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第65話 死の色

おやっさんの情報により、脅威となる”新型リダクションデバイス”の存在が確認された。


今回の作戦は、その新型リダクションデバイスを所持する”スカーレットコロナ”の殲滅、及びシステムの破壊。敵は既に待ち伏せ状態にある。

システムを構築する複数個の端末は、地下施設からではその数も、設置場所も判別がつかない。現地へ赴き、その場で探査能力を使って探るしか方法はない。


「おっさんからのデータを精査したが、俺とユウには大して効かん。基礎能力値の違いだ。俺とユウが囮になる。ユウは囮をしながら、探査能力で新型リダクションデバイスの端末を探し出し、破壊しろ」


リーダーの指示に、ユウは無言で頷く。

ユウの探査能力は精鋭部隊の中でも秀逸だ。誰よりも短時間で目的の物を探し出す。同時に光のエネルギー弾を使う遠距離攻撃法はユウの十八番……となれば、これ以上この役に向いている者はいない。


「囮の意味は何ですか?」


親衛隊のシンジが質問をした。普段、囮など置いた試しがない、当然の疑問だ。


「俺とユウに攻撃を集中させる為だ。新型の効果範囲は、およそ2000程度の能力の阻害……つまり3000前後のお前らじゃ、新型の餌食に成り兼ねん」


6000以上あるリーダーとユウなら半減以下で済み、攻撃を受けても防御結界の強固さで無傷、及び攻撃自体を跳ね返すなどの対抗処置が取れる。最初から全員で分散して戦っては、被害者が出る可能性がある。その可能性を出来るだけ回避する為の、囮作戦だ。


「俺とユウ以外は、全員身を潜め待機。端末破壊後、総攻撃だ。……行くぞ!」


簡潔な作戦が伝えられ、戦地へ赴く。

地下施設内に、いつもの精鋭部隊出撃のアナウンスが響いた。


『精鋭部隊、出撃します』






幾度かの瞬間移動を繰り返し、現地へ辿り着く。勿論、事前に調査してある安全地帯にだ。もうほんの僅か先へ行くと敵の感知能力に引っ掛かり、攻撃を受ける可能性がある。

とはいえ、敵は既に待ち伏せ状態だ。用意周到に陣形を組んでおり、新型リダクションデバイスも陣形内に設置済みだろう……襲撃を行うこちら側が不利だ。


それでも受け身でいるよりは、ずっとマシだ。新型リダクションデバイスさえ破壊してしまえば、いつも通りの戦闘になる。



人の背丈より何倍も高い瓦礫が並ぶ、見通しの悪い場所……そこが決戦の場――。

敵の感知能力に掛からないギリギリまで近付き、精鋭部隊は身を潜める。

高い瓦礫の陰に隠れ、息を殺すように気配を断つ……準備は整った。


リーダーとユウが瞬間移動で空に姿を現す。

敵の注意を引くように、わざと互いに少し離れた位置に、堂々と。

目に付くような……高くもなく、低過ぎでもない……瓦礫の高さなど関係なく遮蔽物がない、明らかにどこから見ても判るような位置に姿をさらけ出した。

まさに”囮”……だ。


その上で、ユウは目を閉じ……探査能力で、新型リダクションデバイス端末の、数と位置を探る……。


感知能力で、システムの稼働を確認した。効果範囲は、端末設置内の地上と空中……ユウとリーダー、精鋭部隊が潜んでいる場、全てが対象になっている。


しかしリーダーが精査したデータ通りで、ユウとリーダーの能力値を皆無にする程の効果はない。空に浮かんだまま、落ちる事がない二人を見て”スカーレットコロナ”の戦闘員は驚嘆の声を上げる。


「馬鹿な……新型の中でも能力を失わないのか……!」

「どれだけバケモノなんだ、あの殺人鬼と悪魔のガキは……!?」


「……どうする?」

「狼狽えるな、例え能力がゼロにならなくても効いている筈だ。攻撃を集中させ、一人ずつ倒す」

「先に”小さな悪魔”のガキの方を狙う。アイツは”殺人鬼”よりヤベェ……残しておくと一瞬で皆殺しになる」



ユウに攻撃の狙いが定まった。




作戦を開始し、探査が始まってから時間が掛かっている…………普段なら既に新型リダクションデバイスの端末を発見し、攻撃、破壊を遂行していても良い頃だ。

何故、攻撃が始まらない……?


リーダーが違和感を感じ始めた時……身を隠し頃合いを見計らっていたサーラからテレパシーが送られて来た。


『リーダー、ユウの様子が変です』


見ると、少し離れた位置にいるユウは、ぼんやりとした表情をしている……虚ろな瞳……。


「アイツ、何をボーっと……」


言ってすぐに気が付いた。意識を失いかけている……!

蒼白な顔をして、防御結界も薄れ……消えかかっていた。

異常上昇の発作だ。


「チッ!」


舌打ちをして、即座にリーダーはユウの元へ瞬間移動で跳んだ。




だがほんの僅かな差で、事態は急変した。

リーダーが気付き、瞬間移動をするその刹那……制服の襟に隠れ見えない位置で、ユウの首元のネックレス――能力制御装置、試作機が起動する……同時にユウは、朦朧としていた意識を完全に失った。


ゆっくりと仰け反るように……頭から落ちていく。目を閉じ、全身から力を失い……使用中の能力の効果も全て消え去った。防御結界も……空に浮いている能力も。


空から落ちようとするユウを”スカーレットコロナ”の結界が捕らえた。

僅か2m程度の限定空間を形成し、その中心に”小さな悪魔”ユウを固定する。身動き出来ないよう……強力な念動力で縛り付けた。成功だ。身動きひとつしていない。


”スカーレットコロナ”の戦闘員は舌なめずりをしながら、限定空間の中に、鋭利な空気の刃を無数に生成し、空間いっぱいに満たした。

……これで獲物を狩る準備は整った。


「ヒャッハー!!」


狂気にも似た叫びと同時に、空気の刃がユウを襲う。

首や手足を一刀両断になどしない……もっと、甚振るように……人間の形を残したまま……全てのパーツを残したそのままの姿で、鮮やかな血の華を咲かせる。

子供の肌は柔らかい……しかも誰もが恐れる”小さな悪魔”だ……その快感は絶頂を極めた。


命を弄ぶように切り刻んでいく。

限定空間は瞬きをする間もなく、周囲の空の色とは別のものになっていった。



ユウの元へ瞬間移動で跳んだものの、一瞬遅く”スカーレットコロナ”の結界に阻まれてしまった。リーダーの目前で、ユウが血祭りにあげられていく……。


意識を失い、防御結界も切れたユウに為す術など何もない。ただ無抵抗に、受ける傷全てが致命傷となっていく……破かれて開いた首元から、能力制御装置、試作機が点滅しているのが見えた。


強力な結界を前に、リーダーは念を込めた拳で、怒号の如く力尽くの一撃を加えた。激しい打撃音と共に、拳を当てた場所にピシッとヒビが入る。

間髪を入れずに、その場へ目掛けてもう一撃……!

低い声で微かな雄叫びを上げて奮った拳に、結界はガラスを粉々に割ったかのように崩れ去った。


「馬鹿な……!! なんだアイツは!?」


とどめを刺す前に限定空間を破壊された……むしろ強固と自負していた結界を、拳で叩き割られた事に”スカーレットコロナ”の戦闘員は驚愕した。新型リダクションデバイスは稼働中だ……!

鬼…………それはまさに、殺人”鬼”……だ……!


限定解除された空間は、中に溜め込んでいたものを重力と共に落下させる。

落ちる隙を見せずに、リーダーはユウを両腕で抱きかかえた。しっかりと腕の中に納まったユウに意識はない……血に塗れ、有り得ない姿にリーダーは一瞬、顔を歪め……再び抱き締めた。

みるみるうちに染めていく……リーダーの着ている精鋭部隊の制服は、失われていくユウの命の色で染まっていった。


即座に瞬間移動をして、高い瓦礫の陰で身を潜め、機を窺っていたシンジとサーラの元へ行く。


「撤退だ!!」


”殺戮集団”の名を持つ精鋭部隊は、その一言で全員この場から姿を消した。




とどめは刺せなかったものの、既に得た失血量から、助かるとは思えない傷を与えた。”スカーレットコロナ”の戦闘員は邪悪にほくそ笑み……そして両腕を高々と上げて勝利宣言をした。


「ヒャッハー!! ついに”小さな悪魔”をこの世から抹殺してやったぜ!」

「ヤツがいなければ”殺戮集団”もデカイ顔出来ねぇ!」

「悪魔を倒したんだ、俺達が正義だ!」

「これで俺達の天下だ! ヒャッハー!!」


恐怖の象徴として名を馳せた”殺戮集団”の主戦力を血祭りにあげたのだ……その喜びようも異様を極めた。事実上”スカーレットコロナ”が最高実力者となった瞬間だ。


限定解除された空間の真下は……おびただしい量の、死の色が広がっていた――……。







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