20.増えた
「だって、この子達は奴隷だから」
奴隷? 意味は理解できるが、本当にあるのか………王都アルマでは奴隷は見かけなかったので、この異世界にはいないと思ったのだが………
気分のいい話ではないな。
「ちなみに、犯罪を犯したものか、借金や生活苦がほとんどだね。犯罪を犯した者はともかく、借金や生活苦のものは身分が保証されるよ。変わったお仕事みたいなものだね」
「そうか、思ったほど酷くないんだな」
「うん。どういった経緯で森に迷い込んだかは分からないけど、主人の人の所に帰してあげないとね」
「オーケー。そういうことなら任せろ」
帰してあげるため、そして、もし主人が駄目な奴なら、なんとかしてあげようと思い三人の情報を見たのだが………
「ひっ」
「ちょっとレツくん。顔怖すぎ」
「………悪い」
どうやら、顔におもいっきり出てしまったようだ。とりあえず、後ろを向いてさらに詳細な情報を調べていく。
………奴隷が酷ではないと思ったら、コレだよ。
「アーサー。奴隷っていうのは、契約することで初めて主人になれるんだよな」
「そうだよ、それにはアイテムが必要だけどね。奴隷側なら、この子達みたいに首輪とか、もしくは腕輪とか。主人の側だったら、指輪や証明書とかだね」
「こいつらは誰とも契約してない」
「え? 逃亡奴隷なの? いやでも、逃亡奴隷が逃げられるケースは………」
調べた結果、契約をする前に逃げた奴隷は逃亡奴隷と呼ばれ、奴隷の期間が長くなるらしい。しかし、奴隷が完全に逃げられるケースは少ない。何故なら、奴隷商と仮契約しているから、逃げた場合、魔道具である隷属の首輪や腕輪によって、活力を吸いとられて直ぐに動けなくなるからだ。逃げられるのは、運が味方した体格のいい大人の男ぐらい。獣人族は人より体力があるらしいが、こいつらはまだ子供、逃亡などできるハズがない。
「というか、隷属の首輪が発動している様子もない…………まさか!」
「あぁ、こいつらは無理矢理奴隷にされてる」
「違法奴隷………この国じゃ禁止されてるハズだよ」
「どれだけ平和な国でも、クズはいるってことか」
最悪な話だ。人を人とも思っていない。
「それで、どうしようか?」
「あぁ、解決するのは簡単だ」
アーサーが難しい顔で解決策を考えようとしたが、俺は軽い口調でそれを遮る。とりあえず、ぱぱっと終わらせてしまおう。
解決方法は簡単。隷属の首輪は、無理矢理は外そうとすると、装備している者に激痛を与え、最悪死に至らしめるらしいが、俺には関係ない。情報を消して隷属の首輪をただの首輪に変える。
さて、後は首輪を外せば完了だが、話してもこの三人は信じないだろうし、外そうとしたら抵抗されそうなので、小さな斬撃を放って首輪を斬って落とした。
首輪だけ斬れるように、調整も自動でしてくれるなんて、【情報の支配者】は本当にチートだな。
「という訳で、こいつらは最初から奴隷じゃなかった。仮に相手がつっかかって来たとしても、知らぬ存ぜぬで行けば、もともと違法奴隷だったから相手も証拠なんぞないから引き下がるだろ」
「流石レツくん! 常識を平気でぶち壊すねッ!」
「お前に言われたくない」
体を光に変換するとか、どこの海賊マンガのキャラだよ。
幼女二人は首輪が取れて嬉しそうにしている。なんというか、奴隷から解放されたことより、首輪が苦しかったから外れて喜んでいるようだ。
そんな二人とは対称的に、呆然として自分の首を触れている少年。
「これで大丈夫だろ」
「うん!」
「ありがとー」
幼女二人は元気よくお礼を言ってきたが、少年は半信半疑な感じで見てくる。
「な、なんで助けたんだよ」
「善意で助けてやったのに、この言い方。なってないな」
「助けて貰った時はお礼を言わなきゃ駄目だよ」
「う………あ、ありがとう………って、そうじゃなくて!」
「「そうじゃなくて?」」
「え? あ、いや……」
大分混乱しているようだ。というか、隷属の首輪を外したから万事解決とさっきまで思っていたが、よくよく考えたらまた奴隷にされる可能性もあるんだよな。
………連れて帰るか? 嫌がったら自由にさせればいいし。
「よし。戻るか」
「って、なんで担ぐんだよ!」
「このままほっといたら危ないから………でしょ?」
「そういうこと。丁度朝食にしようと思ってたから、付いてきたら食べさせてやるぞー」
「行く!」
「ご飯ー」
「おいぃぃぃぃぃぃ!!!」
担いだ少年が叫ぶが、問答無用で運んだ。
串焼きにされている魚と、いい匂いのするスープの入った大鍋を見ながら、幼女二人が涎を垂らしながらガン見している。少年はむすっとしているが、チラチラ見ているから興味がない訳ではないらしい。
あ、そういや………
「自己紹介がまだだったな、俺はレツだ」
「僕はアーサー。アーサー・ロクザンだよッ!」
「ミラ!」
「ユフー」
「………グレンだ」
赤黒い髪色をした兎耳がミラ、一番上から金、銀、青と髪色が変わるふわふわの天然パーマに、くるりと巻かれた角を生やしたのがユフ、銀灰色の髪色をした犬耳がグレン。
「そういや、“調べた”感じだとこの三人がピンポイントで狙われてたが、獣人って珍しいのか?」
「なんか言い方おかしくないか?」
「気にするな、で? どうなんだ?」
グレンが怪訝そうな顔をしたが、スルーする。説明してもしょうがないしな。
「この子達が狙われたのは、多分七希種だからだよ」
「七希種?」
「“月獅子”、“冥虎”、“天狼”、“夢羊”、“獄兎”、“金剛犀”、“聖象”の七種の獣人を指す言葉で、先祖返りとも呼ばれるね」
「成る程。珍しいから………か。どの世界も同じだな。まったく」
地球でも昔人のアルビノでどうこうあったらしいし。どこの世界でもあまり変わらないってことか。
三人がなんの種族なのか気になって調べてみると、グレンが“天狼”、ミラが“獄兎”、ユフが“夢羊”だった。犬じゃなくて狼だったのか。ユフのほうもよく見ると、山羊や羊っぽい耳をしていた。
と、魚が焼けたしスープも出来たようだ。
「ほら、出来たぞ。とにかく食べろ、お前らちょっと痩せすぎだ」
そう。この三人大分痩せているのだ。これじゃあ、免疫力が下がるぞ。
スープと魚、パンを与えると、ミラとユフの二人は凄い速度で食べだし、グレンは恐る恐る一口食べた後、目を見開いて凄い勢いで食べだした。
「美味しっ、美味しっ」
「んぐ……はぐ……むぐ」
「………」
俺とアーサーはその食べっぷりを見た後、顔を見合わせて━━━
「………量増やさないとな」
「………そうだね」




