第29話 晴天の稲妻
「来たぜ」
先程と同じように、リーダーと精鋭部隊、そして随伴の”桔梗乙女”の女性達が、大広間に突然現れた。
「おら、図面返しな」
顎で要求をする、リーダー。
「!? お、お前ら……どこから……。結界が、あっただろう!?」
男達は慌てふためき、どよめいた。
通常の来訪者は、結界の外から通信を入れ、許可を取ってから正門より入ってくるものだ。
リーダーは呆れた顔をする。
「またこのパターンか……。あんなペラッペラなの、よく結界とか言ってんな、お前ら。良いから早く出せよ、図面」
目つきも態度も悪い、噂の”殺戮集団”を前にして、おずおずと件の図面が差し出された。
リーダーはそれを受け取り、荒々しく図面を開いて、中身を確認する。
「あんた……。もしかして、こことも”同盟”するのかい?」
コーラルが訪ねた。
「ああ……」
今度は割と、肯定的な態度だった。
「お……おやっさん、あの薄着姿の女達……。もしかして、”桔梗乙女”じゃないですか?」
「さっき、あの辺りで爆発が観測されています。もしや、あいつら……」
「こ……ここへ来る前に”ひと仕事”して、女達を連行して来たのか!?」
「あの薄着……もしかして、既にあいつらに……。ああ……可哀想に……」
「連行して来たって事は……」
この後に待っている彼女達の運命を予想し、男達はざわめき、たまたまこの場にいた夫婦は抱き合い、恐怖した。
”桔梗乙女”を随伴した事で、噂に尾ひれが付き、あらぬ疑いをかけられ、挙句この場にいる男達は敵意を剥き出しにしていた。
とてもこれから同盟を組もうという雰囲気ではない。
「責任者、誰だ」
リーダーは、そんな雰囲気などお構いなしに事を進めた。
「お、俺だ……」
屈強な男達に囲まれた中から、中年の男性が名乗り出た。
見るからに人の良さそうな顔立ちをしている。
「同盟、交わすぞ。いいな」
「あ、ああ……」
意外と簡単に話しがついてしまった。
「おやっさん! こ、こんな奴らと……!」
「仕方がないだろう。奴らと俺達とじゃ、力の差があり過ぎる。同盟という形で、皆殺しを避けられるなら、それしかないんだ」
”友好的な関係”というより、屈服させているだけだった。
「俺達は、団体名”晴天の稲妻”を名乗っている。よろしくな。俺は、みんなから”おやっさん”と呼ばれている」
中年の男性が、自己紹介をした。
「で……、あんた……その女性達は……」
リーダーの鋭い眼光が、”おやっさん”を射抜いた。
恐怖が走り、戦闘態勢を取る男達が、乱出する。
「早速だが、協力して貰おう。資材を出せ。食料もだ」
リーダーは冷徹な瞳で、威圧する。
もはや”友好的”な部分など、どこにもない。
ただの恐喝だ。
「や、や、やっぱり……あいつら……!」
「従うしかないだろう。どの位必要だ?」
敵意剥き出しの部下を抑え、”おやっさん”は交渉に入る。
まさか、あるだけ全部……という訳ではあるまい。
――そう願うしかない。
「十キロメートル南に、半壊した建物がある。比較的、状態は良い。あそこを直して、この女達に使わせる。その為の資材だ。うちも出す。食料も同じだ」
リーダーの言葉に、コーラルが驚く。
「え!? い……命、助けて貰った上に、住む所や食料まで!?」
「ウチじゃ、この人数は受け入れられん。自分達でなんとかしろ。コーラル、お前もこのおっさんと同盟しろ。その方が話が早い」
”桔梗乙女”は、総勢五十人弱居た。
流石に、その人数を受け入れる事は出来ない。
無論、それはどこの団体であろうと同じだろう。
「ちょ、ちょっと待て! ……命、助けられた?」
”おやっさん”は、有り得ない言葉が出て来て、戸惑う。
コーラルは自己紹介をしてから、随伴する事になった経緯を、簡単に説明した。
「もしも、この男が気付かなかったら……いや、こいつらが来なかったら……。
私達は今頃、全員、あの世行きさ。突然の事だったから、下着姿同然の子も多いんだよ。悪いね、見苦しくて……」
コーラルの話を聞いた、広間にいる全員が驚いた。
――ここにいるのは、本当にあの、”人殺し集団”か?
緊張が、一気に溶けた。
「な、なるほど……大変だったな。おい、誰か彼女達に、着る物を持って来てやれ!」
すぐに有り合わせの服や、布が用意された。
”おやっさん”と言われるだけあって、世話焼きだ。
――噂では、”人殺し集団”などと呼ばれているが、どこから来たガセだろう。
確かに態度はデカいし、威圧的だ。
だが、きちんと正面向き合えば、なかなかどうして……良い青年じゃないか。
などと”おやっさん”はリーダーを見る目を180度変え、同盟を結んだ事を喜んだ。
ふと、思い出す。
「? 十キロメートル南って、”ストーンクラッシャー”の奴等が、巣食ってた場所じゃないのか?」
「昨日、俺らが壊滅させた」
リーダーの言葉に、一同が凍り付く。
「図面は返さねぇと言って、全員で抵抗しやがった。死体は転がっているが、建物の状態は悪くない。片付けて使え」
……やはり、噂通りの”人殺し集団”だった。
もうすっかり悪役です。
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