表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/89

第48話 配線整理

ユウとレイカの結婚式”ごっこ”は大好評のうちに幕を閉じた。

子供の遊びにしては感動的な盛り上がりに、何故か大人のカップルがいくつも誕生していた。

ここにも一人……。


「いや~、ユウの結婚式ごっこでつい感動してたら、彼女出来ちゃいました!」


執務室で一人ハッピーになっている、親衛隊のシンジだった。


「管制室にいる子なんですけどね。いつもモニターで見ていますって言われて……。シンジさん、素敵だなと思っていましたって……!」


身をくねらせながら喜んでいる。少し不気味だ。


「ほー……。」


リーダーは興味無さそうに、適当に相槌を打った。


「初めての彼女なんです。嬉しいな~!」

「まぁ……大事にしてやれ。」

「勿論ですよ! そういえばリーダーはこうして毎日一緒にいますが、女性の影もありませんね?」


自分がハッピーだと、つい人にまで余計なお世話をしたくなるものだ。


「私なんか、どうです?」


サーラが立候補してみせた。


「冗談ぬかせ。」

「あら、私は本気ですよ。」


「女なんか面倒臭いだけだ。」

「男が良いですか?」


「俺を変態扱いするな。サーラ、お前最近毒付いているぞ、そっちが本性か。」

「あら、とんでもない。ほほほほほ。」


漫才のような二人を尻目に、シンジは時計を見て席を立った。


「巡回、行って来ます。」



精鋭部隊には多数の仕事がある。

外部への遠征や戦闘が主ではあるが、日課を持っている者も多い。

先日ユウが任されたシステム管理も、元々シンジの仕事の一環だ。


リーダーの命令により任せたとはいえ、ユウはまだ子供で勉強を始めたばかり。

念の為、こうしてシンジが確認をしていく。

二度手間だが、マニュアルも完全把握出来ないユウに、総てを任せる訳にはいかなかった。



チェックして歩いていると、廊下でゴードンに会った。


「あっ……シンジさん。ちょっと聞いて良いですか?」

「良いよ、何?」


「ユウが新しく任された仕事って、どんな事するんですか?」

「システム管理? 正常に機能しているか、こうして見て歩くだけだよ。万が一エラーが出てたら知らせてくれれば良いって言ってある。」


「アイツ毎日、半日以上かかって汗だくで汚くなって帰って来ますが……。」

「え? そんな訳……。」


シンジは少し考えてから、手近にあるチェック項目の場所へ行き、壁を開いてみる。限られた者にしか開く事が出来ない壁の中は、沢山の配線が縦横無尽に伸びていた。

しかし前回見た時と比べ、妙に配線が綺麗になっている……。

確か……かなりゴチャゴチャに入り組んでいて、壊れた時は気が重くなるような状態だった筈。


シンジはポケットから端末を出して、資材の在庫を調べてみた。

同じ資材のリサイクル待ちが増え、新規がほんの少しだけ減っていた。

察するに、ユウが配線の整理をして、劣化したものと交換までしているようだ。


「その端末、ユウと同じですか?」

「これ? 実動部隊ならみんな持っているよ。色々と便利なんだ、例えば……。」


検索すると、ユウが今いる場所が表示された。


「うわっ、凄い便利!」

「ユウも端末持っているからね。それで判る……、というか何か変な所にいるな。どこだ、これ?」


階と階の間の、壁の中にいるらしい。


「行く?」

「はい!」


直接ユウの近接に移動するのは何か嫌だったので、近隣の階へ瞬間移動。


「この辺の壁の中に……あ、いた。」


壁を開けると、子供がやっと通れる位の狭い空間があり、その遥か下……階と階の間に該当する深い暗闇の中で、能力で発動する光のエネルギー弾を光源代わりに点けて、ユウが作業をしていた。


「おおーいユウ、出ておいで。」


まるで迷い込んだ小動物を呼ぶように、シンジは何度か声を掛けるとユウは気が付いて、壁の中から出て来た。

壁の中での作業は施設内とは違い空調も効いておらず、今日もやはり汗だくで汚くなっていた。


「何してるの?」

「管理。」


ユウは袖で汗を拭く。服が既に汚れているから、拭いた顔も汚れてしまった。


「いや……俺、こんな事まで頼んでないけど……。チェックだけで良いんだよ?」

「リーダーが勉強の成果を見せろって言った。」


……確かに言ってたけど。


「どこか間違ってた?」

「いや……配線凄く綺麗になっていて吃驚した。でも、ここまでしなくて良いんだよ。大変だろ?」


「あのグチャグチャじゃ、何かあった時、時間掛かるんじゃないの?」

「まぁそうだけど……そういうのは担当部署があるから。俺達の管轄じゃないし。」


「担当があるなら、どうしてやらないの? 劣化して断線しかかってたのも沢山あったよ。ここなんて、子供じゃないと入れないし。」

「まぁ……そうだね。」


リーダーの命令とはいえ、流石にここまでユウにやらせるつもりはなかった。

しかしユウが言うのも一理ある。

面倒で後回しにされ、放置気味だったのも確かだ。


「じゃあ……悪いけど、頼むよ。でも、無理しなくて良いから。」


頷いて、ユウは作業へ戻って行った。


「マメな子だなぁ……。」


暗く狭い壁の中で、汗だくになりながら黙々と作業をするユウを、シンジは開けた壁の外から眺めながら呟いた。

リーダーがユウを、サブリーダーにしたがるのが何となく判った気がする。


能力戦における殲滅力の高さや、多種能力による便利さだけでなく、判る範囲は率先して全て片付けてくれる。

ただ少し頑張り過ぎにも見えるので、無理しなければ良いのだが……。

そこは大人が見てあげるべきか。



不意にゴードンのお腹の虫が鳴る。

時計を見ると、昼を過ぎていた。


「ユウ、いつからやっているの?」

「いつも朝起きると、もういないですよ。」


ちゃんと食事を摂っているのか、心配になって来た。


「じゃあここで。俺は執務室に戻ってから、食堂へ行くから。またね。」

「ありがとうございました!」







今回は6話構成。

ついに……このエピソードが始まってしまったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、感想、評価、など。是非、皆様の声をお聞かせ下さい。
レビューを頂いたら、天にも昇るほど嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ