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M2-4
彼女は、予想以上に「人間の事情」に詳しかった。正しくは「人間の家庭事情」に。家には「親」と「子」からなる「家族」がいること。「家族」はその中の誰かに何かあったら「心配」するものだということ。一つ屋根の下に住み、互いに干渉しながら暮らしているということ。それらをきちんと知っていた。知っていることをきちんと把握して話を選ばなければならないのに、どうしてか、つい気を抜いてしまう。そして彼女はその隙を、おそらく無意識に、拾うのがうまかった。うまい癖に、それが地雷であると気づいた瞬間素早く手を離して触れない敏さがあった。それだけ敏いなら拾ってくれるなと恨めしくなる。恨めしくなる自分が、惨めになる。いつか彼女がその敏さを武器にしたら? そのとき、自分は今のように逃げることが、あるいは有無を言わせず黙らせることが、できるのだろうか。
「……やっぱ、あの時死んどくんだったか」
彼女の消え去った窓辺に目をやりながら、青年は目を細めて独りごちた。




