第44話 悪魔の計画
リーダー執務室では、無言の時間が流れていた。
ユウが入室してから、かなりの時間が経つ。
無言の時間は長く感じられるが、実際に時は刻まれていた。
親衛隊のデータ整理の音だけが、室内に木霊する。
ユウは無言で立っていた。
手元の処理が終わったようで、ようやくリーダーはユウへ視線を移す。
「今回の報酬に、防御壁の強化教育を、おっさんに依頼された。
ユウ、お前がやれ。以前にやった、短期集中強化訓練と同じで良い。防御壁も防御結界も、使うのは結界能力だ、基本は変わらん」
「え? でもアレは、かなり手荒だけど?」
「回復部隊は、うちで用意する。向こうのレベルに合わせて、手加減してやれ。
こちらの情報が知りたいと言うんだ、適切だろ」
親衛隊の二人は、あの地獄の特訓を思い出して脱力した。
報酬というより、更なる悪評の元になる気がしてならない。
「必要なものがあったら言え。日時は後で通知する。以上だ」
「…………」
リーダーからの用事が済んだのに、ユウは退出しない。
少し間を置いてから、ユウは上目遣いで聞いた。
「……怒らないの?」
リーダーは再びユウに視線を戻す。
「怒られるような事をしたのか?」
「……うん」
下を向いて、反省の色を見せるユウ。
「なら、お前に仕事をひとつやる。システム管理だ。勉強の成果を見せろ。判らない事があったら、シンジに聞け」
「……うん」
自分のした事に対して、リーダーからの処遇が納得いかない様子のユウを尻目に、リーダーは別方向を向いて言った。
「ま、今回は俺の人選ミスだ。気にするな」
きょとん、としているユウを、追い払うように手を振った。
「ほれ、さっさと仕事に行け。シンジ、最初だけ教えてやれ」
「はい」
親衛隊のシンジが同伴して、ユウは退出した。
「リーダーは、ユウには甘いですね」
サーラは席に座ったまま自分の仕事を続け、リーダーと目も合わさずに、歯に衣を着せぬ物言いをした。
「言ったろ、俺の人選ミスだ。全くの一般人より、多少関わった者の方が扱いやすいと判断した。だがレイカを入れたのが間違いだった。正直あそこまで過剰反応するとは、思わなかったぜ」
リーダーは椅子に凭れ掛り、一息ついてから、思い出す。
「そういや、前にもあったな。あれで気付くべきだったか……」
レイカが謹慎処分になった経緯で、ユウが初めてリーダーに歯向かった事があった。
いつもは従順なユウが、レイカの身の危険には、人が変わったようになる。
「ま、正直な所……。アイツは粛清するより、利用した方が、便利だし役に立つ。ミスに対しては、俺の為に働いて貰う。その方が効率的だ」
ある意味、リーダーが悪魔のように見えて、サーラは苦笑した。
「……そうやって、いつかサブリーダーにしようと?」
「そのうち、嫌でもやらせる」
この地下施設には、総責任者のリーダーでも変更が出来ない、幾つかの”掟”がある。
リーダーは、前任者からの指名制。
サブリーダーも、現リーダーからの指名制で、反論も拒否も認められない。
ただ、拒否権はないが、承諾しなければ保留となる。
一応、本人の意思は尊重されている訳だ。
ユウのサブリーダー任命も、毎回拒否し続けられ、保留のままだったが――
ターゲットロックオン状態で、虎視眈々と、その機を狙っているリーダーがいた。
この調子だと、ミスをする度に弱みに付け込んで、近いうちに無理矢理、着任させられそうだ。




