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第47話 現実には出来ない夢

 ゴードンが心配した通り、ユウは昼過ぎになっても、部屋へ戻って来なかった。


「居場所探知機でも、欲しい位だよ」


 何気なく、ユウのベッドの横に山積みにされている本を開いてみると、難解な文字だらけだった。

 ゴードンには何が書いてあるのか、ひとつも理解が出来そうにない。


「……こんなの、本当に読んでいるのか? アイツ……」


 突然、ユウが部屋の中に現れた。

 瞬間移動で帰って来た!


「えっ」


 いつもはドアから、普通に入ってくるのに。

 ユウは、妙に汗だくで汚れていた。

 急いでシャワーに入る。


「ど……どこに行ってたんだ?」

「システム管理。昨日、増えた仕事。思ったより、時間かかっちゃった」


 小奇麗になって、出てくる。

 電光石火の速さだ。


「時間は?」

「え? ああ……結婚式? 昼としか、聞いてないけど」

「行こう」


 ユウは小さな包みを持って、部屋を出た。

 ユウとゴードンは、速足で食堂へ向かう。


「……ユウ。嫌だったら、やめても良いんだぜ? 結婚式……」

「嫌じゃないよ」


「え? でも……」


 ――昨日の、暗い顔は?


「……”ごっこ”だって、聞いた。仮定……真似事まねごと、だって。

 それなら僕も、夢を見ても……良いのかなって」


 夢……?

 現実には出来ない、夢……?


「……うん」


 微笑んだユウは、少しだけ、哀しさを秘めていた。


「……あっ、またお前、()ん……」

「急ぐよ。ゴードン、捕まって!」


 言葉とは逆に、ユウはゴードンの腕を捕まえて、瞬間移動で跳んだ。



 ――食堂の扉の前に、現れる。

 急に景色が変わって、認識が追い付かなくなり、ゴードンはよろけてユウに捕まった。


「だから捕まってって、言ったのに」


 捕まる暇もなく跳んだのは、ユウなのに。

 ゴードンは、ちょっと文句を言いたくなった。



 扉を開けると、大歓声が起きた。

 子供達だけではない。

 噂を聞きつけた地下施設内の人々が、所狭しと食堂にひしめいていた。


 子供の”ごっこ”遊びでも、”英雄”の名をもつユウが新郎と聞いて、集まってしまったのだ。

 面白半分のお祭りだったが、これはこれで、楽しかった。


 食堂の、中心には――

 膝上ワンピースのような、真っ白いウェディングドレスを着て……。

 頭には、レースのヴェールを着けた、レイカがいた。


 手には、布の余り切れで作った、花束。

 唇に、薄付きの紅を差したレイカは、とても美しく見違えた。


 ゴードンは、ユウの背中を押す。


「行って来いよ」


 ゴードンに微笑みを残して、ユウはレイカへと歩いて行った。

 レイカの前の、一段高くしてある場所に、リーダーがいる。


「……なにしてるの、リーダー……」

「知らねぇうちに、こういう事になっていた。見届けてやる、誓え」


「なにを?」

「知らん」


 ……何をしに、来ているんだろう……。


 リーダーの少し後ろにいた、親衛隊のシンジとサーラは苦笑する。

 サーラが小声で、助言をした。


「ユウ。相手に対する、気持ちを言うのですよ。それが、誓いの言葉です」


 ユウはうなずいて、レイカへ向き直った。


「……守るよ。生きている限り、何があっても」

「ユウ……大好きっ!」


 ユウは持って来た、小さい包みを開けた。


「本当は、指輪なんだろうけど……。無いから、これで」


 包みの中には、七色に輝く可愛らしい工芸品の、髪飾りがあった。


 親衛隊のシンジは「ああ、それで」と小声で呟いた。

 昨日ユウとリーダーでヒソヒソと話していた理由は、”作成工房”のキサトから貰った工芸品の、一部個人所有について……だったのだと、気付く。


 見た事もない、素晴らしい工芸品に、驚くレイカ。


「どうしたの? これ……」

「指輪の代わり」


 そう言って、レイカの髪へ付けた。


 レイカは髪飾りを触って、笑顔を見せた。

 今まで誰も見た事がないような、幸せに満ちた、最高の笑顔――


「ほれ、ブチュッといけ、ブチュッと」


 リーダーが下品だった。

 ユウは、あからさまに嫌そうに眉をひそめる。


「結婚式のシメは、そういうもんだ。ほれ、早くブチュッとやれ」


 観衆が、見守る中――

 ユウは、一度目を閉じ……。


 ゆっくりと、まぶたを開けて、レイカへ向き直る。

 真摯な瞳でレイカをみつめ、ユウは、レイカのヴェールをそっと上げた。


「えっ」


 今までヴェールに閉ざされていた、白く、薄ぼんやりとした世界。

 それがユウの手によって開け、レイカの”愛する”人が目の前に、はっきりと見える。


 ――まっすぐな瞳。真剣な、表情……。

 ”ごっこ遊び”である事を、忘れてしまいそうな程――


 ゆっくりと、二人の距離が縮まっていく。


「えっ、えっ……本当に? ユウ……」


 レイカは戸惑いながらも、受け止める。

 大勢の目の前で、というレイカの気恥ずかしさ……。


 それを上回る、ユウの真剣さが……。

 この、ほんのわずかな瞬間の中に、凝縮されている気がした。


 鼓動が高鳴る。……ユウの顔が近い。


 目を合わせられない程、近くになって、レイカは目を閉じた。

 両手を握りしめて、身体を硬直させて。


 緊張の一瞬。

 ユウは……レイカの頬に、軽く口付けをした。



「うわ~……マジか、アイツ……」


 見ているゴードンの方が、恥ずかしくなった。


 次の瞬間、歓声が上がる。

 誰もが、想像し得なかった。

 ……そんな驚きと高揚感で、感動すら覚えた。


 ”結婚式ごっこ”は、子供の遊びにしては出来過ぎたお祭りとなって、終了した。







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