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第45話 結婚式ごっこ

 何時間経っても帰って来ないユウに、心配が頂点に達したゴードンは、ダメ元で聞きに行こうと立ち上がった。


 今頃、どんな目に遭わされているか、判らない。

 もしかすると……。

 考えを巡らすだけで、寒気がして来た。


「俺、見て来るっ!」


 部屋を飛び出そうとした時、開いたドアで、ユウと鉢合わせた。


 ――目が合った。

 すかさずゴードンは、ユウを頭から足先まで、両手で触って確かめる。


「……生きてるよ?」


 ゴードンは顔を赤くして、慌てた。


「よ……()むなって、言ってんだろ!」


 別にテレパシーじゃなくても、考えている事など一目瞭然だった。


 ユウは入り口を塞いでいるゴードンを避けて、部屋に入る。

 部屋の中には、レイカとハルカがいて、テーブルの上にクッキーがあった。

 椅子に座って、クッキーをつまむ。


「美味しい」


 微笑んで――

 クッキーをくちに挟みながら、ユウは持っていた書類を開いて、読み出した。



 あまりにも何事も無かったようにしているのが、不可解だ。

 ゴードンはさっきまで座っていた椅子に座り直して、ユウの顔を見ながら聞いた。


「リーダーの所、行って来た……んだよな?」

「うん」

「ユウさま、大丈夫だった? なんか、その……」


 言えないような処遇で、このクッキーが最後の晩餐になるのではと、ハルカは心配した。


「気にするなって。怒られなかった」


 書類から目を離さずに、ユウは答える。


「えっ!?」


 ――レイカの時は、あんなに威圧されて、一時、死を覚悟したのに。

 もしかしてリーダーは、ユウには激甘なのか……?


「代わりに、仕事増えた」


 ユウは書類を読みながら、クッキーをポリポリと食べていく。

 ゴードンが覗き込んでみると、配線やら、よく判らない図面と難しい単語が、ずらっと並んでいた。


「これ、判るの? お前……」

「一部だけね。必要なところ、教えて貰ったし」


 レイカとハルカも覗き込んでみたら、訳が判らな過ぎて、クラクラしてきた。


「でも良かった~! とりあえずユウが酷い目に遭ってなくて!」

「なに言ってるの、全部レイカのせいよ」

「ええっ、そんな事、言われても……」


 ……なんだか色々心配して、気を揉んだ自分が、バカみたいだ。

 そう思ったらゴードンは呆れて、テーブルに肘をついて頬を乗せ、くちを突いてテキトウな言葉を言い放った。


「もうお前ら、結婚でもしちゃえよ」




「…………」


「…………それだっ!!」


 わずかな沈黙の後、ハルカがゴードンを、指さして叫んだ。


「え?」


「結婚! しちゃいなよレイカ! ユウさまと!」

「……え?」


 今度はゴードンとレイカ、二人同時に疑問符を打った。


「なに言ってるのハルカ……。私達、まだ子供だよ……?」

「ごっこで良いのよ、ごっこで! レイカいつも、ユウさま愛してるって、言ってるじゃない。

 しかも! さっきのユウさま見たでしょ? 誰が見ても、相思相愛よ!」

「自分で言ってて、なんだけど……ハルカ??」


 ゴードンは話が見えなくなって来た。


「結婚したら、ユウさまも落ち着くんじゃないかな。もう誰にもレイカを取られる心配、なくなるし」


 むしろもっと執着心が強くなって、恐ろしい事になるんじゃないかと、ゴードンは思った。


「結婚式しよう! そうしよう!」


 ハルカは勢いよく立ち上がって、ドアへ向かった。


「みんなに言って来る! 忙しくなるぞ~!」

「えっ、ちょっ……」


 既に走って行ってしまった。



「え、と……」


 止めようと出した手が、宙ぶらりんのゴードン。

 困惑した表情で、レイカに視線を送る。


「……ハルカって、いつも、ああなの?」

「……うん」


 苦笑して、レイカが答えた。


「思いついたら、即、行動なんだよね」


 また厄介事に、ならなければ良いけど。

 ――当事者のユウの反応が、全くない。


「ユウ、聞いてた?」

「……ん……?」


 やっぱり。聞いていない……。

 ユウは書類を読んでいて、会話に参加していない。


 ゴードンは、不思議に思う。

 こんなに騒いでるのに、なんで気にしないんだろう? コイツ……。


「ハルカが、お前とレイカの結婚式するって言って、出て行った」

「……ふぅん…………。えっ!?」


 会話を聞いていないユウには、どうしてそうなったのか全く判らない。

 レイカは、もじもじしながら頬を染めて、ユウを見る。


「私は良いよ……。ユウは私とじゃ、イヤ?」


 ……なんていうか。

 もう、ツッコミドコロ満載なんだが、どうしよう。

 ユウに鶴の一声を、ゴードンは期待してみる。


「……僕は……」


 ユウは、とても辛そうな表情を見せた。



 え?

 あれ?

 なにかオカシイぞ。


 不意に、ゴードンは思い出した。

 ユウの兄、ハジメの言葉を……。



「ユウは私の事、嫌い?」


 急に暗い表情を見せたユウに、レイカは不安を覚えた。

 そういえばユウから、レイカに対する気持ちを、言葉として聞いた事はない。


「そうじゃなくて……」


 辛そうなユウに、不安そうなレイカ。


「ちょ、ちょっと待って、レイカ。ユウと話させて」


 ゴードンは、レイカとユウの間に、割って入る。



 ――この感じは、前にもあった。

 何かを隠しているのは、確かだ。


 でも、言うだろうか。

 たぶん、言わない……。いや、言えない。



「なぁ、ユウ……。レイカの事、大切?」

「……うん」


「どのくらい、大事?」

「……レイカは僕が守る」




 ユウの台詞を聞いて、時が止まった。

 ゴードンはくちを大きく開けて、驚愕の表情をする。


 うわ……っ、言ったぁあ!

 コイツ、恥ずかしいような台詞を、真顔でスラッと!


 なんでそんな台詞を言えるんだ、こっちが恥ずかしい。

 ……というか、これが紛れもない、ユウの本心か……。


 ゴードンがユウの台詞にドギマギしていると同時に、レイカは両手を頬に当てて、真っ赤になっていた。


(レイカは僕が守る。レイカは僕が守る。レイカは僕が守る……)


 レイカの頭の中では、今のユウの台詞が、何度も何度も繰り返されていた。


 やっぱりユウは、私の白馬の王子様だ~!


 そう思うと、もう舞い上がって、くちから心臓が出て来そうにバクバク波を打って、居ても立っても居られない。


「わ、私、ハルカの所へ行くね! また後でねっ」


 レイカは慌てて、部屋を出て行った。



 ――余計な事を、したかなぁ……。


 ゴードンは少し後悔をした。

 ユウは暗い顔をして、うつむいたままだ。


 椅子に座り直して、クッキーを食べる。

 うつむいたままの、ユウにも差し出す。


「……ほい」


 ユウは無言で受け取り、パリッと食べた。







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