第60話 テレパシー訓練
「ゴードンはテレパシー出来ないんだっけ?」
「そうなんだよ~今訓練中だけど全然でさ~、人の能力には向き不向き、有るものと無いものがあるんだろ? 俺にはテレパシー出来ないのかな……精鋭部隊の夢が~!」
ゴードンは両手で頭を抱えて座り込んだ。
ユウからの借り物である精鋭部隊の制服を着ていても、やる事はいつも通りなので、その姿を見てユウはくすっと笑う。
精鋭部隊の外部での連絡方法は、主にテレパシーだ。出来なければ精鋭部隊に入れない……という訳ではないが、無いと不便という意味では不利になる。
「ゴードンは勘が良いから出来る筈なんだけどな……その制服、着たままやってみて」
「何着たって変わらないだろ?」
「精鋭部隊の制服ね……動きやすいとか丈夫とかもあるけど、ハイテクノロジーで作られていて、能力伝達力も大きいんだよ。人と能力にもよるけど、相性が良ければ基礎数値の二倍に近い力が出せる」
ゴードンは大きく口を開けて驚いた。
「ただでさえ強いのに!?」
「生き残る為にね、少しでも……て事だよ。前にも着ただろ? 気付かなかったの?」
「……お前にすぐやられちまったから」
ゴードンはユウに初めて会って、果たし状を叩き付けた時の事を思い出した。
能力戦込みの本気の真剣勝負を挑んだが、指定した場所である一般レクリエーション室は能力戦などに耐えられない。ユウの提案により、肉弾戦のみに切り替えたが……どうやって負けたかすら覚えていない程、ゴードンはユウに瞬殺されていた。
……そう、まさに瞬”殺”されたのだ。
開始直後のユウの一撃で、壁まで吹っ飛びめり込んで、頭は割れ……一時、死亡寸前だか一瞬死んでたか判らない状態になった……というのが本当の所だ。ゴードンはその間の記憶はない。
ゴードンを殺し掛けたのもユウだが、高出力治癒能力で瞬時に治して、命を救ったのもユウだ。
ようやく今になって、あの時、精鋭部隊の制服を貸してくれた理由が判った。
制服の持つ能力伝達力の高さを使って、少しでも防御結界を強化し、力の加減が判らないユウからの攻撃を緩和させようと貸してくれたのだ。
その時と同じ制服を、今またゴードンは借りて着ている。
あの時借りた精鋭部隊の制服は、実はユウの制服だった……そして今も、また。
……何だか出会いを思い出して、ゴードンはしみじみとしてきて制服を撫でた。
あの時破ってしまった跡は、この制服にはない……もしかすると別の制服なのだろうか……それとも、もうないのだろうか……。
「やってみて。僕の考えを詠んでみてよ」
感慨に浸っていると、ユウから訓練のお誘いが来た。
久し振りだ……ここの所ユウが忙しくて、訓練に付き合って貰う事はなかった。
失敗続きで停滞しているテレパシー訓練を、打開出来る良いチャンス。
ゴードンは頷いて、ベッドの上に座っているユウへ向き直る。
目を閉じ……集中……!
いつも育成基礎プログラムでやっている事を思い出して、実行した。
……。
…………。
「……全然わっかんねぇ……やっぱりダメなのかな……。何か考えてる?」
「なにも」
頭まっしろ、敢えて何も考えないでゴードンの相手をしているユウがいた。
テレパシーは基本”表面意識”と呼ばれる、極めて浅い意識下の言葉や感情を詠み取るものだ。言葉として発する直前の、構築された言語は詠みやすい。明らかな気持ちである感情も、そうだ。
そういった”表面意識”を詠む……比較的簡単に出来るタイプのテレパシーで、詠まれないようにするのもまた、簡単なのだ。表面だけでもポーカーフェイスを使えば良い……つまり、何も考えなければ良い。
ユウの何も考えないで相手をしているこの行為は、少し意地悪だ。
「~~ッ! それじゃ判る訳ないだろ――!!」
軽くポカポカと殴るような仕草をする。ユウは笑ってそれをガードする。……意外にもユウが冗談を言っている……とても楽しそうに。
「冗談だよ、もう一度」
「う~……」
ゴードンは溜息をひとつついて、それとは別に深呼吸をしてから再び目を閉じた。
気を取り直して、再び集中をする……。
『能力基礎数値は、僕が10000越え、リーダーが6000代、他の精鋭部隊のみんなは3000~4000代』
ゴードンは目を開け……いや見開いて、明らかに驚いた顔を見せた。
もうそれだけでテレパシーが成功している事が判る。
ユウは確信して、自信に満ちた微笑みをゴードンに向けた。
「聞こえた? じゃ……練習続けようか」
初めて成功したテレパシー……なんか……凄い事を聞いたような気がする……。
成功した喜びと、聞いた内容に驚きつつ、笑顔を向け続きを催促するユウに、ゴードンは無言で何度も頷いた。別に話す事を禁じている訳ではないので、喋っても良いのだが。
『今の数値は実戦に参加する実動部隊でも、第一、第二部隊からしか公開されていないから、ここだけの秘密……。精鋭部隊への道標のひとつだと思って、覚えておいて』
こくこくこく。ゴードンは三回も頷いた。
『もうひとつ……。これは一部だけが知っている秘密なんだけど、地下施設内は総て、録画記録されている。下手な事はしない方が良い、すぐバレる』
ゴードンは、またも大口を開いて驚いた。
『……それが録画記録されているんだってば』
多少呆れた顔を向けるユウに、ゴードンはわざとらしい咳払いを数回して気を取り直し、再びユウへ向き直る。
『昔、テロがあったらしく、そういう事になっているんだって……。常に誰かが総てを監視している訳じゃないけど、何かの際には過去に遡って証拠が突き止められる。……これは機密に抵触する。ゴードンだから教えるけど、他言無用だ』
真面目な顔をして、ゴードンを射抜くようにみつめるユウは、本気で自身の知っている秘密を暴露していた。幾らテレパシーで誰にも聞こえない、知られる事はないといっても、トップシークレットを一般のゴードンに漏洩するなど、普段なら有り得ない事だ。
ゴードンは聞いてしまったは良いが、急に不安になってきた。
……待って? 良いの……俺がそんな事知っちゃって……。
機密に抵触するとか言ってなかったっけ……? 今……。
ここだけテレパシー失敗で聞こえなかった振りをしたかったが、とても無理だ。既に顔に出ているし、明らかにうわてのユウに誤魔化しが効く訳がない。
「な……なんで、俺に……?」
「知っていて貰いたかったから」
普段はこんな事をする奴じゃないんだけど……。
ゴードンは戸惑いながら受け止めた。というか……もう知ってしまった以上、どうしようもない。ユウの意図が掴めなかったが、とりあえず気をつけよう。
『だから、さっきから僕が愚痴っていた事……全部リーダーに筒抜け』
「ええ!?」
「良いけどね……別に」
ユウはゴードンから視線を外して、横を向いた。諦めたような……ヤッテシマッタ感溢れるような、複雑な表情をしている。
……本気で愚痴っていたのか……。
もう笑うしかなかった。
しかし、これがテレパシーを混ぜた会話というやつか。
初めての体験に、ゴードンは興奮した。凄く面白い。
「全部クリアに聞こえた?」
「ハッキリ聞こえた! 凄い! 訓練じゃ全然ダメだったのに」
「ゴードンのテレパシーと制服が相性良いのかもね。部屋の中でなら着てて良いから、練習してコツ掴んで」
ファイティングポーズの如く両手の拳を握り締めて、ゴードンは大きく頭を上下に振って、思いきり頷いた。




