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第61話 体力数値

「ついでだから体力数値の話をしよう。ゴードン、今いくつ?」

「280」


「手合わせした時、130だったよね。随分増えたね」

「3600とかある奴から言われたくないよ……」


この地下施設の教育は、基本的に個人の自由だ。特に必須とする勉強も運動も決められてはいない。地下施設独自の規律さえ守っていれば、問題はないのだ。


そういう意味で、個人の能力差もやる気で幾らでも変わってくる。ゴードンのように、実動部隊最高峰の精鋭部隊を目指すという確固たる信念がある者は、そう多くはない。

色々あって訓練が出来ない時期も多少あったが、これでもゴードンは頑張って来た方だった。体力数値130から短期間で280へのアップは倍以上だ。指導者がいないのに、よくやっている。


……しかし同い年であるユウは、3625という、とんでもない数値だ。一体どうなっているのだか。ゴードンよりも小さく見えるのに……。


ユウは、くすっと笑って続けた。


「あれね……純粋な筋肉量とかじゃないんだよ。知ってる?」

「体力……全般?」


「そうそう、持久力も瞬発力も全部ごっちゃ混ぜなんだ、よく判らないよね。総合評価……ってやつ。ちなみに、実動部隊下限は1000、精鋭部隊は3500。入隊資格っていうのかな」


「え、言っちゃって良いの!?」

「公表されているよ。僕なんて、実はギリギリ」


ベッドの上で胡坐をかいて、ユウは苦笑する。


「部隊下限って、元々大人対象の数値だろ? 子供でギリでも入っていれば、充分モンスターじゃん」

「ん――……。」


ユウは、ゴードンから視線を外して、少し考える仕草をする。


子供と大人の体力基礎数値は大きく違う。

ゴードンが頑張って訓練を続けていても280なのに対して、大人は少し頑張ればすぐに1000を超える事が出来る。通常に暮らしているより、多少筋力とスタミナがある状態が1000だ。

それに比べ、精鋭部隊入隊資格である下限の3500は、よほど身体を鍛えた者の数値とあって難関となる。


「良い事を教えてあげる……さっき全部ごっちゃ混ぜって、言ったろ? どれかひとつでも極めていると、一気に数値が伸びるんだ」


暫く止まって、みつめあって考える。ユウの言いたい事がよく判らない。

ゴードンは腕を組んで、首を傾げた。

これだけでは伝わっていない事を感じて、ユウは話を続ける。


「……そうだね……。例えば僕だと、瞬発力はあるけど持久力は、さほどない。素早さに磨きをかけたって訳……。ある一定の素早さがあると、一気に数値が伸びるんだよ。持久力とか腕力とかも、みんな同じだ」


「つまり……何かひとつ、得意をみつけろって事?」

「そうそう。リーダーなんかほぼフルレンジだから、化け物並だよ」


「フルレンジって……」

「どの項目の数値も、全部その一定以上って事」


リーダーは誰もが知る、部隊最強の噂がある。

だが一般のゴードンには、どれだけの強さか知る事は出来ない。戦う所を見る事も、数値で人と測る事も出来ないからだ。


ユウが素早さだけを極端に上げていって、3625なのだから……。

幾つ項目があったのか、覚えていない。そもそも大人で身体を鍛えまくったリーダーだ……ユウの言う、一定を越えた後につくボーナスのような数値がなくても、高いに決まっている。


……ここは敢えてリーダーの体力数値は聞かない事にしよう。

今なら、教えてくれそうだが。


それにしても今日のユウは、おかしい。

このボーナスのようにつく数値の事だって、ゴードンは聞いた事がない。


「そんな事、俺に教えちゃって良い訳? 裏技みたいなもんじゃないの、それ」

「僕もリーダーに教わったんだよ。だから大丈夫。判ってても、なかなか出来ない事だし」


そりゃあ、そうだ……。

そんな話は聞いた事がないから、よほど高い数値……つまり、常人離れしたところからつく数値なのだろう。元々大人対象に設定されている数値で、それだ。子供のユウが可能にしている事の方がおかしい。

どれだけ素早いのか、想像も出来ない……普段のユウからは、そんな感じは全くしないのに。


むしろ、この話をしたという事は、ゴードンにも求めているという事なのだろうか……。精鋭部隊を目指しているから、可能性としての早道を教えただけなのだろうか。


「ユウは、自分で気が付いたの? 素早さが自分に合っているって」

「……その前にね、ちょっとした出来事があったんだよ。喧嘩じゃないけど……。その時の事を思い出したら……」


どんな出来事だ……。

素早さに気付くような出来事だ。まさかとは思うが……。


「食堂で、僕より大きい三人の男の子に囲まれて……一斉に襲って来て…………気が付いたら」


やっぱり……。

ゴードンは苦笑した。予想通りの展開だ。

しかし、これはどう聞いても喧嘩じゃないのか……いや、絡まれた? 難癖でもつけられたのだろうか……ユウが?


今のユウを知る限り、この話の三人の男の子はどう考えても無謀としか思えない。しかしユウが精鋭部隊に入る前の話だ……今よりずっと弱かったのかもしれない。

というか、……気が付いたら……?


「……で、試しに素早さ強化のプログラムを受けてみたら……ってところ」


随分と間を端折っている……話したくないのだろうか…………。

ゴードンの質問には、答えてくれているが。


食堂で起きた出来事……。

ゴードンはその時、何故自分はそこにいなかったのだろうと、後悔にも似た不満を走らせた。いつの話だか判らない過去の出来事なのに……。


もしも、その時そこにいたら……もっと早くにユウと出会っていただろうか……。


……そんな思いを抱いた。

しかし気になるのは、省略された部分だ。襲って来た三人の男の子はどうなったのだろう。……気が付いたら……の後が気になって仕方がない、何が起きたんだ。


「その三人の男の子は……生きてる?」

「当たり前だろ。名前も覚えていないから、今どうしているか知らないけど」


生死不明のように聞こえた。


いや、気のせい……だよな……まさかな……。

屈託のない笑顔を見せるユウに、ゴードンは薄ら笑いしか出なかった。







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