21.アニメ
「…………」
無言で木刀を振る。
「…………」
真剣な表情をしてただ振る。
「飽きた」
「うん。飽きた」
「だな、飽きるな」
グレンの木刀振りを暇潰しに見ていた、俺、ミラ、ユフの三人は、開始してから五分ほどで飽きがきた。
なんでグレンが木刀振りをしているかというと、ただ単純に強くなりたいから、だそうだ。心境はもう少し複雑だろうけど、まぁそこはいいか。
で、教師役はアーサーだ。
「いいね、いいね。後はもう少し輝けるともっといいね!」
「か、輝く?」
剣の指導は上手いは上手いのだが、余計な一言を言うときがある。その度にグレンは困惑するのだが、無視していいんだぞ、無視して
さて、暇になった此方はどうするか………とりあえず、昼食は肉にするつもりなので、夜の分の魚は、午後上流の方に捕まえに行けばいい。
よし。ちょっと本気を出してみよう。
「何ソレ?」
「何? 何?」
「魔法の道具だよ」
スマホを取り出したら、ミラとユフの二人が興味深げにスマホを見出した。指で突っついたりしているが、反応はない。電源入れてないしな。
………
数分の準備の後、スマホを起動する。
「わっ!」
「ひゃっ!?」
突然画面がついたことに驚いたのか、ミラとユフが俺の背中に慌てて隠れて、少し顔を覗かせて恐る恐るスマホを見た。それにちょっと笑いながら、指を動かして目論見が成功したか確かめる。
スマホから突然音がしたのに二人が驚いて再び隠れたが、暫くしたら顔を輝かせながらスマホを食い入るように見始めた。
「成功だな」
【情報の支配者】見たモノの情報を全て知れる。それは、最初から知っている自分のことも例外ではない。その証拠に、覚えていないことも情報として知ることが出来るのだ。
ここに来てからの事は勿論のこと、前の世界のことも…………
つまり、何が言いたいかと言うと、だ。
「凄い! 凄い! どうなってるの?」
「この四角いのが喋ってるの? 絵が動くのはなんで? なんで?」
俺の記憶の中にあったアニメを、スマホで見られるようにしました。
いやー、本当チートだわ。俺が覚えていないシーンや、うろ覚えの作品も完全に再現しているし、ちらっとしか見ていないものや、名前やポスター、CMでしか見たことのない作品でも、前の世界にいた最後の瞬間までに出来ていたものならば、再現出来るようだ。つまり、未公開でも出来ていれば見られるわけだ。
マンガや小説なんかも再現出来るようだし、暇潰しにはうってつけだな。
そのうちスクリーンなんかも作るか再現して、大画面で見たい。
「何見てるんだい?」
「アニメ。俺が元いた世界にあった娯楽だよ。っていうか、終わったのか?」
「まぁね。ペース配分は大事だからさ」
「ふーん」
当のグレンは、肩で息をしながらスマホの画面を食い入るように見つめている。アーサーも、興味深そうに画面を見ている。
俺は一度見たことあるので、スマホを渡して四人の反応を見てみる。
「あぁっ!」
「危ない!」
「右だよ、右!」
「いや、ここは後ろ!」
画面の中のキャラには届かないのだが、子供のようにキャラに危険を伝えている。いやまぁ、アーサー以外は子供だけど。その後も、「おぉっ!」とか、「いっけー!」とか歓声をあげたりしている。
これは、当分スマホから離れないな。複製とか出来ないかな? ………なんで必要素材なんて出てくるんだよ。それほど貴重なのか?
「鉄、金、プラチナときて、ミスリルにオリハルコン? ミスリルにオリハルコンは代用品なのか」
ミスリルやオリハルコンを使ったほうが性能が良くなるらしい。魔道具扱いなのか? とにかく、直ぐには複製出来ないようだ。というか、素材集めても作れないよな、いや、作ろうと思えば作れるか?
“増加”とか、“倍加”とか、“分身”とかの情報つけたら増えないかな? 増えないか。
「レツくん! 続き、どうすればいいの?」
「いい所で終わったから早く!」
「次見たい!」
「見たいー」
「はいはい」
スマホを受け取って次の話をつけて渡すと、ワクワクした表情をして再び見始めた。
「さて、時間も丁度いいし俺は昼食の準備をしようかな」
とりあえず、大根、人参、じゃがいもを切って、水を入れた大鍋にいれて火にかける。その間に、ベーコンを切りキャベツなんかを千切っておく。
沸騰するまでに、肉を切って塩胡椒をかけ、別の火にかけた油を引いたフライパンに入れる。
沸騰した大鍋にベーコンとキャベツを投入、少し出ていた灰汁を取っておく。大鍋を気にしながらも、フライパンに入れた肉を焼いていく。大鍋に途中でコンソメみたいなのを投入。
肉の焼けるいい匂いにつられて、アニメを見ていたメンバーがチラチラ此方とアニメを見ながら、此方にやって来た。
「レツくん、一旦止められないかな?」
「ん」
片手を差し出してスマホを受け取り、一時停止してやる。
再び料理を再会する。幼女二人が涎をだらだら垂らしながら見ている。グレンのほうは、ごくりと唾を飲み込んだ。アーサーは、そわそわと出来るのを待っている。
「よし、出来たぞ」
全員に出来た肉とスープ、それにパンを渡した。貪るように食べる獣人三人と、優雅にトンでもない速度で食べるという、矛盾な食べ方をするアーサーに苦笑しつつ、俺も食べていく。
「「「お代わり!」」」
「はいはい」
多目に作っておいて正解だったな。元気よく器をつきだしてきた三人を見ながら、俺はそう思った。
……………
っていうか、なんでお前もそっち側になってんだよ、アーサー。




