ロクサーヌを追って
カルラータは死んだ。
巨大な醜い肉の塊として舞台上に重々しく鎮座している。
最早どこからどこまでが胴部で腕なのか足なのか、、それすら見当がつかぬほどに膨れ上がって死んだ。
首から上に当たる部分が見当たらない。
舞台上の凄惨な光景を余所に客席ではダメージを受けたシャーロックとそれを心配するラウルが。
「あたた……なんてパワーしてやがるんだあの化け物」
「シャーロックさんしっかり!」
「心配すんな大したことはねぇ。……俺なんかにかまってる暇あったらさっさと追え!」
客席に叩きつけられたシャーロックは骨が折れている為動けそうにない。
ラウルにはなにも出来なかった。
喚き散らすゼーマンをさらってロクサーヌは劇場の外へ行こうとしている。
彼の言う通り追いたかったが、ここまで自分に協力してくれた上司を見捨てるなど出来なかった。
「……ったくしゃっきりしねぇか! 早くあの娘の尻を追いかけに行くんだよ!!」
「し、し……しッ!? それは関係ないでしょ!」
シャーロックは激痛に耐えながらも冗談を言ってみせると案の定ラウルは初々しく反応した。
彼にまた陰鬱な空気が宿ろうとしていたのでちょっとしたジョークを言ってやったのだ。
「次はゼーマンの野郎だ。俺の予想が当たってりゃ彼女は邪魔の入らない所で殺すつもりだぜ。見失ったらどこで復讐するかわからん。さぁ追うんだ!! まだ間に合う!!」
「は、はいッ!!」
ラウルは必死の形相で劇場の外へと駆けていく。
外へ出るとやはり見つけた。
建物から建物へ。
高い建造物の上を次から次へと飛んでいく。
恐るべき身体能力だった。
およそ人間技とは思えないそれにラウルは思わず恐怖を抱く。
――――彼女は本当に化け物になってしまったのか、と。
だが勇気を振り絞り、ちょうどそこに停めてあった馬を拝借し彼女の進行方向へと進む。
(ロクサーヌ……ロクサーヌッ!!)
必死で手綱を引き馬の速度を速めていく。
雨雲が天空を漂い、次第にこの王国を包み込んでいった。
案の定大雨。
その大雨の中、彼女はラウルに気付いたのか急に建物渡りを止め、地面に降りるやぐったりとしたゼーマンを馬車に乗せその手綱を操り始める。
「なにッ!?」
雨が顔にかかり視界が悪くなるも全速力で駆ける馬車を後ろから追う。
風が強まり雨が服を濡らして、これまでの疲れに一気に圧し掛かった。
だが諦めるわけには行かないと進ませるが……。
「な……なんだ、あれは」
ラウルの視界に映ったのはこの世のモノとは思えない現象。
魔術というモノは仕事上いくらか見たことはある。
だがこれまで見てきた中でもこれ以上ないであろう"異形"が目の前に広がった。
前を走る馬車が黒い霧か液体のようなものに包まれていき、巨大な金切り音のようなキツイ音を上げる。
所々に見えてくる、目、目目目目目目。
ベルジュラックだ。
ベルジュラックが馬車そのものに憑依している
馬車を引いている馬ですらベルジュラックに憑りつかれ歪な叫び声を上げながら更に速度を上げていった。
最早馬車そのものが一種の化け物と化していたのだ。
(お、追いつけない……ッ!!)
化け物のような雄叫びを上げる馬車はラウルとの距離を圧倒的なまでに離していった。
そして馬車は王都の外側へと抜けていく、正確には閉じられた門を突き破ってそのまま飛び出てしまったのだ。
そのまま遥か遠くへ、暗闇と大雨に紛れて消えていった。
完全に見失ったラウルは馬を制止させ、ただただ苦い表情を浮かべながら彼女が進んでいったであろう闇の先を睨みつけている。
いつまでも……いつまでも……。




