱く若干イライラしていた俺は、さらにムカつく存在のせいで頭まで痛くなりだしたので、無言で手加減なしの蹴りを放つ。
「ぐはぁ!?」
「ちっ。朝からうっとおしい」
突然の蹴りに反応出来なかったアーサーは、顔面で地面を削りながら滑っていった。
うっとおしい光が無くなったので、大きく伸びをする。イライラはまだ収まらないが、アーサーを蹴ったことで若干スッキリしたので大丈夫そうだ。
「ちょっとレツくん。朝から酷いじゃないかッ!」
「あぁ悪い。朝だといつも以上にうざかったんで」
「それは普段からうざいということかい!?」
「いえす、いえす」
「酷いッ!?」
うちひしがれるアーサーを無視する。どうせ直ぐに立ち直るだろうしな。
川に行って顔を洗う。大分覚醒してきた。さてと、さっきから空腹を訴えるこの腹をなんとかしよう。朝食は、やっぱり魚のほうがいいかな? 腹を満たすために何匹も取ったほうがいいな。
「レツくん。腕捲りまでしてどうしたんだい?」
「やっぱり復活早いな、朝食を取るんだよ」
「ならば、僕も手伝おうッ!」
といっても、アーサーにしてもらうことは特にな………いや待てよ、確かアーサーは【雷魔法】を持っていた、それを使えば魚を楽に取れるかもしれない。
よし、試してみよう。
「アーサー、弱めの【雷魔法】を川に向かって放ってくれ」
「了解ッ! “電撃”」
アーサーの手からバチっと電撃が飛んで行き、川に当たる。電撃が当たった川はバチっと一瞬放電した。
少し待つと、ぷかりぷかりと魚が何匹か浮かんできた。予想通り、感電した魚が浮かんできた。
「成る程ね! これは大量だッ!」
「あぁ、ちゃちゃっと取って焼いて食おう」
ということで集めたのだが、ここの魚毒持ちばっかなんですけど………
「これじゃあ食べられないね」
「いや、毒のある部分の情報があるから、そこだけ切り分ければいいし………いや、面倒だから毒があるって情報消すか」
「……君の能力って滅茶苦茶だね」
便利だからいいだろ、別に。
腹を裂いて内臓を取りだし、川で血を流す。枝で作った串にさくっと魚を突き刺す。
さて、焚き火だが、これはアーサーに【火魔法】でさくっとつけてもらう。
「“発火”」
ボッと、火が集めておいた枝についた。アーサーに礼を言って、串にさしておいた魚を焼いていく。一部アレな色の魚もあったけど、味のほうは問題なかったのでいいか。
腹が減っていたので、手が止まらない。次々に食べていき、それにともない焼き魚が消えていく。そこで気づいたが、アーサーも食べている。両手に一本づつだが
「ゾンビって餓死するのか?」
「いいや、食べなくても問題ないよ」
「じゃ、なんで食べてるんだよ」
「趣向品だよ、趣向品」
「あっそう」
魚は食べ終わってしまったので、デザートに果物を食べる。
「そういえば、よく石の床で寝られたね」
「ん? あぁ、それはこうして……」
転がっていた石を持って能力を行使。すると、手に持っていた石が柔らかくなった。なんてことはない。石の“硬い”という情報を、“柔らかい”という情報に変えただけだ。この便利能力は範囲指定も出来て、一部分だけ変えることが出来るのだ。
勿論、世界中の石の情報を一瞬で変えることも可能だ。
ま、やらないけどね
「そんなわけで、切り出した石を掛け布団と同じくらいの柔らかさにして、他にも枕用とか」
「………本当に無茶苦茶な能力だね」
便利能力を行使して何が悪いというのか、まぁ、あんまり使い過ぎると溺れそうなので、大きすぎる情報の改変は、ガチの緊急事態のみにしよう。
魚も食べ終わったので、お次は生活環境を本格的に整えにかかろうと思う。
「先ずは、洞窟の中だな」
「リフォームってやつだね! 僕の光輝くセンスが役立つハズだよッ!」
「俺は落ち着いた感じが好きだから、お前に手を出してほしくないんだけど……」
「成る程、落ち着いた輝きだねッ!」
「こいつ、話聞いてたのか?」
それよりも、明かりとかどうしようか………蝋燭とかあれば便利なんだが、そんなものはない。別に寝るときだけ洞窟使って、後は外で作業するとかでもいいんだけど、雨の日とか夜中作業する時に困る。
うーん。何かいいものはないものか………あ、アーサーに聞いてみよう。
「アーサー、明かりになるもの何かないか?」
「明かりになるものかい? この僕の輝きなんてどうかなッ!」
おそらくだが、≪特殊能力≫か≪アーキタイプアビリティ≫を使って、周囲ごと自分をキラキラと輝かせるアーサー。能力の無駄遣いって、こういうことを言うんだな。
とりあえずムカついたので蹴り飛ばしておく。
「ファンタジー風異世界なんだから、それっぽいアイテムとかないかな? そういえば、光ってる花があったが、アレは使えないか………」
まぁでも、たくさん集めればなんとかなるかもしれない。
「レツくん! 光る花で思い出したよ! 光石なんてどうかな?」
コイツ、もはや蹴られることはどうでもいいのか?
「で、光石っていうのは?」
「文字通り、光輝く石のことだよ、ま、僕ほどではないけどねッ!」
「あぁはいはい。とりあえず、探してみますか」
探すといっても、【情報の支配者】を利用して、探索マップのような形で調べるのだ。周辺の地形の情報を収集して、3Dマップのように表示させる。この能力気がきくね、思ったら自動的にやってくれたよ。
そこから光石を検索。
あらら、結構深い所にあるな。
「穴掘れる魔法とかあればいいんだがな」
「【土魔法】にそういう魔法があるけど、僕も冽くんも持ってないしね」
「じゃ、無理矢理やるしかないか」
やり方は簡単。“掘る”、“掘削”するという情報を具現化させて、手を光石のある場所の真上の地面に翳す。
「あそれ」
「えぇ………」
物凄い勢いで土が掘られていく。ちなみに、土のほうは穴の外に山のように積み重なっていく。暫くたつと、穴の底が光っている。
あれが光石のようだが、どうやって回収しようかな。
うーんと悩んでいると、ふと、蜘蛛の巣が目に入る。よし、これでいこう
「糸の記録:蜘蛛の釣り糸」
指の先から、ひゅっと糸のようなものが出て、光石にくっつく。糸の強度と粘着性は蜘蛛の糸以上なので、一気に引っこ抜く。
ポーンとかなりの大きさの光石が取れた。これを切って、光源にしよう。
「たまに魔力を込めないと、光らなくなるからね」
「了解」
「それと━━━」
「ん?」
なんだ?
「なんで蹴るんだいッ!?」
「今頃かよっ!?」




