第48話 配線整理
ユウとレイカの結婚式”ごっこ”は大好評のうちに幕を閉じた。
子供の遊びにしては感動的な盛り上がりに、何故か大人のカップルがいくつも誕生していた。
ここにも一人……。
「いや~、ユウの結婚式ごっこでつい感動してたら、彼女出来ちゃいました!」
執務室で一人ハッピーになっている、親衛隊のシンジだった。
「管制室にいる子なんですけどね。いつもモニターで見ていますって言われて……。シンジさん、素敵だなと思っていましたって……!」
身をくねらせながら喜んでいる。少し不気味だ。
「ほー……。」
リーダーは興味無さそうに、適当に相槌を打った。
「初めての彼女なんです。嬉しいな~!」
「まぁ……大事にしてやれ。」
「勿論ですよ! そういえばリーダーはこうして毎日一緒にいますが、女性の影もありませんね?」
自分がハッピーだと、つい人にまで余計なお世話をしたくなるものだ。
「私なんか、どうです?」
サーラが立候補してみせた。
「冗談ぬかせ。」
「あら、私は本気ですよ。」
「女なんか面倒臭いだけだ。」
「男が良いですか?」
「俺を変態扱いするな。サーラ、お前最近毒付いているぞ、そっちが本性か。」
「あら、とんでもない。ほほほほほ。」
漫才のような二人を尻目に、シンジは時計を見て席を立った。
「巡回、行って来ます。」
精鋭部隊には多数の仕事がある。
外部への遠征や戦闘が主ではあるが、日課を持っている者も多い。
先日ユウが任されたシステム管理も、元々シンジの仕事の一環だ。
リーダーの命令により任せたとはいえ、ユウはまだ子供で勉強を始めたばかり。
念の為、こうしてシンジが確認をしていく。
二度手間だが、マニュアルも完全把握出来ないユウに、総てを任せる訳にはいかなかった。
チェックして歩いていると、廊下でゴードンに会った。
「あっ……シンジさん。ちょっと聞いて良いですか?」
「良いよ、何?」
「ユウが新しく任された仕事って、どんな事するんですか?」
「システム管理? 正常に機能しているか、こうして見て歩くだけだよ。万が一エラーが出てたら知らせてくれれば良いって言ってある。」
「アイツ毎日、半日以上かかって汗だくで汚くなって帰って来ますが……。」
「え? そんな訳……。」
シンジは少し考えてから、手近にあるチェック項目の場所へ行き、壁を開いてみる。限られた者にしか開く事が出来ない壁の中は、沢山の配線が縦横無尽に伸びていた。
しかし前回見た時と比べ、妙に配線が綺麗になっている……。
確か……かなりゴチャゴチャに入り組んでいて、壊れた時は気が重くなるような状態だった筈。
シンジはポケットから端末を出して、資材の在庫を調べてみた。
同じ資材のリサイクル待ちが増え、新規がほんの少しだけ減っていた。
察するに、ユウが配線の整理をして、劣化したものと交換までしているようだ。
「その端末、ユウと同じですか?」
「これ? 実動部隊ならみんな持っているよ。色々と便利なんだ、例えば……。」
検索すると、ユウが今いる場所が表示された。
「うわっ、凄い便利!」
「ユウも端末持っているからね。それで判る……、というか何か変な所にいるな。どこだ、これ?」
階と階の間の、壁の中にいるらしい。
「行く?」
「はい!」
直接ユウの近接に移動するのは何か嫌だったので、近隣の階へ瞬間移動。
「この辺の壁の中に……あ、いた。」
壁を開けると、子供がやっと通れる位の狭い空間があり、その遥か下……階と階の間に該当する深い暗闇の中で、能力で発動する光のエネルギー弾を光源代わりに点けて、ユウが作業をしていた。
「おおーいユウ、出ておいで。」
まるで迷い込んだ小動物を呼ぶように、シンジは何度か声を掛けるとユウは気が付いて、壁の中から出て来た。
壁の中での作業は施設内とは違い空調も効いておらず、今日もやはり汗だくで汚くなっていた。
「何してるの?」
「管理。」
ユウは袖で汗を拭く。服が既に汚れているから、拭いた顔も汚れてしまった。
「いや……俺、こんな事まで頼んでないけど……。チェックだけで良いんだよ?」
「リーダーが勉強の成果を見せろって言った。」
……確かに言ってたけど。
「どこか間違ってた?」
「いや……配線凄く綺麗になっていて吃驚した。でも、ここまでしなくて良いんだよ。大変だろ?」
「あのグチャグチャじゃ、何かあった時、時間掛かるんじゃないの?」
「まぁそうだけど……そういうのは担当部署があるから。俺達の管轄じゃないし。」
「担当があるなら、どうしてやらないの? 劣化して断線しかかってたのも沢山あったよ。ここなんて、子供じゃないと入れないし。」
「まぁ……そうだね。」
リーダーの命令とはいえ、流石にここまでユウにやらせるつもりはなかった。
しかしユウが言うのも一理ある。
面倒で後回しにされ、放置気味だったのも確かだ。
「じゃあ……悪いけど、頼むよ。でも、無理しなくて良いから。」
頷いて、ユウは作業へ戻って行った。
「マメな子だなぁ……。」
暗く狭い壁の中で、汗だくになりながら黙々と作業をするユウを、シンジは開けた壁の外から眺めながら呟いた。
リーダーがユウを、サブリーダーにしたがるのが何となく判った気がする。
能力戦における殲滅力の高さや、多種能力による便利さだけでなく、判る範囲は率先して全て片付けてくれる。
ただ少し頑張り過ぎにも見えるので、無理しなければ良いのだが……。
そこは大人が見てあげるべきか。
不意にゴードンのお腹の虫が鳴る。
時計を見ると、昼を過ぎていた。
「ユウ、いつからやっているの?」
「いつも朝起きると、もういないですよ。」
ちゃんと食事を摂っているのか、心配になって来た。
「じゃあここで。俺は執務室に戻ってから、食堂へ行くから。またね。」
「ありがとうございました!」
今回は6話構成。
ついに……このエピソードが始まってしまったのです。




