12.ユノ
先ずはギルド登録をしたいのだが、なんか特殊な技術とか使われて、魔人だってバレたりしたら嫌だな。ステータスの表記を変えて、目の色を変えて、漏れでるハズの魔力を【次元収納】に無理やり押し込んでいるだけであって、種族としては魔人のままなのだ。
とりあえず、登録方法を聞いて決めよう。
「ギルドに登録したいんだが、どうすればいい?」
「登録ですね。でしたら、これに必要事項を記入してください」
出てきたのは紙と万年筆。異世界系だと、紙って結構貴重な場合が多いけど、この世界は違うのかな? まぁ、地球よりは粗悪な紙のようだけどな。
そして、何かが書かれた紙を出されて分かったことがある。読めんし、書けん。言葉は理解出来るのに、何故に字はダメなのか………
ククク。だがしかし、俺には自動翻訳機も裸足で逃げ出す優秀な力がある。【情報の支配者】を使えば、一瞬で翻訳される。
えっと、名前に年齢、出身地、武器、属性か……名前さえ書けば他は書かなくてもよしか。とりあえず、名前と年齢を正直に書いておく。他は、書かないでおこう。
「出来た」
「はい。ありがとうございます」
俺の書いた用紙を見たユノは、小さく「一つ上なんだ」と呟いた。年齢のことだろうか? ということは、ユノは17歳なんだな。
ユノは受け取った用紙をレジスターのようなモノに入れると、機械音のような音をさせてクレジットカードのようなモノを出した。
ユノがそれを差し出して来たので受けとる。見た目は、黒いカードだ。文字は書かれていない。
「魔力を流してください」
「分かった」
言われた通りに魔力を流してみると、カードが少し青みがかった黒に変わり、俺の名前と所属しているギルド(冒険者ギルド)、そしてランクFという文字が浮かび上がった。
「これでギルドカードにレツさんの魔力が馴染みました。他の人が魔力を流して使おうとしても、反応しないので使われる心配はありませんが、紛失されますと再発行に銀貨五枚かかるので気をつけてください」
「あぁ、気を付ける」
「では、登録料は銅貨五枚になります」
あ! 登録料あるの忘れてた! こうなるんだったら、先に魔石を売っておくべきだったな。仕方がない、魔石を売って登録料の分差し引いてもらおう。
「すまないが、手持ちがなくてな。魔石を売るからそこから差し引いてもらえないか?」
「……本来ならダメなんですけど……特別ですよ?」
唇に指をあててウィンクするユノに、ドキっとなる。くっ! 可愛い。
ユノに礼を言って魔石を売る分の取りだし、カウンターの上に置く。この際、エバンスさんと同じように、ユノは俺を【アイテムボックス】持ちだと勘違いした。
「ちょっと待ってくださいね」
魔石をジッと見つめるユノ。その瞳が、何度かキラッと光ったのだが、もしかして何かのギフトだろうか? だとしたら、鑑定とかかな?
何度か、「え?」とか、「嘘……」という呟きが聞こえた気がしたが、どうかしたのだろうか? もしかして、ハイ・オークかな? ギリギリとはいえ、B級の危険度らしいし。
「これだけの数の魔石に、ハイ・オークの魔石もなんて………レツさんって、凄く強いんですね」
「まぁ、多少はな」
殆ど能力のお陰なので、あまり誇れない。俺自体の戦闘力は、そこまでないハズだ。こっち来てそうそう、死を覚悟したほどだし。
登録料を差し引いた、魔石の金額は全部で金貨2枚に銀貨15枚と銅貨35枚だ。殆どがハイ・オークの魔石の金額というのが、驚きだ。これ、冒険者ってかなり稼げる仕事じゃないか? まぁ、強いことが条件ではあるけど……
ギルドでの用事も終えたので、昼食を食べに行こうと思う。ユノにまた来るといって、回れ右して帰ろうとしたのだが……
「あ、あの!」
「ん?」
ユノに声をかけられたので首だけ回して見ると、頬を赤く染めて此方を見ていた。そんな風に見られると、俺のことが好きなのかと思ってしまうが、この目付きの鋭さで前の世界から怖がられていたので、そんなことはないだろうと考える。
なら、なんなんだろう?
「レツさんって、王都アルマは初めてですよね?」
「あぁ、今日来たばっかりだ」
「で、でしたら、私明日休みなので、よ、よければ案内しましょうか?」
成る程、助けたお礼かな? ユノは純情そうだし、男性を誘うのは恥ずかしいのだろう。ありがたい申し出だし、ユノみたいな可愛い娘とデート(仮)が出来るなら、喜んで此方からお願いしたいくらいだ。
「それじゃあ、お願いできるか?」
「はい!」
断られたらどうしよう的な不安そうな表情をしていたユノに、そう伝えると、花が咲くような笑顔を浮かべた。
明日の5回目の朝の鐘が鳴る頃に、中央の噴水で待ち合わせをすることにした。この世界の時間は、鐘の音で知らせるらしいのだが、魔道具を使った自動的に鳴る鐘らしく、かなり正確なものらしい。【情報の支配者】からの情報なので、確実だろう。
えっと、朝の5回目の鐘は、だいたい9時ぐらいか。アラーム設定とか出来ればいいんだが………
「マジか」
ギルドから出て歩きながら、アラーム設定的なのが出来ないか試していたら、出来てしまった。【情報の支配者】って何でもありなのか? とりあえず、明日の朝8時半ぐらいに設定しておく。アラームといっても、その時間に勝手に時刻を知らせるウィンドウが出るだけのようだが、使えるのでいいだろう。
待ち合わせ時間についてはなんとかなりそうなので、目的の昼食を買おう。
「五本くれ」
「あいよっ!」
コルト鳥の焼き鳥を五本買い、道の脇に寄ってかじる。うん。焼いた鳥だな、タレじゃなくてスパイスみたいだけど、普通に美味しい。この世界には、醤油とか味噌はないのか? 日本人としては、やっぱり和食も食べたい。
とりあえず、暇が出来たら探してみるか。
他にもシチューやら、コロッケモドキやらで腹を満たすと、俺はエバンスさんの経営する、フィラート商会がやっている宿、“燕の止まり木”にやって来た。
受付には爽やかという言葉の似合う、儚げなイケメンがいた。
「あ、レツ様ですね?」
「え? あ、はい」
「会長から事情は聞いています。お部屋は二階の205号室になります。此方が鍵です」
「あ、どうもありがとうございます。えっと、とりあえず明後日にはチェックアウトしますので」
「もっと泊まっていただいても宜しいのですよ?」
俺が遠慮していると思ったのか、そう言ってくるイケメンさん。まぁ、遠慮していると言えばそうなのだが、アーサーには3日ほど滞在していると言ったしな。
とりあえず、用事があるのでと言ったら、納得してくれた。
早速部屋に行ってみると、中は結構広く、ベッドもなかなかの大きさだった。ベッドに横たわってみる。久しぶりのそれは、とても心地がいい。まぁ、石も柔らかくしてなかなか快適にしていたのだが、やはり本物には敵わない。
気持ちのいい柔らかさに包まれた俺は、暫しの仮眠という名の、昼寝をすることにした。




