第28話 生命維持装置の不調
急に空気が淀んで来た。
どうやら建物に設置された生命維持装置に、不具合が起きているようだ。
「すまない……かなり前からなんだ。騙し騙し使っているが、根本的に直せる者が、ウチにはいなくてね……」
”外”は誰も寄り付かない程の、高い汚染濃度だ。
壊れたら、どうする気だろうか。
仕方なくリーダーが立ち上がる。
「俺が見てやる。ユウ、付いて来い」
「え? あ……あんたが?」
「回収した図面は、俺が書いた。案内しろ」
コーラルは女性達の中でも、一番、機械を扱える方だった。
とはいっても運用は出来ても、開発や改造などは出来ない。
件の図面には、コーラルが見た事もない技法や、聞いた事もない単語で埋め尽くされていたので……自分には、とても手に負えない高度な代物だ、という事だけは判った。
それを、この”殺人鬼”と呼ばれる男が書いた物だとは、にわかには信じ難い。
「早くしろ。全員、死にたいのか」
リーダーは、生命維持装置の不調を指して言ったつもりだったが、”殺人鬼”の二つ名から、誤解されたようだ。
聞いた女性達が、怯え出した。
「あ、案内するよ……」
コーラルは、遥か地下へと、降りて行く。
この建物自体が、古い時代の遺物のようだ。
何に使うのか判らない、錆びた鉄の塊が沢山並んでいた。
生命維持装置は、地下施設で使っているものより、遥かに大きく……
その割には、処理能力が極めて低かった。
古いどころではない。
「こんなの、初めて見たぜ」
リーダーの指示を受け、ユウは探査能力で壊れている箇所を洗い出し、次々と示した。
「あと、そこと、そこと、そこと……」
「待て、多過ぎる。お前も手伝え。教える」
手早く二人で、修理をしていく。
その様子を見ていたコーラルは、唖然としていた。
――これが、あの”殺戮者”として、有名な……
なかでも特に悪名高い、二人の姿なのだろうか。
会ったばかりの赤の他人の為に働く姿は、どう見ても”良い人”だ。
……いや、もしかするとこの後、莫大な報酬を要求してくるのかも知れない……。
そう考えると不安だったが、生命維持装置の停止は命に関わるので、任せるしかなかった。
作業をしながら、ふと、リーダーは疑問に思う。
「おい、ここの動力源は、なんだ」
突然、話を振られて、コーラルは慌てて答えた。
「え? ああ……よく判らないけど、遠い所から引っ張って来ているみたいだよ」
「判らないだと?」
よくそんな状態で……と、文句のひとつも言いたくなったが、妙な違和感がある。
急を要し、ユウに探索をさせた。
「! リーダー!!」
精鋭部隊はリーダーからの連絡を受け、建物から即時撤退をした。
建物の上空に現れる、精鋭部隊のメンバー。
間を置かず、リーダーとユウ、
そして建物内にいた”桔梗乙女”の女性達が、ユウの防御結界に守られて、現れた。
……地響きがして、大地が揺れる。
誰も立ち入れない高濃度の汚染地帯から、爆発音が聞こえて来た。
その直後……
先程までいた建物が、煙に包まれていく……。
精鋭部隊が持っている計器が、けたたましく鳴り響いた。
「リーダー、危険です。あの煙は、高濃度汚染物質です」
「判っている」
広がっていく煙を……リーダーは厳しい瞳で、みつめていた。
「ユウ、防御結界を維持しながら、地下にあった鉄の塊を溶かして、地下を封鎖出来るか?」
「やってみる」
リーダーの命令を受け、ユウは能力を発揮した。
目を閉じ、意識を建物内へ向ける。
遠視能力との組み合わせだ。
地下にあった――
何に使うのか判らない、錆びた鉄の塊が、ユウの能力によって溶け出した。
ドロドロになった鉄は、ゆっくりと、更なる地下へと流れ込んでいく。
湧き上がる煙の、その元へ……吸い込まれていくように。
やがて建物から出る煙は、少しずつ止まっていった。
ユウや、建物を見ていても、
何が起きたか、ユウが何をしたのか……その経緯を知る事は出来なかったが、リーダーの命令通り、封鎖をする事には、成功したようだ。
「何が起きたんですか?」
親衛隊のシンジが質問をすると、リーダーは建物から目を離さずに、答えた。
「古い建物だとは思っていたが、事もあろうか、高濃度汚染地帯からエネルギーを引っ張って来てやがった。さっきの爆発で、地下通路が完全に開放されたんだろう。
俺達は防御結界があるから良いが、気付かなかったら、無防備な女達は全員、死んでいたぞ」
ようやく状況が把握出来た女性達は、恐怖に震えた。
さっきまで居た場所は、”死の地”となってしまい、もう帰る事は出来ない。
たまたま”今日”やって来た、この”人殺し集団”に、命を助けられるなど……誰が想像しただろう。
「あ、ありがとう……」
コーラルは、礼を言った。
この後、どんな要求をされるか判ったものではないが、命を救われる以上の恩義はない。
「ま……、次、行くか」
リーダーと精鋭部隊は、”桔梗乙女”の女性達を連れて、残り一箇所の図面の回収へ向かった。
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