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第79話 遺伝子情報

 ユウのお世話係となったユリアが手持ち無沙汰で、お茶を淹れていた。

 ”お世話係”と一口に言っても、業務内容は多岐に渡る。


 能力値の異常高上昇時、発作対応は勿論の事――

 仕事の手伝い、健康管理、身の回りの世話……と、すべてにおいての”補佐”だ。


 あまり自分から発言しようとしないユウを察しろというのは、心がめない限り、なかなか難しい。


 ユリアには、テレパシーはない。

 常にユウをよく見て、欲するものを想像するしかない。


「ユウ様、お茶をどうぞ」


 音を立てないように、静かに置かれたカップ。

 子供用の落としても壊れない材質で出来たものに、綺麗な透き通る液体が入っている。

 ユリアはそれを、ユウだけではなく全員へ配る。


 無機質な……色も温かみも無さそうな執務室に、ふんわりとした優しさが込み上がる気がした。

 ユリアの持つ、不思議な雰囲気だ。


 ユウは書類処理の手を止めて、ユリアの淹れたお茶に手を伸ばす。

 ふぅ……と、息を吹きかけて。

 冷まし飲んでみると……不思議な程、美味しかった。


「執務室、据え置きのお茶なのに……こんなに美味しかったですっけ?」


 幸せそうな顔を見せて、シンジがお茶をすする。


 放っておくと休憩時間などなく、ひたすら仕事尽くしになってしまう執務室に、穏やかな時間が流れた。


「そうだ。ユウ……ちっと、こっち来い」


 お茶で手を止め、集中が切れたユウへリーダーが声を掛ける。


 ユウは本を読む時もそうだが、集中し始めると何も聞こえなくなり、話し掛けても反応をしない。


 ユウの飲み込みの早さや正確さは、この高い集中力に詰まっている気もするが――

 聞いていて欲しい時も、聞いていない場合も多い。


 ユウは呼ばれたので、リーダーの傍へ行く。

 無言で無表情で……何もなければ、今迄通りのユウだ。


「見せてやるって言ったろ。俺とお前の遺伝子情報だ。これは俺しか見れん、最重要機密情報だ」


 開いて見せた、見開きのページ。

 図と、小さな文字でたくさんの情報が記されていた。

 ユウは、座っているリーダーの横に立って、同じ方向からそれを見る。


「そっちがお前……こっちが俺だ」


 図解のひとつに、明らかに大きさの違う人体図があった。

 小さい方がユウ、大きい方がリーダー。

 それは知識がない者にも、一目で判る。


「いくら研究者でも、無から作り出す事は出来ねぇ。大方、俺の親父かお袋の遺伝子をベースにしたんだろう。

 兄弟みたいなものだとは言ったが、突き詰めればかなり違う。あの場で一番判りやすい表現をしたまでだ」


 見開いたページを、ユウは顔を近付けてよく見ている。

 小さい人体図のページと、大きい人体図のページ。

 交互に、見比べるように――


「……って言っても、まぁ……お前には見せても、判らねぇか」

「これ見ると、リーダーは強化人間なんだね。どうりで強いと思った」


 食い入るように”遺伝子情報”の見開きページを見ながら、ユウは言った。


 何を認識しているのか判らない程、軽く握った手を口に当てて、ページを読み(ふけ)っている。


 リーダーは元々研究者になろうと得た知識があるから良いが、専門用語だらけのページだ。

 子供が理解出来るようなものではない。


「……は?」


いじった、というよりリーダーのは補正だね。お父さん、お母さんが祈りを込めた感じがするよ。強い子に育って欲しいって。

 リーダーがその気なら、百人位、子供出来るんじゃない? 人類再興も出来そうだ」


「お前、何を言って……」

「僕みたいに無理矢理いじった感じじゃなくて、自然だよね。この位が、最高に丁度良いんじゃない?」


 もはや子供の台詞せりふじゃない。

 小さい身体から発せられる言葉は、いっぱしの研究者並だ。


 ユウが何を理解して発言しているのか、段々判らなくなって来た。


「…………」

「……なに?」


「お前……判るの? これを見て」

「なんとなく?」


「……なんで?」

「勉強しろって言ったじゃない、リーダーが」


「……何を勉強したんだよ……」

「遺伝子工学?」


「はぁ!? なんでそんなもの勉強しているんだよ!」

「工学系、勉強しろって言ったじゃないか!」


「普通、電子、電気、機械だろ! なんで遺伝子なんだよ!?」

「なにも知らない子供に、いきなり工学系やれしか言わないで、なに文句言ってるんだよ! いっぱいあるからコレかなと思って、全部読んだの!」


「全部……!?」

「全部!!」


 また訳の判らない知識を、いつの間にかユウが身に付けていた事に今更ながら気が付いた。


 そんな知識を付けても、研究者でもないユウが、一体何に活用するというのだろう。

 ふと思い出して、シンジは聞いた。


「あれ……じゃあ、配線整理は?」

「”桔梗乙女”新居の時、やったから」


 確かに”桔梗乙女”が同盟になる経緯で、ユウは配線関係を集中的に担当している。


 中古の建物を直し、使う”新居”の修繕作業――

 壊れたシステム復旧の為、切れた配線などをみつけ出し、修復する作業を行った。


 ――道理で、システム管理を任せた時に目をつけたのが”配線”だったのだと、今、気が付いた。


「……変な知識、付けやがって」

「やれって言ったのは、リーダーだろ!」


「遺伝子なんて、俺は言ってねぇ!」

「もっと判りやすく言ってよ! もっと細かく! 大雑把すぎるんだよ!」


 また言い合いが始まってしまった。


 ユウの言い分はもっともだが、結局は必要とされた知識は得られていない。

 どこに使うのか判らない、不可思議な知識だけがユウに増えていく。


 リーダーは座った状態で、ユウは立った状態で。

 目線を合わせて言い合いをしている姿は、傍から見ていると、なかなかどうして……。


 サーラは、おやっさんの言葉を思い出す。


「こうして見ていると、本当に親子のようですわね。おやっさんが、間違えるのも判ります」


「「誰が親子だ!!」」


 口を揃えてサーラに反論するユウとリーダーは、あまりにも息がぴったりで、それはそれは仲の良い親子のようだった。







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