6.なんかいる
今年最後の更新を、『Miracle World Online』と共に
「はぁ」
「レツ兄どうしたの?」
「ため息~」
アルマでの用事を済ませた俺達は、知り合いの幾人かにまた暫くしたら来る事を伝えて、森への帰路を歩いていた。まぁ、道なんて無いんだけどね。
この道中で俺は何度もため息をついていた。何故かと言うと、前回の銅像の件もあって、アーサーが何かやらかしてるんじゃないかと心配しているのだ。グレンがいるとはいえ、奴のぶっ飛び具合をグレンが抑えられるかどうか…………
「憂鬱だ……」
「早く帰ろっ!」
「早く早く~」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ミラとユフは俺の腕をぐいぐい引っ張る。何も起こっていませんように。
拠点に近づくに連れて、話し声のようなものが聞こえてきた。いや、これは笑い声か?
「あれ? 知らない人の声がする?」
「何?」
「ほんと~?」
ミラが小首を傾げて言う言葉に、物凄く嫌な予感がする。ユフも一緒になって小首を傾げているが、二人共そんなことをしている場合じゃない!
二人を小脇に抱えて急いで拠点に向かうと………
「ははははは! そんな事があったのであるか!」
「そうなんだよー。あの時は驚いたよ、山じゃなくてカタツムリなの!? ってさー」
なんだそのカタツムリ………ってそうじゃなくて誰だコイツら!
拠点には、疲れた顔をして座るグレンと、笑いながら話をするアーサー。そして、白銀に煌めく鎧に身を包んだ骸骨の集団だった。
………これは流石に予想外だぞ。あの野郎、人外を仲間に引き入れやがった! あ、俺もアイツも人外だったわ。って、それとこれとは関係ない! 何やってんの!? ほんと、何やってんの!?
ミラとユフが、骸骨が喋ってるー。と、不思議そうにしている。とりあえず二人を下ろして、アーサー達に近づいて行く。
「あ、レツさん」
「え? 本当だ! レツ君お帰りー」
「“お帰りー”………じゃねぇ!!!」
俺は【魔王紋】込みの蹴りをアーサーに当てる。ゴフっという声とともに、アーサーが洞窟の中まで吹き飛んでいった。少しは気まずそうな顔とか、申し訳なさそうな顔とかしろよ! 満面の笑顔でいるんじゃねぇ!
骸骨の集団が呆気に取られている中、アーサーは、「痛いよー」と言いながら洞窟から出てきた。
「レツ君何するのさ」
「おいこら。今度は顔面が人では無いナニかになるまで殴ってやろうか? この骸骨連中はなんだ」
「あぁ、この人達のこと? 森で会って仲良くなったんだよ」
俺はバカゾンビから話を聞くのを諦め、グレンの方を見る。ミラとユフからアルマの話を聞かされていたグレンは、俺の視線に気づいて気まずそうに事情を話す。
なんでも、一人で素振りをしていたら、いつの間にかどっかに行っていたアーサーが骸骨集団を連れて帰って来たらしい。
「何度か、レツさんが帰って来る前にお別れしましょうって言ったんですけど………」
「この人達も困ってたんだよ! この姿じゃ人間の国には入れないからね!」
この骸骨集団、骨人族というらしい。アーサーの屍人族の骨だけバージョンだそうで、魔物のスケルトンとは違うから注意と言われた。
と、ここで一番大柄で鎧も豪華な骸骨の人が出てきた。もしかして、この集団のリーダーかな?
「自己紹介が遅れたのである。我輩は━━━」
と、自己紹介に入りかけた時、グレンとアーサーが「ちょ、待!」って言いだしたんだが、どうし━━━━
「食物連鎖の頂点にして、強大なる力と巨大な体躯を持つ伝説の古代龍を討伐し、さらに吹雪吹き荒れる白き山よる来た獰猛なる氷の怪物を倒し、それに加え大海よりいでた島をも食らうクラーケンを屠り、世界最強と謳われたとある大帝国の軍勢を打ち破り、空の彼方よりやって来た残虐なる異教徒を退け━━━━」
え、ちょ、長くない? え、これ自己紹介なの?
それから三十分ほど、自己紹介というか、自慢話というか、なんというかが続き
「それに加え、邪神を復活させようとした邪教徒の計画を食い止めた、嘗て大陸随一と言われたラグナレス帝国の由緒ある聖騎士団騎士団長の━━━」
って、今までの肩書きだったんかい! しかも騎士団の方のかよ! もしかして、当時もこの長い肩書きだったのか? 普通にラグナレス聖騎士団騎士団長でよくない?
それでも長いけどさ。
「オズグレイディアルバーク・エルディエスト・シャングヤナである」
名前も長っ!? その後他の人達は名前だけ名乗ったが、此方も長かった。
「長いですよね、すみません。ですが、略称や愛称は止めて頂けると嬉しいです。我が国は………といっても、もうありませんが、自分の名前にはかなりの誇りを持っていますので」
覚えられんと思っていたら、副団長と名乗った人がそう言ってきた。それだと、呼ぶのは不可能に近い気がするんだが………
ちなみに、アーサーとグレンは肩を叩いたりして、話しかける人なんかを特定していたらしい。
「じゃあ、とりあえず騎士団長を骸骨団長にして………」
副団長は副団長。後は無理っと言うと………
「骸骨団長………で、あるか。名前を略されるよりはましではあるが………」
「贅沢は言えませんね。他の団員の事は、肩を叩いたり適当に呼んだりしてください」
最悪、額に番号でも書きます。と言う副団長に、宜しく頼むと言っておく。他の団員は、えー! と言っといたが、無視する。見分けのつかない骸骨集団に、一々別の名前つけられるか。
「あ、そういやこっちの自己紹介がまだだったな。俺はレツ。で、そっちの二人が━━」
「ミラだよ! よろしく骸骨団長!」
「ユフ~。よろしくね~」
ミラとユフの二人が手を上げて元気に挨拶する。
「うむうむ。元気が良くて大変よろしい。これから、宜しくなのである」
あ、そういやもう受け入れる気になってるな。まぁでも、追い返すってのもなぁ………
仕方がないので本人達が自主的に去らない限り、好きにさせる事にした。ざっと見た感じ、悪い“情報”は無いみたいだし大丈夫だろう。
こうして、新たに骸骨の騎士団が仲間になったのだった。
略称、愛称はダメ。しかし、名前に関係無い渾名はオーケー
屍人族や骨人族の詳しい説明は、もう一つある似た種族が登場した時に説明しようと思います。




