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4.奴隷商人と











さて、どう来るかな?



「その奴隷を私に返せ」


「奴隷?」



おいおいおい、こんな往来でドストレートに言ってくるとは……流石は下っ端(・・・)。さて、ここはしらばっくれるのが吉。なんせ、向こうには証拠なんて無いのだから。



「なんの話かさっぱり分かりません」


「惚けるな! その二人は確かに私の奴隷だ!」


「奴隷と言われましても………この二人は海の向こうにある故郷から連れて来た、妹みたいなものです。貴方の奴隷な訳がない。それに、見ての通り奴隷の証の首輪もしていない。ですよね? 皆さん」



俺は、周りの人にも見えるように二人の首を見せる。俺が外したので、隷属の首輪は着いてないし、痕もない。それを見た周りの人達は、男の方を怪訝そうな目で見始めた。


これは勝ったな。



「ぐっ! だが、確かに私の奴隷だ! 首輪は貴様が外したのだろう!」


「そんな事出来るわけ無いじゃないですか! それに、この二人が貴方の奴隷というのなら、主人としての証を持っていますよね?」


「そ、それは……」



無い事は【情報の支配者】で分かっている。コイツは、隷属の首輪を三人に着けてはいたが、仮契約すらしていなかったのだ。これが、仮契約していたら此方が多少不利になってはいたが、コイツがバカだったために、俺達の勝ちは確定していたのだ。


男はそれ以上は無理だと分かったのか、憎々しげな表情をしたまま去って行った。


さて、奴らは諦めるかどうか………来るとしたら夜かな。



「兄ちゃん、災難だったな」


「まぁ、なんとかなったようで良かったです」


「気を付けろよ? 強硬手段を取って来るかもしれないからな? なんだったら、今日の所は事情を話して衛兵の詰所に泊まるっててもある」



事の次第を見ていたおじさんから、そんな提案がされたが、流石に他の人を巻き込む事は出来ないし、能力の事がバレるのも不味いので、礼だけ言って断っておいた。


「何かあったら頼るんだぞー」と言うおじさんと、その言葉に頷く皆さんにありがとうございますと告げて、ミラとユフを連れて宿に向かう。


以前に泊まった“燕の止まり木”に向かう。いい宿だったし、知ってる所の方がいいしな。受付のイケメンさんは俺の事を覚えていた。そして、エバンスさんの件がまだ続いているのか、また無料にしてくれそうになったので、断っておいた。


日本人だから、流石に遠慮するよ。



「よし。とりあえず荷物を仕舞ってと」


「ベッドだ! ふかふか!」


「いい気持ち~………Zzzz」


「寝るなユフ」



ふかふかなベッドに興奮する二人。しかし、寝るなユフ。さてと、とりあえず夕飯まではだらだらするかな。





















さて、ミラとユフはお腹が膨れるまで夕食を堪能し、今は幸せそうな表情で眠っている。俺はというと、これから来る誘拐犯達を待ち伏せ中だ。


何もしなければ見逃してやったのに、それほどまでに欲しいのか。しかし、奴は正直警戒しなくて大丈夫だ。それよりも、奴が繋がっている存在の方が、今は警戒した方がいい。なんせ、全く情報が無いからな。


と、来たか。



「(ここか?)」


「(あぁ、いたぞ)」


「(さっさと終わらせようぜ)」



やって来たのは三人、大きな麻袋を二つ持っている。男達は二人の寝ているベッドに近づくと、そのまま二人を麻袋に入れた。



「(よし、行くぞ)」


「(おう)」


「(あぁ)」



上手くいったな。本当に大丈夫なのかとひやひやした。俺は、ちらりと眠っているミラとユフ(・・・・・・・・・・)を見る。そう。男達が拐ったのは、ミラとユフではない。魔法によってミラとユフの幻影が写された、ただの丸太である。例によって、魔改造してあるため、幻影に質感もついて気付かれ無さを強化している。


さて、追跡して現場を押さえますか。


マップも使って男達を追跡する。いや、こんな事しなくても情報から本拠地特定出来るな。あ、でもそこ以外に行かれたら駄目か。



「あそこか」



男達は本拠地ではなく、誰も住んでいない屋敷の並ぶ場所の端。誰も来ないような場所にある、寂れた一軒家に入って行った。さぁて、一網打尽にしちゃいますかね。屋根から飛び降りて、一軒家に近づいて行く。



「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ッ!?」



突然一軒家から悲鳴が聞こえて来た。


急いで中に入る。不気味なほど静かな家の中は、暗く、明かりの一つもない。さてと、警戒しつつ進んで行くか。


気配と姿を消した状態で進む。途中にあった部屋の扉を、ゆっくりと開いて中を見る。その部屋は静かだった。ただ、壁は血で真っ赤にそまり、床には血の海に崩れ落ちた首なし死体と、恐怖の表情を浮かべたままの首が転がっているだけだった。



「………」



なんだこれは。人がやったのか? 背中がゾワゾワする。


部屋の扉を閉めて、別の部屋に向かう。そこから暫く他の部屋を見て回ったが、何も無い部屋か、最初の部屋と同じような部屋しかなかった。


後は、庭か━━━



「助けて、助けてくれ! なんでもする。なんでもするぞ!」



庭に行ってみると、例の奴隷商人の男が尻餅をついて後ずさっていた。その男が話しかける方には、何者かの影がある。暗くてどんな姿をしているか分からないが、あの人物があの殺戮行為を行ったのだろうか? だとしたら、危険人物として知っておいた方がいいな。



「頼む! たすけ━━━━」



男は最後まで話すことは出来なかった。気がついた時には、男の首が宙に飛んで、男の体から血が大量に吹き出していた。



「………」



おいおいおい。あいつ何をしたんだ!? 初動が全く見えなかったぞ。これは、危険人物とかそういうレベルを超えている可能性が高い。最悪、アルマに被害が出ても倒さなきゃいけないかもしれない。


【情報の支配者】は発動していない。どうやら、しっかりと姿を確認しなければいけないようだ。もうすぐ月が雲から出る。そうすれば━━━━



「んん? そこに誰かいるよね?」



バレた!? 感知系の能力まで持ってるのか? 警戒しつつも、姿を表す。



「なんで分かった?」


「勘……かな? 本当にいたんだね」



女か? イタズラっ子のような無邪気な声が聞こえる。と、月が出て来て、影を照らした。くすんだ金色のショートカットに、光っているかのように見える、緑色の瞳。そして、何故かメイド服を着ていた。


姿がしっかり見えた事によって、奴の情報が入手出来た。それを素早く確認する━━━━なっ!?


驚きが顔に出ないように注意する。奴の能力もそうだが、正体に驚いた。その名前(・・)は、ついこの前聞いた。



「魔王の配下が何してる?」


「………へぇー。分かるんだ」



ちょっと驚いたという顔をして、目の前のメイド。いや、アン・クルーエルは呟いた。そう、こいつは先日アルマ襲撃を企んでいた奴の連れていた、ホムンクルスを作ったアン・クルーエルだったのだ。


それにしても、最強各の魔王の配下というだけはある。その能力はトンでもない性能をしている。



「これはねぇ、趣味みたいなものかな?」


「趣味?」


「そう。クズを殺すっていうね」



殺戮ではないのか。いや、逆にいいと思うべきだな。誰彼構わず殺すという訳でもないみたいだし。



「で、あなたは誰なの? あのクズの仲間じゃないみたいだし………」



死体を指差しながら訪ねてくるアン・クルーエル。さて、とりあえずは敵対しないみたいだし、本当の事を話すか。



「俺の知り合いが連れ去られそうだったんでね。監視しようと思って来たんだ」



めんどくてちょっと変えてしまったが、まぁいいか。



「ふーん。ま、いっか。そろそろ帰った方がいいし━━━」


「やる気か?」



俺は睨みながら告げる。そもそも信用出来る要素がないな、安心してバカみたいだ。でも、一応聞いておく。



「あはっ。君、凄いね。名前は?」


「………レツだ」


「レツ……ね。覚えておく」



アン・クルーエルは、それだけ言うと夜の闇に消えて行った。転移したようで、反応事態が綺麗さっぱり消えている。一先ず、大丈夫という事でいいだろう。


俺は、大きく息を吐くと、宿屋に帰った。











余談だが、後日屋敷の惨状が発見された時、死体の側に富貴菊(シネラリア)が置かれていたらしい。そして、それを知らされた住民達は、何処と無くホッとした顔をして、それまでの不安そうな表情を消していた。


そっち方面でも有名なのかよ。






アンは、クリエイターとしても悪人殺しとしても、世界中で有名です。その殺し方から、“首狩り冥土”とも呼ばれることもあります。

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