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第78話 隠された意図

 常時、リーダーと親衛隊が詰めている執務室……そこに、サブリーダーとなったユウもいる。


 八歳の子供なのに、地下施設でリーダーに次ぐ二番目の権力者となってしまった……。

 だがこの事実に、誰も違和感や異議を唱える者はいなかった。


 ユウが普通の子供ではない事は、誰でも知っている。

 精鋭部隊での功績は、計り知れず追随を許さぬ程だ。


 ユウが精鋭部隊へ起用され、戦線に参加し始めた時は――

 正直、部隊の人数も少なく、今程の強さは全体的になかった。

 ゆえにユウの一撃必殺な攻撃力に頼らざるを得ない部分もあった。


 だが今は全体的に向上し、人数も増え――

 ユウの高出力治癒能力によって、死者数が劇的に減った事もあり、補充だけではなく増員する事に成功した。

 お陰で安定感も増し、兼ねてより必須と思われていた、ユウの後方への移動も可能となった。


 ユウを一戦闘員として扱うには、バランスが悪すぎる。

 専売特許の高出力治癒能力を始めとする、支援要員として後方へ置くのが部隊にとって、一番安定度が高い。


 攻撃なら、光のエネルギー弾による遠距離攻撃、有無を言わさず全てをまっさらに消し飛ばす衝撃波がある。

 いずれも効果範囲は広いので、前線にいる必要はない。


 更に護衛が付くようになったのは、替えが利かない必須性だけではない。

 ……サブリーダーになったからだ。


 リーダーに次ぐ二番目の権力者となれば、護衛が付いていて当たり前の話だ。

 護衛など必要がない程、強いリーダーでさえ親衛隊が付いているのだ。


 しかもユウは、能力値の異常高上昇という、突然意識を失う爆弾のような症状を持っている。

 そんな危ういサブリーダーを、一人にしておく訳にはいかない。


 本来なら、もっと早くに実施すべきだった。

 いや……ずっと、この機を狙ってはいた。


 誰もが納得する理由として、ユウをサブリーダーへ置く事で可能な、この体制を……。


「やっと、これで一安心……といった所ですわね?」


 サーラがリーダーをちらりと見て、独り言のように呟いた。


 現状のユウへの待遇は、傍から見れば当然の流れで、ユウを保護する為に狙っていたなど誰が思うだろうか。

 ……サーラを除いては。


 含み笑いのような顔を向けるサーラにリーダーは、いつも自分が心をむ側にいるのに逆をされた気分がして、チッと気分悪そうに舌打ちをする。


 サーラのテレパシーもリーダー程ではないが、特化性の如く強い。

 常にリーダーをよく見ている女の勘も入っているのだろうか。


 ユウの無理矢理なサブリーダー任命の裏に隠された意図も、サーラにはお見通しだった。



 だが当のユウには何の説明もなく、勿論そこまでユウに心がめる訳でもない。

 ただただ、大人の都合の良いように、されているだけに感じた。


 ……なので、最近のユウは少し反抗的だ。

 特にリーダーに対して、すぐにイラっと来て喧嘩になる。

 無理矢理サブリーダーにされ、自由時間が一切なくなったのも理由の一つだ。


「ユウ、それ終わったら書類整理やれ。……貯まっているから」


 手元の処理が終わろうとしていたユウを見て、すかさずリーダーが次の指示をする。

 サブリーダーになって執務室に入ってからは、ずっとこんな形だ。全然休まる暇もない。


「書類って、どこにあるの?」

「奥の部屋だ、取って来い」


 ユウから見て、右奥のドアを指定された。

 リーダーの横を通って行って、右奥の部屋の扉を開ける。


「あの部屋って俺、入った事ありませんけど……あんな所に書類、ありましたっけ?」

「私も入った事、ありませんよ?」


 親衛隊のシンジとサーラが顔を見合わせて言った。

 それ程、その”奥の部屋”の存在感は薄かった。


 かちゃり……と音を立てて、ユウは扉を開く。

 特に何も考えずに、書類を取りに行くために。


 その扉は手前に開くタイプで、扉の取っ手を掴んで手前に引いて――

 部屋の中へ入ろうと一歩……、踏み出そうとして、止まった。



 ……――目の前に真っ白い壁がある。



 部屋に入れない。

 むしろ扉が閉まるギリギリの位置に、白い壁があった。


 …………よく見たら、筋がある。書類だ。


 ユウはしかめっ面をして、すかさず透視能力を使い、部屋の大きさを調べた。


 ……かなり広い。

 現在、自分がいる、この執務室の半分以上はある大きさだ。

 ――そこに、隙間なくみっちりと、書類が詰め込まれていた。


 真っ白い書類の壁を前に、部屋へ入ることすら出来ずに、ユウは無言のまま入り口で立ち尽くす。

 その後ろ姿を見て、親衛隊のシンジが震える声を出した。


「……あれじゃ、部屋へ入れませんね……。いつから貯め込んでいたんですか……」

「少なくても私達が知らないのですから、それ以前からでは……」


「サブリーダーの仕事だ」


「嘘つけ! どこにもサブリーダー必須なんて書いてないよ! リーダーの仕事だろ、これ!!」


 子供の手では絶対に引き抜けない、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた書類を、ユウは能力で引き出した。

 即座に目を通し、リーダーに異論を唱える。


「……お前、口の利き方に注意しろよ。誰にものを言っているんだ」

「リーダーに決まってるだろ! なんで、こんなになるまで放置するんだよ!」


 ユウは文句を言いながら、更に書類を引き出す。

 そして、そのまま自分の作業机へ持って行った。


 不承不承という顔をしながら、書類を読んでいく。

 抗議の主張はしているが、結局は命令通り、きちんと行動をしていた。


「お前、性格変わっただろ。以前なら文句があっても、無言のまま命令遂行していたしな」

「リーダーの血が入って、我慢がきかなくなったんじゃないですか?」


「俺のせいかよ!」

「だって、この喧嘩っ早いところなんて、そっくりじゃないですか」


 毎度のようにサーラが突っ込む。

 鬼のように恐ろしいリーダーへ軽口を叩くなど、通常の神経では出来ない所業だ。

 シンジは恐ろしくて会話へ入る事は出来ずに、乾いた笑いを浮かべていた。



 とんとん、と書類をまとめて、ユウが席を立つ。

 今、持ってきたばかりの書類の束を、リーダーの机の上へ置いた。


「はい、目を通して承認してね。必要事項は書き込んでおいた。承認後の分類も僕がやるから、別にして置いて」


 言うだけ言って、リーダーの返事も聞かずにユウは次の書類を取りに行く。

 今度は山盛り持って来て、能力を使い、机の上へ移動させた。早速、取り掛かる。


「……この短時間で?」


 最初に引き出した書類はそれ程多くはなく、全部まとめれば、何とか背表紙が出来そうな量だ。

 ぺらりとめくってみると、確かにきちんと必要事項は全部書いてある。

 いかにも子供の字だ。


 リーダーは提出された全てに目を通してみたが、まったく抜けがなく、完璧だった。


「……もしかして、お前……凄くねぇ……?」


 珍しく感嘆の声を上げるリーダーがユウを見ると、更に短時間のうちに、処理の終わった書類がみるみる積まれていった。


 書類は子供が読むようなものでは、決してない。


 リーダーでさえ、うんざりするような遠回しの表現が多い難解なものだ。

 元々研究者ばかりだった、地下施設の悪い風習が残ってしまっていた。


 それをユウは、次々と処理をしていく。

 一体どうなっているのだろう……。


「も……物凄く、優秀ですね……」

「私達は、いつもの自分の仕事をしましょう」


 かくして、部屋いっぱいに詰め込まれた書類の山の処理は、ユウの仕事と決まってしまった。


 優秀なのは良いが、次々処理出来るのを良い事に、ユウの担当業務がとんでもない量になっていく――。

 真面目にやればやる程、自らの首を絞めている事も気付かない。


 ……――またやり過ぎて、倒れるのも時間の問題な気がした。







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