13.国の始まり
重い瞼を開けると明るかった。まだ日が沈んでいないのか? と思って窓の外に目を向けたら、日が昇っていた。
そう。昇っているのだ。
「!?」
一気に覚醒した俺は、ガバッと起き上がり、窓の外を見る。日の下で人々が世話しなく動いているのが見える。これは、完全に朝だな。
ちょっと昼寝するつもりが、がっつり寝てしまったようだ。それも、朝まで………
別に体は疲れているわけではなかったが、精神的には結構疲れていたようだ。まぁ、いきなりしらない世界にやってきて、モンスターという危険があるなか、森の中で寝起きしていたら、ストレスもたまるよな。結界に見張り、安全面は万全だったが、やはり心のどこかでは不安があったらしい。
この安全で安心な、宿のベッドには敵わないということか。
「んー!!」
なんだか心が軽くなったようだ。大きく伸びをして、軽く体を解す。
そういや、今日予定があったような………あ!!
「ユノとの約束!!」
慌てて今何時か確認しようとしたら、目の前にウィンドウが現れた。そこには、8時半を知らせる文がのっていた。どうやら、約束をすっぽかさずにすんだようだ。
すっぽかさずにすんだとはいっても、約束の時間まであと三十分くらいだ。
自身を“清潔”の情報で上書きし、【次元収納】に仕舞っておいた衣服を取り出して着替える。
紺の長ズボンに、暗めの青いシャツを着る。とりあえず、こんなものでいいかな?
「まぁ、時間もあるし軽く食事をしていこう」
宿に隣接している食堂で、黒パンと具沢山のコンソメっぽい味のスープ、鹿肉のサイコロステーキを食べる。
流石は大商会の運営する宿屋、どれもこれも皆美味しい。黒パンが固かったが、他の客がスープに浸して食べていたので同じようにすると、柔らかくなった。スープを吸って味もいい感じだ。
食事を終えると、だいたい8時45分くらいになっていた。
あと15分。待ち合わせ場所の噴水までは、走って5分ほど。宿から出ると、沢山の人が往来を行き来していた。これは、このまま人混みを走っていたら迷惑になるな。
「こんな時こそ、能力を駆使しないとだよな」
自身の気配を“消去”して、ついでに“透明化”の情報をつける。【情報の支配者】は、相も変わらずチートな能力だ。
姿も消え、気配も消え、誰からも気づかれなくなったので、屋根の上を走って噴水を目指す。魔人の身体能力なら軽々といける。空を跳ぶ浮遊感を味わいつつ、噴水を探す。
「あった」
見つけたので、噴水近くの路地裏に降りて、能力を解除して通りに出た。噴水のある場所は、広場のようになっており、ベンチやカフェのようなお店もあって、人が多い。待ち合わせをしている人や、楽しく喋るカップルが多い。
噴水の周りを歩いていると、見知った白い髪が見えた。
「ユノ」
「レツさん!」
近寄って話しかけると、ユノは嬉しそうに笑った。
ギルドの制服とはうって変わって、白いブラウスに薄い桃色のショールをかけていて、水色のスカートを履いていた。メイクは、軽くグロスで唇に艶を出しているだけのようだが、それだけで十分魅力的に見える。元々、派手なメイクの女性は苦手だしな。
「待ったか?」
「いえ、さっき来たばかりですから」
「そうか。それにしても、ギルドの制服とはまた違った魅力があるな、よく似合ってる」
こういう時は褒めたほうがいいのは、高校時代仲の良かった先生から聞いている。とにかく、褒めればなんとかなると。といっても、俺はどこを褒めれば一番いいのか分からないので、全体的に褒めることにした。
これで大丈夫だよな? 恐る恐るユノの表情を伺う。
「あ、ありがとうございます」
赤く染まった頬を両手で押さえたユノは、嬉しそうに笑っている。良かった、上手くいったようだ。
「それじゃあ、行きましょう」
「あぁ、宜しくな」
「はい!」
ユノと二人、連れたって歩く。ユノがまず案内してくれたのは、今いる中央の噴水の広場から行ける、五つの大通りの一つ。
目の前に城が見えるその大通りは、安い物から高い物、飲食店から雑貨屋等々、様々な店が立ち並ぶ一番活気のある大通りだ。
「この大通りは、建国当初からあって、とても歴史的なんです」
1000年ほど前、一庶民だった初代国王は、種族間の差別や交流の無さに疑問を持ち、それをなんとか出来ないかと考えたすえ、初めは何もなく、どの国にも属さないこの地を開拓して、全ての種族が笑って暮らせる国を作ろうとしたらしい。
「初代国王陛下がこの地に来た時には、ここはひび割れた大地が広がるだけの、何も無い場所だったらしいんです」
考えられませんよね? と、ユノが言うのに、俺は頷いた。自然溢れる森が近くにあるこの場所が、何も無い死の大地だったとはとても考えられない。
初代国王は、多くの人々に自分の考えを話したそうだが、そんなものは夢物語だと一蹴されてしまったらしい。
「結局、無二の親友だった初代剣聖様と、アルファリアの聖女様だけが着いて行ったそうです」
剣聖というのは、この国最強の剣の使い手に与えられる二つ名で、初代国王の親友の初代剣聖に至っては、世界最強とも謳われたらしい。
アルファリアの聖女は、この世界にある宗教の一つで、光と慈愛の神アルファリアを信仰するアルファリア教の見習い神官だった、一人の少女のことらしい。この少女は、初代国王の考えに感銘を受けて、着いて行ったそうだ。後に、沢山の死に瀕した人々を救い、聖女と言われたそうだ。
「ここからですよ、陛下は不思議な力で死の大地に草木を生やしたんです」
「草木を?」
「はい」
初代国王が死の大地に手を翳すと、草木がたちどころに生え、雨が降り川を作り出した。まるで神の奇跡のように、たった一年で、広大な死の大地を自然豊かな土地に変えたそうだ。
初代国王の奇跡を目の当たりにした人々の多くが、彼に付き従った。
しかし、味方になるものもいれば、敵になるものもいる。多くの国が、豊穣の大地を求めて攻め行った。彼らは、まだ国ともいえぬ集団など、簡単に潰せると思ったのだろう。
「結果は全て、初代国王陛下達の大勝利でした」
初代剣聖の剣の一振りで、数百人の騎士が吹き飛ばされ、傷ついた兵士は聖女の祈りでたちどころに元に戻り、初代国王の不思議な力で非力な農民は、一騎当千の兵士になった。
勝利を収める度に初代国王に従う者が増えていき、やがて一つの集落のようなモノが出来た。今いるこの通りを作るように、家やテントがたった。小さいが、国が出来たのだった。
「そして、ここを中心として太陽の国アウルムが出来たんです」
全ての種族が笑って暮らせる国か………確かに様々な種族がいることが分かる。が、しかし………
「いないな」
「? どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
やはり魔人はいなかった。まぁ、そう上手くいくとは思えない。
初代国王陛下は、魔人のことをどう思っていたのだろうか? やはり、人類の敵だと思っていたのだろうか? それとも━━━
まぁ、今考えた所で答えは出ない。今はそれよりも
「レツさん! あのお店は王都でも有名なんです」
「へぇ? 何のお店なんだ?」
「アルマ牛の牛乳を使った甘味なんですけど、なんと冷たいんです!」
楽しそうに笑うユノとの、デート(仮)を楽しもう。
どっかで、アウルム建国の番外編もやりたい




