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辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~  作者: 紫月 由良
3章 中央

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03. ミラボー公爵家と王太子

元婚約者ジョルジュの兄視点です。

「ドミニク、何時も弟を見てくれて良い兄だね」

 かつてそう言った口から出てくるのは、今となっては後悔の言葉ばかりだ。幼いころに母を亡くして哀れに思ったというのも多分にあるだろう。


 兄としてジョルジュを甘やかし過ぎた自覚はある。父も結婚した後は遠くに行ってしまう弟には兎角甘かった。その結果、年齢よりも覚悟が足りない少年に育ったのは事実だ。


 余程のことがなければ領地経営を適当にしていても飢えず、立場的に不遜な態度を取られることも滅多にない、真綿にくるまれたような環境は、弟にとって良かったのか否か、今となっては判り得ない。消息がわからなくなって一年以上もこうなのだから、これからもきっとこういう日が続くのだろう。


「ジョルジュを辺境なぞに行かせなければ……」

 あの日以来の口癖を父が呟くと、小さく溜息をついた。

 王弟であり、二人しかいない兄弟の片割れなのだから、その気になりさえすれば玉座に手が届く位置にいた男だが、野心の欠片も持ち合わせていない。


 もっとも私自身、王位継承順位が一桁であり、その気になれば王冠に手が届く位置にあるが、同じく気が全くないため父の気持ちに同意しかない。


 下手に権力争いの渦中にいるより、一線引いた方が安全で楽だ。安穏とした生活を捨てて権力に執着するのは理解できなかった。


 ――国を動かすなんて、重圧と面倒の方が圧倒的に多いのにな。

 衣食住が足り、好きなことをするだけの余裕と権力があり、死ぬまでのんびりできる満ち足りた生活は良いこと尽くめだ。


「……」

 父がぼんやりと窓の外を見る。昔、貴族らしからぬ勢いで泥だらけになって遊んだヤンチャな弟の姿を探しているのかもしれない。弟はイマイチ考えが足りないところもあるが、根は素直で可愛いかった。いくら父が王太子に組しているとはいえ、決裂するのが絶望的なまでに解り切った交渉の場に着かせるのは反対だった。


 ――せめて苦しまずに死ねたのなら良かったのだが。

 願わくば死体になった後に蹂躙されず、手厚く葬られれば御の字だ。


 王家と辺境の関係が険悪であり一触即発の状況でなければ、弟を探しに行けたのだが願いは叶わず、それが余計に父上の気持ちを暗くしている原因だった。

 あの日以来、父は無気力で一応当主のままだが、その立場を私に譲られる日も、そう遠い話ではなさそうだ。


 ――いっそのこと、今すぐ私が公爵になって、父が自由に国内を旅行できるようにした方が良いかもしれない。

 南の森を越えるのは難しかろうが、せめて近くまで行けば、もしかしたら何か(ジョルジュ)の安否に繋がる情報が手に入るかもしれない。一人では怪我をして王都まで戻ってこられないとしても、父が手を貸せばどうにかなるだろう。

 埒もない考えに捕らわれていた時、来客を告げられた。


 ――何故、王太子殿下が我が家に?

 常なら父を王宮に呼び出しているところだ。まだ次期公爵の身でしかない僕に対しては興味の欠片も示さない。一応、仲の良い従兄弟という体裁は取っているが、第二王子に対する牽制というだけだ。


 権力欲の無い我が家に対する悪感情は無いだろうが、立場の違いをはっきりとわからせなければ気が済まない御仁が、一体どういう理由で我が家に訪問してきたのだか。


 使用人に殿下をお通しするように伝えると、既に対応済みだと返ってきた。憔悴していた筈の父は、訪問客と聞いてしゃっきりする。血筋だけが取柄の公爵とはいえ高位貴族らしい体面の取り繕い方には長けているのだ。何事もなかったように居間を後にした。


 暫くして――

 どういった用件なのか皆目見当も付かなかったが、自分も応接室に呼ばれた。

 久しぶりに見る殿下は人の好さそうな笑みを浮かべ……実際のところ胡散臭そうにしか思えない。


 父や私たち兄弟に対して好意的なのは、自分にとって敵にはならないと知っているからであって、純粋に親戚だからだとか性格的な好悪の感からではないのは承知している。

 だが父と弟は純粋な気持ちで慕っているらしい。


「お待たせしました」

 つとめて無害そうな笑みを浮かべて、二人が待つ応接室に入る。父は私の顔を見て少しほっとした表情を浮かべる。一体、何を言われたことやら。


「実は叔父上に領地替えの提案をしたところだ。そうしたら次代の君の意見も必要だろうと言われてね」

 何の脈絡も前振りもなく言われたら、返答に窮するだろう。どういう意図なのか気になるが、聞いたとしてまともな答えは返ってくるのだろうか。


「父はなにも問題は起こしていないと思いますが……」

 ミラボー公爵領は王都からほど近い場所にある豊かな土地だ。今以上に良い領地が思いつかないほどである。何らかの瑕疵があり問題ある土地に追放されるという考え方が、一番道理に適っている。

 しかし王太子殿下の言葉は考えの埒外だった。


「だからこそだよ。今、辺境の地位の見直しを図っていてね。バルト辺境伯家が降爵されたことは記憶に新しいと思う。これから南と東も同様の対処をされるだろう。現在はランヴォヴィル侯爵家が辺境としてあるべきだが、彼等は役立たずだからね。しかし南は資源的に重要だから、信頼できる者に任せたい。ミラボー公爵家なら王族の一員でもあるし、能力的にも派閥的にも問題もない。それでランヴォヴィル侯爵領の一部を召し上げて、隣接する王領と合わせて公爵家の領地としたいと考えている。当然だが爵位はそのまま、領地は今より若干だが広くなり収益面でも今の三割増しになるだろう。そのほかに森からの資源を得られるから、実際には五割増しといったところだ。オラール辺境伯領とも隣接しているから、街道の整備もしっかりしている」


 王太子の指摘する通り、ランヴォヴィル侯爵家は森と隣接するのに、資源採取などを一切行ってこなかった。辺境の離反以前は、他領に委託という形を取っていたから問題にはならなかった。


 だが委託先がなくなってからも無策なのは、国政に携わってこなかった自分でもわかるほど問題だ。資源確保が必要であるだけでなく、スタンピードをはじめとする異常を早いうちに観測する必要、そして再び南の辺境対策や、今は断絶してしまった森の先――以前は交流があった隣国と再び交わる可能性。辺境伯ではないから知らないでは済まないのだ。今までと変わらぬ対応でいたいのならば、森に近い領地は返上し、必要とされる役割を果たせる者に任せるしかない。


 遠くない未来に、ランヴォヴィル侯爵家が領地を半減させ、結果的に降爵されるだろうとは思ってはいた。

 しかしその尻ぬぐいがミラボー公爵家に回ってくるのは予想の埒外だった。


「即答するには重い話です。ジョルジュが帰ってきたときに、あまりに変わっているようであれば戸惑うこともありましょう。後日の回答にさせてはもらえないでしょうか」


 父上の言葉通り、とてもではないが即答できるような話ではない。良いこと尽くめのような言い方だが実際はどうだかわからず、できれば断りたい提案ではあった。


「もちろん、ゆっくりと考えてくれて構わない。期限は十日としておくが、足りないようなら一、二か月かかっても構わないよ」


 相変わらず人好きのする笑みを浮かべている。ここで話を断ったとしても、多分、殿下にはあまり不利益は生じないだろうとは思うものの、検討した態度は見せるべきだ。

 そういう気持ちでこちらも親しみを込めた風の笑みを見せ、穏やかな雰囲気のまま訪問を終えた。

ジョルジュ本人が思っていた以上に、家族から溺愛されていた模様。

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