11.冒険者ギルド前で面倒事
面倒事には関わりたくないのだが、ギルドの入り口を塞がれていてはどうしようもない。周りの人達は、一瞥くれると去っていく。まぁ、二メートルぐらいある筋肉ムキムキで大剣を持った男を筆頭に、同じぐらいの体型の男があと四人いるしな。普通の人には無理があるだろう。
ギルドの中はどうなのか分からないが、気づいていないのかもしれない。
もうちょい様子見するか。どっちが悪いのかまだ分からないしな。
「なぁ? どうしてあの魔石と毛皮があの値段なんだ? 俺達が適正価格を知らないからって、足元を見やがって!」
「そうだ!」
「さっさと残りの代金を払え!」
男たちの言うことが本当なら、ギルドが悪いのだが、さて、ギルド側の言い分は何かな?
「確かに適正価格より安くなりましたが、それには理由があります! 魔石にはヒビが入っていました。あれでは、下級ポーションの材料にするか、ちょっとした触媒にしか使えません。毛皮のほうも、傷だらけで防具にしても性能が落ちるんです」
「っ! 知るか! さっさと残りの代金を払え!」
いや、そこは納得しろよ。
どう考えても、ギルドの言い分のほうが正しい。男たちが一瞬狼狽えていたから、ヒビや傷がついていたのは本当のようだし。
さてと、やけくそ気味になった男たちに迫られて、ギルドの人が後退りしている。そこで初めて、男たちに隠れて見えなかったギルドの人の姿が目に入ったのだが、女性だった。
雪のように真っ白で少し銀色がかった髪を、2つに纏めて両肩から前に流しており、瞳は綺麗な紺色で少し垂れている。
服はギルドの制服なのか、薄い緑色のスカートが膨らんだワンピースに、茶色いベストを羽織っている。アクセサリーは特につけていないようだ。
簡単に言うと、俺好みの凄い美少女です。
「とにかく、これ以上代金を払うことは出来ません!」
以外と胆力はあるようだ。男たちに囲まれても、きっぱりと断っている。これなら、俺が介入しなくても大丈夫そうかな? そう思っていたのだが、苦い顔をしていたリーダーっぽい男が、ニヤリと厭らしい笑みをし始めた。
なんだろう。ちょっと嫌な予感がする。いつでも介入出来るようにしておこう。
「それなら、体で払ってもらおうか?」
「なっ!? 何を!」
「いいから来い! 痛い目を見たくなきゃあな」
「は、離してください!」
「へへへ。大人しくしてれば悪いようにはしねぇよ」
あいつら、口まで塞ごうとしてやがる。行くか。
スタスタと近づいていき、男たちに声をかける。
「あの、嫌がってるんだから離してください。あと、邪魔だから退いてください」
一応丁寧に言ったが、これ少しムカつくか? でも、丁寧に言わなくてもムカつく気がする。まぁいいか。こんな奴らに気を遣ってもしょうがない。
声をかけた俺に気づいた男たちが、ギルドの女性を離して俺を取り囲む。
「ヒーロー気取りか小僧? 痛い目みたくなけりゃ、とっとと家に帰ってママに甘えてな」
「ギャハハハハ! お頭、それ傑作だぜ!」
「確かに! ハハハハ!」
イラッ
あぁめんどくさい。腹も空いてきたしさっさと終わらせよう。
「失せろって言ってんだよ。自分の非を認めて、今度からは丁寧にモンスター狩れ、おっさん」
言いたいことを言ってやったら、顔を真っ赤にさせて怒った。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!」
問答無用で振り下ろされる大剣。ゆっくりと迫ってくるように見えるそれを、冷めた目で見ながらため息を一つつく。
とりあえず、右足の側面で男の足を蹴る。魔人になり身体能力の上がった俺の蹴りは、男の体を簡単に宙に浮かす。そのままの勢いで、体を横の状態にして落ちていく男の手を右手で打ち上げる。
打ち上げられ、宙を舞う大剣。
「ぐあっ!?」
石畳の上に無防備に落ちた男が、うめき声を上げた。それに一瞥をくれて、上を見上げる。ひゅんひゅんと回転しながら落ちてきた大剣を、切っ先が下を向くときにキャッチして、そのまま倒れた男の顔の真横の石畳に、思いっきり突き立てる。
大剣と石畳が当たって大きな音をたてた。
「ひっ!」と小さく悲鳴をあげる男。俺は、驚いている男の仲間を睨み付ける。
「まだやるか?」
そう言うと、悲鳴を上げながら三々五々に散っていく男達。これで懲りてくれればいいんだけどね、ああいう輩は逆恨みするからなぁ。
さてと、ギルドの人は大丈夫かなと見てみると、ポカンとした顔で此方を見ていた。
「大丈夫か?」
俺より年下っぽいので敬語は無しでいく。この世界では15歳で成人なので、目の前にいる少女が仕事していても何ら不思議ではない。
俺が声をかけると、顔を赤くしてあうあう言い始めた。どうしたんだ? やっぱりどこか怪我してるのか?
「どこか怪我してるのか?」
「ふぇっ? あ、い、いえ! 大丈夫です! なんともありません」
少女は慌てたようにそう言うと、「助けてくれてありがとうございます」と、ペコペコ頭を下げてきた。
その可愛らしい姿に、思わず笑みがこぼれる。
「無事でなによりだ」
「………」
再び頬を赤く染めて俺をじっと見る少女。さっきから、いったいどうしたというのだろうか? まぁ、気にしなくていいか。
俺が少し首を傾げていると、少女は自分の両頬をパンパンと叩き、深呼吸を何度かした。そして、何かに気づいたようにはっとして
「あ! ギルドに何かご用ですか?」
「あぁ、ちょっと魔石を買い取ってもらいたくてな」
「そうですか。では、此方にどうぞ」
先ほどとはうってかわって、微笑みを浮かべてギルドを指し示す。これは、新人とかじゃないな。
少女についてギルドに入る。ギフトの内部は、まず正面に受付が五つ並んでいて、そこに一人づつ受付嬢がいる感じだ。一番右側が抜けているので、少し前まではそこにこの少女がいたのだろう。そして、あの男達が来て、対処のために外に出た感じかな? 理由は、ギルドで暴れられて建物に傷がつかないようにとかかな。
受付の右隣には上への階段があり、左隣にはたくさんの紙が乱雑に張られた掲示板のようなものが、が壁についていた。おそらくだが、あの紙は依頼の書かれた紙だろう。
「レツ!」
声をかけられたので右側を見てみると、テーブルと椅子が並んでいるスペースのテーブルの一つに、ライン達がいて手を振っていた。此方も振り返して、「さっきぶりだな」と声をかける。
「おう! それより、なんでユノちゃんと一緒にいるんだ?」
「あ、ほんとだ」
「はぁ……こいつら」
ユノって、この娘のことか? それにしても、なんでラインとリックは、ジト目で俺を見てくるんだ? 分からん。
とりあえず、ちょっとそこで助けたと言うと、何があった? と問い詰めて来たので、事情を説明する。なんでか、他の机で話し合ってたり、ギルドに隣接している酒場の酒を飲んでいたりしていた奴らも、聞き耳をたてている。
「成る程な。ちょっと出てくる」
「ボクも」
ラインとリックが黒い笑みを浮かべながらギルドから出ていき、それを追うようにして同じく黒い笑みを浮かべた男達がギルドから出ていった。
なんなんだあいつら? ユノと一緒に首を傾げていると、残っていたアリサがため息を吐きながら、気にしなくていいと言ったので、とりあえず気にしないことにする。
空いていた受付に案内されると、そこにユノが入った。
「コホン。冒険者ギルドアルマ支部へようこそ!」
笑顔で定型文であろうセリフを言うユノ
「えっと、自己紹介がまだでしたよね。ラインさんが言っていたように、私の名前はユノです」
「レツだ、宜しくなユノ」
「こちらこそよろしくお願いします。レツさん」
さて、ユノとの自己紹介もすんだことだし、そろそろ魔石を売ってその金で昼食といこう。




