4.英雄譚は始まらない
「アーサーは、何処で寝てるんだ?」
「前も疲れにくかったんだが、ゾンビになってからより疲れなくなってね。夜も輝いてるのさッ!」
「ようは寝てないのか」
「その通りッ!」
アーサーはそれでいいのかもしれないが、俺はそうはいかない。魔物となったようだが、魔力が過剰に身体に溜まった人間らしいけどね。モンスターも、そんな感じらしい。
って、それでなんで人類共通の敵になるんだよ、と思ったが、どうやら魔力とは力の根源のようなものらしく、それが過剰に身体にあることで全能感が出来たりして、同じだった人間を痛めつけようとしたり、殺そうとしたり……そういうことが快感に感じるらしい。
どんなドラッグだよ、おい。
「勿論、理性を保った魔人もいる。というか、手っ取り早く強くなるために魔人になる人もいるしね!」
「じゃ、魔人全員が悪ってわけじゃないんだな」
「その通りさッ! といっても、理性を保ってても隠れ住んでいたり、社会に紛れこんでたりしてて、堂々と歩ける魔人は一人もいないよッ!」
「魔人に優しくねぇな」
ま、基本人を襲うんなら仕方ないな。ん? 俺に全能感はないのかって? ないです。というか、前と変わった所が無いように感じる。そもそも、【永久機関】によって無限に魔力が上昇してくんだから、魔力に対する全能感もクソもない。
さてと、出来れば人と交流を持ちたいが、今の所は出来ない。
「とりあえず、洞窟があれば一先ずそこで寝泊まり出来るんだけどな」
「うーん。確かどこかにあった気がするけどね」
「だいたいの場所は分からないのか?」
「えーと……」
暫く考えるらしいアーサーを置いておいて、俺は周囲を見ながら食べられそうな物を探す。こういう場合、毒とかには気をつけないといけないだろうが、俺は毒があるかどうかなんて一発で分かるので、そこは気にしなくていい。
というか、この森毒持ってる果物多いな。
「林檎の味するみかんて………」
「うん?」
「いや、なんでもない」
正直違和感しかないのだが、食べられるから別にいいか。他にもいくつか果物と木の実、それに山菜のような物を採取する。
で、こうしてこんな森で歩いていたら、会いますよね、うん。
「ブヒヒヒ」
「豚人間?」
「オークだよ」
「あぁ、オークか」
現れたのは、豚頭で太ったデカイ人間が現れた。一瞬豚人間かと思ったが、異世界ファンタジーのありがちモンスターの中では、ゴブリンと一二を争うオークだったようだ。
んで、なんか囲まれてます。
「後ろは任せた」
「了解」
前方にいる五体のオークに向き合う。それぞれが、こん棒や鉈、ハンマー等を持っている。それにしても、ここの生態系ってどうなってるんだ?
「この数に武装したオーク、グレイトウルフ・ホワイトに、下級竜………生態系がめちゃくちゃになってる、何が起こってるんだ?」
「おーい、変なフラグたてんな!」
「フラグ? よく分からないけど、僕がいるから安心さッ!」
「逆に心配」
さてと、どうやって倒すかね? ま、色々戦闘方法を生み出すために、このオークを使うか。悪いが、付き合ってもらうぜ。
「ブヒィィィィ!!!」
「おっと」
降り下ろされたハンマーを、後ろに飛んで回避する。魔人になったせいなのか、異世界に来たせいかは分からないけれど、なんか身体能力上がっとる。
さてと、この俺の≪アーキタイプアビリティ≫【情報の支配者】だが、既存する情報を全て知ることが出来る。それは、過去と現在だけ、“未来”の情報までは知ることが出来ない。しかし、予想された情報なら知ることが出来る。それは、未来予知といってもいい。
「未来情報:危機予測」
次の攻撃の軌跡が表示される。それを避けるように身体を動かすと、表示された通りに武器が通過した。
予測通りだ。俺は、挑発するように笑ってみせる。怒ったオーク達が攻撃してくるが、それすらも俺には分かる。これが達人だったなら、フェイントとかで突破できるだろうけど、こいつらは攻撃するしか脳がないからな。
「どうした? そんな調子じゃ俺を倒せないぞ?」
『ブヒィィィィ!!!』
五人からの一斉攻撃も、軽々と避けていく。なんだろう、ここまで上手くいくと、戦闘の才能があるのかと自惚れそうだ。
さてと、そろそろ一人倒すか。
「刃の記録:賽の目斬り」
指と指を交差させて振るう。それだけで、オークの一体が全身賽の目状に切断された。これも使えるが、エグいから暫く死蔵しよう。
なんか知らんが、精神力も前より上がってるのか? 向こうにいた頃ならグロいのは無理なのだが、こっちに来てから耐えられるようになった。吐き気はするんだけどね
「ブ、ブヒ?」
「どうした? 急に萎縮したな、まぁ、逃がさないけどな」
お次は、遠距離攻撃といこうか。
「刃の記録:燕」
指から放たれたのは、全てを斬る空飛ぶ刃。真っ直ぐ進んで行くそれは、残りのオーク達を真っ二つにし、そのまま木々を切断していく。
やっべ、周辺被害が酷いな。消えろと念じると消えたが、この木はどうするかな? まぁ、なんとか出来るか。
「治療の記録:再生」
元には戻せたが、下の切り株から再び生やさせたから、上の部分は残ってしまっている。とりあえず、何かに使えると思うので全部回収する。ま、切っちゃったの俺だしね。
「終わったかい………って、凄惨なことになってるね」
「あぁ、今綺麗にする」
オークは特に使える所は無いそうなので、炎の情報を実体化させて焼き付くし、匂いや残った汚れなどは消臭の情報と、清潔の情報で解決しておいた。
オークも倒したので、再び寝泊まりできる所を探して歩く。
「あ、あれ! あれはどうかな?」
「ん? 洞窟だな」
洞窟を見つけたので向かってみる。
中を覗き込んでみたが、特に何もいないようだ。まぁ、いたとしても好戦的なら倒していたが。とにかく、ここなら雨風も防げるし、水の流れる音がするので、近くにはどうやら川があるようで丁度いい。
さてと、一応はここを生活の拠点にして、ゆくゆくは快適な空間を作りたいものだ。
しかし………
「よし! 家も見つけたし、いよいよ英雄譚の始まりだねッ!」
「いや、家じゃないし、英雄譚も始まんねぇよ」
コイツがいるからなんか不安だ。




