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ゆきけしき  作者: 燈真
9 継承―ユキケシキ―
66/69

9-4

 美祐月。

 美祐月。

 ちゃんと聞け。感じろ。信じろ。

 選んだのは俺だ。望んだのは俺だ。

 悔やむな。責めるな。

 無駄じゃなかった。決して、無駄なんかじゃなかった。

 あの奇跡のような数ヶ月を、朔鬼として共に暮らした1年を、その果ての決断を、無駄だなんて言えるものか。

 孤独の果てに立ち竦んでいた俺を引き上げてくれた。寂しさを抱き留め、優しく包んでくれた。荒んだ心を解して、誰かを想う心を与えてくれた。あの、冬の日だまりのような柔らかな温もりに抱かれた日々を、どうして悔いる必要がある。

 助けない方が良かった。そんなわけがあるか。

 助けられて良かった。助けてくれて良かった。

 あんな景色はもう二度と見られないと思っていた。あの家で過ごした1年と数ヶ月の幸景色(ゆきけしき)は、紛れもなく、美祐月、あんたがくれたものだ。

 逢えて良かった。幸せだった。最期に与えてくれた想いが、本当に、本当に、嬉しかった。


 美祐月。俺も同じだ。


 たとえ何であっても、何になっても。

 あんたの傍を、決して離れない。


 誰よりも、何よりも。

 魂の一欠片、心の一雫余すことなく。

 あんたのことが、愛しくてたまらない。

 

 だから、止まるな。堕ちるな。前を向け。

 ちゃんとここで、呼んでいるから。

 何を感じても、どんな選択を迫られても。

 美祐月。

 俺があんたを殺させない。

 この魂に賭けて、その心を、想いを、抱きしめて、絶対に守り抜く。


「……みつ、る」

 唇が僅かに動き、硬直した身体から力が抜けていく。表情の消えた頬がひくりと動き、瞳から涙が溢れ出す。

「晃琉」

 くしゃりと顔を歪めて、彼女は雪原に膝をついた。傍にカラリと拳銃が転がり、当代を捕らえていた氷雪の巨手が風に掠われ消えていく。上体を起こした当代のその傍ら、己の身体を抱きしめて、暗闇から引き戻された彼女は雪に額ずき泣きじゃくる。


 見えた。聞こえた。感じた。

 確かにこの胸の奥底で、その灯は煌々と輝いていた。嘘なんかじゃ、なかった。

 晃琉。

 そこにいるとわかるだけで、感じるだけで、想いが溢れて止まらない。

 あなたと過ごした1年と数ヶ月。あんなにも穏やかで優しい景色を、私も見たことがない。この身に余るほどの心を、想いを、幸景色を、他でもないあなたが与えてくれた。

 助けて良かった。出逢えて良かった。

 止めどなく湧き上がるこの想いで、ならば私もこれからずっと、あなたを抱きしめ続けよう。

 晃琉。

 あなたが愛しくて、たまらない。

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