第27話 同盟
地下施設から、遠く1000キロメートル離れた場所まで、やって来た。
そこは汚染が酷く、更にもう少し先へ行くと、もはや通常の”防御結界”は、意味を成さない。
能力を持つ「新世代」でも、足を踏み入れる事が出来ない地が広がっている。
そのギリギリ手前に、彼女達は住んでいた。
奴隷や凌辱の対象となった女性達が集まり、追っ手の来ないここまで逃げ、ここで暮すことを選んだ。
自由になった彼女達は、子供欲しさに男を漁る時がある。
稀に遭難者が訪れると、そんな彼女達の「餌食」になるという。
図面の一件がなければ、お互い、永遠に接点など無かっただろう。
「来たぜ」
ふてぶてしい態度で、リーダーと精鋭部隊は突然現れた。
目つきの悪い集団。
「ほら、早く図面返せ」
リーダーは顎で要求をした。
あまりに突然やって来たので、彼女達は驚く。
「ど……どうやって入って来たんだい……? 結界が、あっただろ……?」
「あんなの紙じゃねぇか。ほれ、早く返せよ」
彼女達の作る守護結界”防御壁”を、いとも簡単に破って入ってしまったらしい。
「女の守りを貫くなんて、荒い男だねぇ……」
妙に意味深な台詞を言う。
「うだうだ言ってねぇで、早く出せよ」
段々リーダーが苛々して来た。
図面は丸めて綺麗にリボンが掛かった状態で、差し出された。
女性ならではの心配りだろうか。
リーダーは中身を確認すると、撤退命令を出した。
「帰るぞ!」
「ちょ、ちょっと待ちなよ! 話があるんじゃないのかい?」
すぐに椅子とテーブルと、滅多に手に入らないような香り高いお茶が用意された。
「んだよ。俺は忙しいんだ」
「……あんた、同盟しに来たんじゃないのかい?」
「…………同盟!?」
ユウは吃驚して、つい言葉に出してしまった。
「あら、可愛い男の子。この子が噂の”小さな悪魔”さん?」
わらわらと女性が寄って来る。
「殺すんじゃねぇぞ、ユウ」
「え……え?」
「きゃー殺すとか言ってるぅ! 怖ぁい!」
「私のココロを射止めてコロシてぇ!」
「なにこれ……!?」
フェロモンの集団が襲って来る。
言い得ぬ恐怖で、ユウは逃げた。
「きゃー! 可愛い!!」
「いやん、抱きしめたーい!」
「こらこら、静かにしな。話が出来ないじゃないか」
先程からリーダーと話をしている女性が窘める。
「名乗り遅れた、申し訳ない。私はコーラル。この団体”桔梗乙女”のまとめ役をしている」
コーラルは、先ほど用意した椅子に座って自己紹介をした。
「なにが乙女だ。あいつら何とかしろ」
窘められた女性達は、柱の影から……こちらを見ている。
目を爛々と輝かせ、獲物を狙うハンターのような瞳で、ユウを凝視している。
殺意とは違う謎の視線に、ユウは怯えて、珍しく大人の影に隠れていた。
「あはは、ごめんよ。その子、可愛いからねぇ」
コーラルは苦笑して、女性達を下がらせる。
人払いされてようやく落ち着くと、ユウはリーダーの元へ行った。
「同盟……て?」
「以前から、考えてはいたんですよ。うちは完全に孤立していますから、情報や資材に限りがあります。例えそれらに問題がなくても、好意的な繋がりは、将来的に必要でしょう」
サーラが丁寧に、説明をしてくれた。
「けっ……面倒臭ぇ」
「リーダーが言い出したんじゃないですか」
「リーダーが!?」
ユウが驚いた。
「俺が同盟考えたら、オカシイのかよ!」
それならこの態度は何だろう、と不思議になった。
「あはは。あんたたち、噂は酷いけど意外と面白い人達だねぇ」
……何が面白いのか、ユウにはよく判らない。
「噂って、何だよ?」
「色々あるよ。人殺し集団とか、悪魔軍団とか、殺戮集団とか。
その子が”小さな悪魔”とか、呼ばれているだろ? リーダーのあんたは”殺人鬼”……だったかな?」
酷い言われようだが、身に覚えがあり過ぎた。
それにしてもコーラルは、その悪評三昧の当人達を目の前にして、よく言えるものだ。
「同盟って、具体的に、なにをするの?」
ユウの質問に、サーラが答える。
「そうですね……文献によると、書面を交わして友好の証を建て……」
「書類なんざ、意味無ぇ」
即、否定をするリーダー。
「困った時は、お互い協力し合う相手として……」
「他人と組むなんざ、性に合わねぇ」
「…………」
「…………」
何と言うか、もう言葉がない。
親衛隊の男性――シンジは、少し考え……
何かを思いついたように、ポンと手を叩いて、ユウに言った。
「友達を作ろうって事ですよ。個人ではなく、大きな団体同士の」
「あ……なるほど……」
何となく、ユウにも判ったような気がする。




