第314話 ウモンガス兄弟
センプラー。
ミーシアン一の湾岸都市であるこの町は、今はキャンシープに制圧されていた。
センプラー城の最上階に、今回の襲撃を指揮していた、キャンシープ総督家の一族が座っていた。
「んで? これからどうするんだ? 兄貴」
そう尋ねたのは、次男のルーベルトだ。
「しばらくセンプラーで守りを固める。兵を輸送して、周辺の都市の攻略を行いたい」
長男のカイが返答した。
今回のセンプラー攻略の総指揮は、長男のカイである。
総督であるトワクは州都リャプターにて、待機していた。
四男のオットー、五男のヤードも参加しており、兄弟で参加していないのは三男のノインだけであった。
「じゃあしばらく休憩か! やりぃ。センプラーの女子たち口説いてこよ!」
ヤードがそう言って立ち上がるが、カイに頭を殴られる。
「いてっ!」
「馬鹿野郎が。守りを固めるって言っただろう。これからミーシアンの連中が攻めてくるかもしれねぇのに、ウロウロほっつき回るんじゃねぇ」
「何だよ〜。ナンパくらいしてもいいだろ」
殴られた箇所を押さえながら、ヤードは半泣きで抗議をする。
「俺たちはセンプラーの人からすると侵略者だ。そんな奴に口説かれてホイホイついていく女の子はそうはいないと思うよ」
オットーが呆れた顔でヤードを見ながら言った。
「そんなもん正体を隠せばいいだけだろ!」
「ヤードにそんな器用な真似できないでしょ」
「出来る!」
「出来ようが出来まいがナンパにはいくな!!」
再びヤードの頭をカイが殴る。
「いいじゃねぇか。ヤードは女と遊んでた方がやる気出るタイプだろ? 止める必要はねぇよ」
「そ、そうだろ! 流石ルーベルト兄ぃ! 話が分かる!」
「まあ、てめぇじゃナンパは成功しねぇだろうけどな」
「ひ、ひどい!」
涙目のヤードを見て、ルーベルトは愉快そうに笑う。
「とりあえず今は守りを固めるんだな。まあ、センプラーにいるキャンシープ兵はまだ少ない。ミーシアン軍の主力はアンセルの連中に対処してて、敵の援軍は来づらいと考えても、現状じゃ城攻めは不可能だろうな」
「ああ、戦力が揃い次第、ほかの城も落とす。流石に支配している都市がセンプラーだけだと、統治を維持するのは難しいからな」
センプラーはセンプラー郡の中心都市で、ほかにもいくつか城と町が存在している。
流石にセンプラー郡全体を制圧するまでは、統治もままならないだろう。
「報告です!! 輸送船が近くまで来たのですが、敵の飛行船に襲撃されている模様です!」
伝令兵からの報告が飛び込んできた。
「飛行船? 逃しちまったのがまた攻撃してきたのか?」
「恐らくは。ふん、無駄なことを。飛行船の魔法攻撃では我が船は沈められないと理解しただろうに」
カイは馬鹿にするように言った。
しかし、その後、
「報告です! 輸送隊の船が飛行船に全滅させられました!!」
という報告が入ってきた。
「な、何!?」
流石にカイは動揺する。
「おいおい、全滅はやばいな。飛行船の性能がいきなり上がったてか?」
「どうやら援軍が来たようで、その援軍に配備された飛行船が物凄く強い魔法を放ってます。船の魔法防壁では対処不可能なようです」
「なるほどな。飛行船も乗っている魔法兵で、だいぶ威力が変わるのか。援軍の魔法兵はめちゃくちゃつえーんだな」
ルーベルトはのんきな口調でそう言った。
「兵や物資が輸送できないとなると、勝ち目はないぞ! 兵糧が輸送不可能となると、近いうちに撤退しなければ餓死してしまう!」
「すーごくまずい事態だね」
焦るカイとオットー。
「よし! じゃあ撤退だ! こんな戦面倒だしやめて、さっさと帰ろうぜ! やっぱこんな遠くに行って、城攻めなんて無茶だったんだよ!!」
とヤードがそう言った。
ピンチなのみ嬉しそうである。
「ふざけるな! こんな早く撤退してたまるか!」
「いや、撤退するなら早いほうがいいかもしれないぜ。輸送部隊を片っ端から沈められたら、どんだけの兵と兵糧を失っちまうか。今回は考えが甘かったと認めて、帰った方が身のためかもな」
「ぐ……」
ルーベルトは冷静にいうが、カイはこのまま帰れないという表情だった。
「このままおめおめ帰れというのか? 何の戦果も上げずに?」
「そうするしかないならな」
「……まだだ。まだ一回失敗したに過ぎん。今回が敵の攻撃がうまく当たり過ぎただけで、次は突破できるかもしれない。撤退するかどうかはその結果を見て決める」
カイは撤退の判断を下さず、センプラー城に残ることにした。
そして、もう一度輸送船を狙った飛行船が出陣した。
結果は全滅ではなかった。
一隻のみ、センプラーに到着した。
到着した船の船乗りはブルブル震え、なぜ生きていたのか分からないと話していたそうだ。
「こりゃどうしようもないな。俺たちも飛行船を持ってなきゃ勝てねぇみたいだな」
「くっ……」
「もしかすると、俺や兄貴みてーに腕のいい船乗りなら突破できるかもしんねーが、輸送船を操舵している奴に、そこまでの奴はいないだろう。撤退しかないな」
ルーベルトがそう言った。
カイは悔しそうな表情を浮かべるが、反論はしなかった。正しい意見だと理解していたからだった。
「しかし、撤退すると言っても、船で撤退するしかない。果たして飛行船を振り切ってキャンシープに帰還できるか?」
カイが不安そうな表情でいった。
帰還するにも船で移動しなければならないが、それをすると飛行船に狙われかねない。
少人数で陸路から帰るという手もあるが、そうするとセンプラーに来た兵たちを置き去りにすることになる。
キャンシープ総督家の人間として、それはできなかった。
「そうだな。普通に沿岸部を走ってキャンシープを目指すと飛行船に狙われるだろう。センプラーを出たら一気に外洋まで離れて、そこからキャンシープを目指せば良い」
「外洋まで出るのか? 危険だぞ」
外洋は潮の流れが早く、場合によっては思ったような航路を進めない可能性がある。
下手したら遭難して、無人島に着いてしまうなんてこともあり得る。
「船と俺たちの力があれば大丈夫だろ。外洋に出て遭難するなんざ、二流の航海士がやることさ」
「……まあそうだな」
カイはいけると認めた。
「よーし、そうと決まりゃいこうぜ! こういうのは早く行動する方がいいだろ!」
早く帰りたくて仕方がなさそうなヤードが、すぐに行動し始めた。
早すぎるヤードの行動に、そんなに帰りたいのかとカイは呆れながらも、早く動いたほうがいいというのは間違ってはいないので、急いで帰還の準備を進めた。
連れてきた兵たち、航海に必要な分の兵糧などを乗せて、出港の準備を始める。
「よし、出港するぞ!!」
準備が出来次第、カイが出港の合図を出した。




