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第84話 ユウとユリアで

 実働部隊、専用の”トレーニング室”。

 一般が使える”訓練室”との違いは、大きさと強度だ。

 一般用の”訓練室”よりも、高度なプログラムを受けられる事から、そういった形になっている。


 ユウとユリアは、その一室で、準備運動。

 軽くストレッチをしていても判る、身体の(なま)り具合……。


 ――当然か。

 ずっと運動らしい運動を、ユウはしていない。


 配線整理作業中、脱水症状を起こして、三日間の自室謹慎。

 謹慎が明けて、すぐの出撃では

 交戦中――瀕死の重傷を負って、二週間以上の医務室での療養……。


 その後は執務室での仕事で、缶詰状態。

 ……どこにも運動をする暇など、なかった。


 ぐぐ――っと、思い切り、伸びをする。

 存分に動きたいのは山々だが、今日は慣らしにしておくべきだろう。


 復帰直後は、怪我をしやすい。

 ――ユウは自分で、瞬時に治せるが。


 そういえば精鋭部隊の入隊資格は、体力数値3500からだったと、ユウは思い出す。

 ちらりとユリアを見ると、通常体力でそこまであるようには、とても見えない。

 ……という事は。


「ユリアは、なにが得意?」

「ジャンプです!」


 ユウが聞きたい事が、即座に返って来た。


 通常体力で3500というのは、かなり身体を鍛えまくった状態だ。

 大人になり切らない乙女のユリアに、それ程の筋肉がついているとは……

 とても考えられないし、想像したくない。


 つまりユウと同じで、飛び抜けた特技を持っているという事だ。


 ユウは、素早さ。

 ユリアは――


「ジャンプ?」

「はい、こんな感じで……」


 ユリアは、とんとん、とその場で軽く飛び跳ねだした。

 そして勢いをつけて、真上へ飛ぶ。


 とん、とん、とん、と――――ん。


 高く、高く飛び跳ねた、その背に……

 羽根でもついているかのように、見えた。


 ふわりと音もなく降りて来る。

 あんなに高く、飛んだのに……。


「……すごい。能力なしで、それなの?」

「私、動力系能力は、持っていないんですよ」


 ”動力系能力”というのは、念動力や飛行能力などの、実際に物を動かす超能力の事だ。

 人から見て、使っているのが判る能力――

 ユウの破壊能力も”動力系”だ。


 ユリアは”精神系能力”といって――

 遠視能力、遠隔作用能力、感知能力、そして特化の”抑制”能力。


 主に自分の内側で能力を発動させる為、人から見て、使っているのが一目で判るような能力ではないのが”精神系能力”だ。


「でも……どんなに高くジャンプ出来ても、あまり意味はないですよね。念動力や飛行能力を使える人は、多いですし」

「特技だから、良いんじゃない?」


 特技といっても、ボーナス数値が付く程となると、常人離れしているという意味になる。


 元々大人対象になっている数値を、まだ大人に成り切らない乙女のユリアが取得となると、超人的跳躍力だ。

 ……ユウの素早さも、とんでもないのだが。


「実は……体力数値3502で、ギリギリなんですよ。まさか精鋭部隊だなんて、思ってもみなかったから……」

「僕も3625でギリギリだよ。今は少し下がってそう。下限切ったら、クビになるかな?」


 にこにこと笑顔で、ユウは返答に困る事を平気で言う。

 ユウにとって”精鋭部隊所属”は、ステータスでも何でもない。

 重要にすら、思ってもいない。


 だがユウとユリアで、初めてまともな会話が成立している事に――

 ユリアは、気が付いた。


 嬉しくなって、何を話そうか、色々と考えを巡らせてみる。

 話したい事、聞きたい事は、いくらでもある。

 たくさんありすぎて困って、言葉に詰まってしまった。


「ユリアは僕より年上だろ? 敬語なんて使わなくて良いんだよ。あと”様”付けも……」

「とんでもない! ユウ様は私の上司です。部隊に年齢なんて関係ありません!」


 ユウからの進言に、ユリアは慌てて手を大きくバタバタとしながら、拒否を表した。

 あまりの反応に、ユウは驚く。


 そして苦笑して……

 ユウは、少しだけ寂しい瞳を見せた。


 その瞳の意味を、ユリアは知らない。


 少し止まって、みつめ合ったが

 心を()むことが出来ないユリアには、ユウの瞳が示すものは判らなかった。


 少し(うつむ)いて頬を染めて、ユリアは答える。


「それに……私、ずっとユウ様のファンだったんです。だから、今、とても幸せ……」


「ファン?」

「はい。いっぱい居ますよ。最近ファンクラブも出来て、会員になりました!」


「……え?」

「今号のユウ様特集が凄いんですぅ~! 永久保存版です。私の宝物です!」


「な……なにが書いてあるの、それ……!?」

「ご本人になんて、見せられません~~!」


 ユリアは真っ赤になって、小(おど)りするかのように飛び跳ねている。


 本人に見せられない、という所が気になる。

 一体、何が…………。


「……僕なんかより、リーダーでも特集したら?」

「追放されちゃいますよ」


 ますますもって、内容が気になった。


 ユウは目を(つむ)り、深く、一息――

 ……ゆっくりと、(まぶた)を開けて、気を取り直す。


「トレーニング室……久し振りだから、真面目にやっても良い?」

「はい! 見学させて頂きます!」


 珍しいユウの、本気のトレーニング姿。

 滅多に人が見る事はない――


 それが見られるというだけで、ユリアは心が(おど)った。

 手が震えるように緊張し、期待に胸を膨らませる。


 ――その後、絶望するとも、知らずに。







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