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とらいあんぐる おあ へきさごん  作者: 高槻
めまぐるしい はる
15/51

14.ふともものみりょくってなんですか

 日曜日の朝、幼馴染が襲来した。



 ■ ■ ■



「コトちゃん、遠峯さん、お待たせー」


 ショッピングモール一階、大時計前。

 俺と琴美の前に、貝塚さんが駆け寄ってきた。一緒に買い物しようと、琴美が誘ってくれたのである。


「全然待ってないよー。走らなくても良かったのにー」


「ううん、ごめんねえ。電車逃しちゃって……。あ、遠峯さん今日は化粧してるー」


「ぎゃー! 見ないでー!」


 そうなのである。

 今朝早くに琴美が我が家に襲来したかと思えば、琴美はメイク道具を片手に不敵に笑いやがったのだ。

 そして完成されたのが現在の顔。厚くは無いけど、マスカラで目が当社比1.5倍。睫毛が重い……。


「えー、なんで? かわいいよ?」


 にこにこと言われるととっても居たたまれないのは、何故だろう。


「ほらー、えっこも可愛いって! 普段からビューラーくらい使いなよー」


「ふっ、お世辞はそこまでだ! お願いやめて!」


 羞恥心で死ねるパート2!

 ビューラーってあれでしょ? あの睫毛挟んでくるんってするやつ。

 瞼挟んで痛かったよ……。


「しょうがないなー。じゃあとりあえず服屋から回る?」


「おっけー」


 うっうっ、朝からHP削れ過ぎだよ……。




 一同が向かったのは、カジュアルな服が揃えてあるお店。マネキンが着てる服が、悉くスカートでちょっと場違いな感じが否めない。


「スカート欲しいんだよねー」


 服を物色しながら言う琴美に、貝塚さんは肯きながら隣の棚を物色している。


「私、いっそワンピース買おうかなー。上下で悩むの面倒」


「わかるー」


 わかんなーい。


「デニムにTシャツで良くない? ねえ良くない?」


 そう言う俺の今日の服装は、デニムにグレーのパーカーです。男の時から着てるパーカーだから、ちょっと大きく感じる。そしたら、琴美がこっちを見て、すごく怖い笑みを浮かべてきた。怖い!


「……えっこ~、いっちゃんの服選ぶの手伝ってー」


「まかせとけい!」


「ええ!?」


「いっちゃんにスカート穿かせたーい」


「遠峯さん、私服でスカート穿かないの?」


「穿かない! 穿きません! 頼むからスカートはやめて!」


「えー、今だけだよ? 短いの穿けるの」


「あ、じゃあショートパンツは?」


「太股出るのは、ちょっと……」


「どんどん見せて行こうぜ!」


 貝塚さんのサムズアップが、とても安心できない。


「だ、だって、二人みたいに細ければ良いかも知れないけど、私太いし……」


 変化した自分の体の中で、一番衝撃を受けた部位だけに、できれば隠す方向で行きたいのだ。


「遠峯さん、あのね、あなた言うほど太くないよ? ごく普通。」


「そうだよー。それにこれはムチムチしてた方が可愛いし。」


「それに、胸もあるでしょ? 私どこもかしこも肉付き悪いんだもん。着る服選ぶっつーの」


「逆に隠す方が目立つ場合もあるしねー」


「ということで」


「「試着しようか」」


「……は、はい」


 ぐっと押しつけられたショートパンツ。

 それを手に、俺は試着室へと押し込められた。


 結構強引だったけど、二人とも俺を気遣ってくれているのはわかった。楽しい休日を俺のせいで空気悪くもしたくはないし、ここは度胸だ。俺は深呼吸をして、デニムのファスナーに手を掛けた。


「いっちゃーん、サイズどう?」


「うん、大丈夫ー」


「遠峯さん、カーテン開けて良い?」


「う、うん……」


 返事をしたらすぐに開いたカーテンに、ビクッとしてしまった。絶対手を掛けていたに違いない。


「おー、良いじゃーん」


「魅惑の太股ね」


 二人に笑顔で感想を言われ、しどろもどろになってしまう。

 鏡を見た時に、自分でも思ったのだ。

 考えていたよりも良いな、と。


「これは買いでしょ」


「どーする? カラータイツ合わせて、Tシャツも買えば今日のスニーカーにも合うんじゃない?」


「そうしよう。」


「え? え?」


「いっちゃんそこで待ってて! すぐにTシャツ持ってくるから!」


「ええ!?」



 ショップを出る前の私。

 緩めのパーカー、デニム、スニーカー。

 ショップを出た時の私。

 レイヤーしたTシャツ、ショートパンツ、譲らなかった黒タイツ、スニーカー。


「あー、良い買い物したわー」


「オレンジのタイツも可愛かったのにー」


 ほくほく顔の貝塚さんと、未だに不満顔の琴美。二人の手には、それぞれ可愛らしい服の詰まった、ショップのバッグが提げられている。ちなみに同じものを私も持っているが、中身は先程まで着ていたパーカーとデニムなので、若干二人よりも嵩張っている。


「無理だよ、初心者にあれは。すごい度胸試しだよ。」


 あのオレンジは目に鮮やか過ぎた。


「まあ、これから暑くなるし、タイツは今度で良いんじゃない? ねえねえ、次はあそこ見たーい!」


「私も見たーい! メモ欲しいんだよね」


 やっと難が去ったかと思えば、次はファンシーな雑貨屋に行くようだ。元気ね、君たち。ここ出たら、お茶しようって言おう。





「か、か、かわいい……」


 私は雑貨屋で、衝撃的な出会いを果たしました。

 何、この猫! 何、このフォルム! 何、この可愛らしい顔! 何、このぐてっとした感じ!


「いっちゃん、何見てんの? ……ああ、ごろねこかあ。いっちゃん、猫好きだよねえ」


「ごろねこ!?」


「うん。あ、知らなかった? 『ごろ寝シリーズ』の猫キャラだよー。他に、ほら。犬とペンギンとカエルがいるんだよ」


 そう言って琴美が示したのは、所狭しと陳列してある、同じごろ寝体勢の犬、ペンギン、カエルのぬいぐるみたち。キーホルダーもある!


「うはあ、かーわーいーいー! これ買う!」


 ふわっふわだよ~。このキーホルダー、学校の鞄に付けよう。そうしよう。


「良いな~。私もけろたん買おっかなー。おそろー」


「いえーい、おそろー」


「……見つけたと思ったら、あなたたちなに楽しそうなことやってるのさ?」


 呆れた顔の貝塚さんに声を掛けられて、ああしまった見られていたと我に帰り、一気に顔が熱くなった。


「あの、すいません。あまりの可愛さにちょっと我を忘れてしまったんです。許して下さい。」


「えっ、急に謝られても。良いじゃないそれくらい。みんな普通にやってるよ。」


「あはは、いっちゃん真っ赤ー」


 人目もはばからずー! 失態だ!



 ■ ■ ■



「遠峯さんて、ちょっと近寄りがたいイメージあったけど、結構面白い人なのね」


 フードコートでジュースを飲みながら、貝塚さんがしみじみと言う。

 うあー、ごめんなさいー! 色々失敗やらかすんですー! 笑って見逃してもらえるなら嬉しいですー!


「いっちゃんはちょっと人見知りっぽいところがあるからねえ。あんまり自分から友達つくったりしないよねー」


「え、何? 私の解析? やだー、当たってる……。」


 特に高校からは、女子の輪に入れるか不安で、琴美に頼りっきりだったしなあ。


「そうなんだ。ねえねえ、遠峯さん。樹ちゃんって呼んで良い? 私の事は恵美子かえっこって呼んでよ。」


「ええー、良いの? 私のことはもちろん、好きに呼んで!」


「ありがと。」


 にっこり笑う貝塚さん、…否、恵美子さんは、何と言うか頼もしいお姉さんに見えました。




 ひょっとして、女子の友達ゲットじゃね!?



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