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短編

魔女と忌み子と奴隷の子供たち

作者: カズキ
掲載日:2018/02/13

 命に価値がつく。

 その場所では、命は金になる。

 

 「全部、いいえ全員私が買う」


 女性であった。

 黒いマーメイドタイプの白い肩を露出させたドレスを着た、妖艶な女性であった。

 すらりと長い指を、ステージの上で不安そうに並んでいる十歳未満の子供達に向ける。

 鎖と枷が嵌められた、多種多様な種族の奴隷の子供達が生気の無い瞳でうつむいている。

 何人かはびくりと体を震わせた。

 その女性の横で、白髪の青年が女性を小さな声で嗜めた。


 「お母様。無駄遣いは如何なものかと思います」


 年の頃、十代後半から二十歳ほど。魔女よりも頭一つ分背が高い青年である。

 母と呼ぶには年が近すぎる。

 おそらく義母かなにかなのであろう。


 「必要な出費だ。お前が言ったんだろう? 弟や妹が欲しいと」


 「何年前の話ですか」


 ざわつく会場。その中心にあってその女性はどこまでも傲慢を絵にかいたような笑みを浮かべ、返した。


 「さぁ、忙しくなるよ」




 白髪の青年ーーウェインがこの黒い衣装が似合う妙齢の女性と出会って今年で十五年になる。

 真っ白な髪と赤い目を持って生まれたがために、実の両親から忌み子として森に捨てられたのだ。

 その森を泣きながらさ迷っていたら、この女性に拾われた。

 女性は、その森の奥深くに棲むという魔女、その人であった。

 

 「ふむ、忌み子か。ただの色ちがいでさえ認められないとは、相も変わらず人間は馬鹿な生き物だ。

 子ども、腹が減っているだろう? 甘い焼き菓子でも食べにこないか?

 お前だけでも世界の広さを知っておくべきだ」


 家族の誰よりも優しい声でそんなことを言われたのを、ウェインは今でも覚えている。

 魔女の焼いた菓子はこの世の物とは思えないほど甘くて、とても美味しかったことも忘れていない。

 何よりも、彼女は学も何もなかった彼を育ててくれたのである。

 その彼女のおかげで魔法を覚えたし、文字の読み書きも覚えた。

 何よりも、世界の広さを教えてくれた。

 彼の生まれた西大陸を含めて五つの大陸があることを知った。

 彼の生まれて数年間だけ過ごした村が、ほんとうにちっぽけな小さな世界だということも知った。

 母親に近い優しさと愛情も与えてくれた。

 だからウェインは魔女のことを敬意と感謝と、そして本来の意味も込めて母と呼んでいる。

 

 「お前を拾った理由か? まぁ、見るからに腹を空かせていたのと知り合いの魔女(私の母親)が子育ては良いものだと楽しげに話していたのを思い出したんだ。

 興味本意で私も子育てをしたくなったんだ。ちょうど良いだろう?

 お前は、小さな世界で嫌われた。私はもっと大きな世界で嫌われてお母さんに拾われて魔女になった。

 嫌われもの同士だ、私の家族ごっこに付き合ってくれ」


 いつだったか、そう母親となった魔女は言っていた。

 魔女には兄弟姉妹がたくさんいるとも聞いた。

 彼女の母であり、【異界の魔女】であり【ハジマリの魔女】と呼ばれている女性が孤児を拾っては育てているうちに大家族になってしまったようだ。

 魔女の兄弟姉妹たちは、独り立ちして、立派に生涯を閉じた姉や兄、弟と妹もいるということだ。


 「だから、死、というものが嫌いなんだ。永遠のお別れだからね。

 それでも、子どもを育ててみたかったのさ。お前は、長生きしてくれると良いんだが」

 

 なんていつだったか魔女の集会前に着替えを手伝ったら言われたこともある。

 ちなみに、彼女の母ーー異界の魔女とはその集会についていった時にウェインは顔を合わせた。

 ウェインからしたら祖母のようなものだったが、おばあちゃんと言うには気が引けた。

 なにしろ、ウェインの母親である魔女よりも若くみえたのだ。

 十代半ばくらいで、異界の魔女は肉体の時間が止まっていた。

 しかし、孫にあたるウェインをそれはもう歓迎してくれた。

 その時、異界の魔女は彼女の一番弟子を紹介してくれた。

 異界の魔女ともっとも付き合いが長く、兄弟姉妹の中でも長男になる男性だった。

 ウェインからすればおじさんと言ったところである。

 しかし、やはり【おじさん】というのも抵抗があった。

 太陽のように黄金に輝く金髪と女性と見紛うほどの美貌を持っていたからだ。

 まだ七歳だったウェインは、恥ずかしくて母の影に隠れて集会をやり過ごしたのだ。


 


 魔女はまとめ買いした奴隷の面倒を、長男であるウェインに押し付けると出掛けていってしまった。

 魔女の屋敷は貴族の家よりも広い。

 数年前に改装したのだ。

 いま思うと、このためだったのかとわかった。

 行き当たりばったりで、気分屋の母親に苦笑しか出てこない。

 

 森のなか、枷と鎖を外された新しい弟と妹達はただ戸惑っている。

 そんな彼らにウェインは言った。


 「さて、それじゃまずは体を洗おうか」


 奴隷というものは、元々は貴重な生きる財宝だったのだと母親から教わった。

 ウェインが生まれるよりもずっと前、奴隷というのは買われた家に仕える生きた財産であったので高額で売買され、とくに農村部では大切にされていたらしい。

 それが現代のように安く買い叩かれ、虐げられ、ただの道具のような価値になったのには、いくつか理由がある。

 あくまで、西大陸での歴史になるが、その最も大きな理由が戦争であった。

 いわゆる侵略戦争で敗戦国の者達は奴隷されていった。

 数が増えたので、価値が下がったのだ。

 それまで高価な生きた財産であった奴隷達が、安価な財産となったらしい。

 それが現代の基礎となってしまったらしい。

 そして、安いモノは大事にされない傾向がある。

 大浴場に子供たちを案内し、順番に体を洗ってやり湯船に浸かるよう教える。

 昔、母と一緒に入っていた頃のことを思い出しながら数を数えさせ、体を十分に温めて、魔女が用意していった服に着替えさせる。

 その間も子供たちは戸惑ったままだった。

 中には、どういうわけか伽の知識を持った子供もいて、ウェインにそういうことをされるのではとビクビクしていた。

 

 「そんなことをしたら俺がお母様に怒られてしまうから」


 もともと、そんな趣味は無かったがそう言っておく。 

 子供たちはもっと不思議がり、戸惑った。

 そりゃそうだろう。てっきりムチで打たれながらキツく辛い仕事をさせられるのだと考えていたのだから。


 「おかあさま?」


 子供の一人が言った。

 ちなみに、子供は全部で六人である。

 種族は人間の女の子が二人、エルフの男の子が一人、猫の獣人である男の子が一人、下半身が馬のセントール族の男の子が一人、あとは半吸血鬼(ダンピール)の女の子が一人である。

 

 「そ、みんなを買ったお母様。俺はお母様に拾われたから、君たちのお兄さんってところかな」


 お兄さん、お兄さま、そう口々に呟く。


 「おかあさまってあの黒いドレスのお姉さん?」


 セントールの男の子が訊いてきた。


 「そうだよ。お母様はね、実を言うと魔女なんだ。怒らせたりすると食べられちゃうかもだから、皆良い子にしてね」


 食べられるかも、という言葉に子供たちが顔を青くする。

 魔女本人がいたなら拳骨ものだったことだろう。


 「よし、みんな着替えたし。ご飯まではまだ時間があるから、ちょっとお茶にしよう。あ、でもジュースの方が良いかな?

 甘い焼き菓子もたくさんあるから、それを食べながら色々説明するね」

 

 新しくできた妹と弟達にウェインは言って、子供たちを食堂に連れていく。

 

 「兄弟姉妹、か」


 これからの賑やかな生活を想って、少しだけ嬉しそうに、ウェインは呟いた。

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