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辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~  作者: 紫月 由良
2章 辺境

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10. 祝い返しと一目惚れ

 キエザ辺境伯家の隣の領は、ディーノさんが以前話していた通りの形で領主が代わり、元商人の領主より少しだけ血の濃い人物が新たに立った。


 円満的な爵位継承だったかは不明だけど、流血沙汰にはなっていないらしい。新たな領主は領民から歓迎されているらしい。


 同時にキエザ辺境伯家の養女が嫁ぎ、領地内の空気が一気に変わったとか、辺境伯家の協力もあり当主交代直後に狼の駆除が終わったとか、領地の立て直しは順調なのだとか。


「花嫁が真っ白な毛皮をすごく喜んでいました」

 ディーノさんが自分の手柄のように嬉しそうに報告してくれる。


 どうしても北方ウサギは三羽ほしくて、何日か森で探してちょっと大変だった。

 でもそのお陰で猪や鹿の肉は備蓄が十分になった。叔父様の家にお裾分けもできたのも良かったと思ってる。


「花嫁も花婿も北方ウサギの毛皮を初めてみるらしくて」

「以前、珍しいって言ってましたよね。森の反対側で住んでる魔獣が違うんだなって不思議に思いました」


 元は雪が積もるような寒い土地に住む魔獣は、南の辺境伯領より更に南方のキエザ辺境伯家の領地では滅多にみかけないらしい。目撃情報が数年に一度とか、十年ぶりとか本当に稀で、だから毛皮を手に入れるのもこちらから贈るものだけなのだとか。


「白くて艶があってフカフカで、女性にとても人気があるんですよ。だから花嫁さんが気に入るかと思って」

「花嫁どころか関係者全員大喜びでしたよ! 花婿も妻に似合うと大絶賛して、そんな訳でお二人にお礼の品を……」

 言いながら机に置いたのは白い毛皮だった。


「アオメの中に白い個体がいたのでそれを――」

 魔狼の毛は銀灰色から黒色が普通で、白はとても少ない。


「貴重なものなのによろしいのですか?」

「北方ウサギほど珍しくないよ」


 確かに白い狼はあまりみかけないというだけで、キエザ辺境伯領の北方ウサギほど珍しいものではない。

 とはいえかなり大きな個体みたいだし、貴重なのは変わりなかった。


 ありがとうございます、とお礼を言おうと思ったときに「これはクロヴィス君に」と言いながら渡されたのは青い布。厚手の毛織のようだけど、わずかに金属光沢を放つなんとも言えない風合いがある。


「国内でも花婿の実家の領地でしか育てられていない羊の毛で織ったものだ。扱いは普通の毛織と同じなんだけど、美しいでしょう?」


 空色に染められた布は、男女どちらでも使える一見無難そうな色であり、その実、複数の色を絡み合わせた奥行きのある織物だった。

 そして一番重要なのは、とてもクロヴィスに似合いそうな色だったこと。



 * * *



「マリエちゃん、好きな人ができたんだけど、村人じゃあ反対されるよね?」

 目を潤ませながら、上目遣い――身長差からどうしても見上げてしまう――で年の離れた従妹から言われてしまうと、何もしていないのに罪悪感を覚えてしまう。


「村人だから駄目とは言わないと思うわ」

「そうかな……」


 叔父様は平民だから駄目と頭ごなしには言わないだろうけれど、難しい顔をするのは間違いないだろう。

 立場的には平民とはいっても、オリオール伯爵家の長男として生まれているし、叔母様は家臣団の家系だ。辺境では下位貴族相当の家柄になる。


 家臣団はスタンピード以前は全員が神官だった。身分は問われないとはいえ、元オリオール子爵家の神殿に配属されていたのは平民出身と下位貴族出身の神官ばかり。とはいえ魔獣被害の多い地域だったから実力者しかいなかった。


 スタンピード以降、王都での政治力はあるが、一人で森に入れないような高位貴族出身神官と袂を分かち、神殿を離れたのが今の辺境に居る家臣団だ。


 だから皆、知識階級でもある。

 そして中央基準では平民とはいえ、辺境内では準貴族階級と見做されているのだ。


 二百年の間に、家臣団の令嬢が村人に嫁いだ実績はあるみたいだけどごく少数だ。特にオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯に近しい家門の子女が、村人と結婚した例は皆無だった。


 とはいえエーヴはまだ十二歳。


 男の子と恋仲になったとして、結婚を見据えた関係になるとは言い難い。年ごろになって合わなくて関係が自然消滅する可能性もある。


 もし交際が続くなら少年が叔父様の家に馴染む時間が取れる。結婚してどうなるかは不明だけど、家族から溺愛されている従妹が村に住むよりも、少年が入り婿になって叔父様の家族と一緒に住む可能性の方が高い。結果的にどうなろうとも、結婚適齢期にはまだ時間があるのだから、そこまで難しく考える必要はないと思う。


「それでお相手の男の子はどんな感じ?」

「あのね、サラサラの金髪がとてもキレイなの。まるで冠を被っているみたいでね。瞳は青くって宝石みたいで……」


 うっとりとした顔で容姿を語る。

 女の子には見た目も重要なのだ。


 恋に恋する乙女みたいで微笑ましい。勿論、年ごろになっても同じでは問題だけど。

 ――物語に出てくる白馬に乗った王子様に、一度は憧れるものなのね。


「ちょっと不器用なんだけど、一生懸命で素敵なの」

「仕事を真面目にこなしている?」


「ええ! すごく真面目だわ」

 まだ見ぬ少年への好感度が上がる。このまま悪い遊びを覚えなければ良いけど……。

 もっとも辺境は遊ぶような場所も誘惑も少ない。


「今度で良いから会わせてもらっても良い?」

「良いけどまだ告白していないから、本人に言わないでね」


「大丈夫、約束する」

 絶対に言わないというよりも言えない。こんなに大切な話を誰かほかの人の口からなんて、言ってしまって良い訳がない。


「ありがとう。でももしかしたらマリエちゃんも知っているかも。あのね、王都から来た人だから。なんか使者の一行に付いてきた人だけど、王都より辺境の方が良いからって残ったんだって聞いたわ」


 …………知っている。


 ………………………………すごく知ってる。


 というよりも、多分誰よりも知ってる。



 だって…………………………………………………………私の元婚約者だから。



「もしかして思わせぶりなこととか言われてない?」

「いいえ、とても紳士的だったけど普通だったわ」


 エーヴが毒牙にかかったとしか思えない。

 王都で女の子にモテていたのは、王位継承権が一桁であり次男とはいえ公爵家の令息という、身分の高さだけが理由ではなかった。洗練された物腰や話術の巧みさなど、流石、王弟を父に持つだけはあるって感じだった。


「本当に? 大人って狡いから新参で一番立場が低くても、オリオール伯爵家の親戚と結婚したら、貴族の仲間入りができるとか、そんなことを考えてる可能性もあるのよ」


「多分、違うんじゃないかな。仕事が楽しいって言っていたし」

 そんなの方便かもしれないじゃない、と真正面から否定はできない。


 だって彼に夢見ているもの。事実だとしても今のエーヴには受け入れられないと思う。それどころか反発して余計に想いを募らせる可能性の方が高い。

 真面目感を出すのなんて、実直さとか好青年らしさを出す良いネタだもの。本当かどうかなんて話だけで判る筈がない。


「そうなの……! それでね、お会いしたいけどお仕事の邪魔になるかもしれないでしょう? だから遠くから見るだけで良いの、村まで一緒に行って欲しくて……」


 恋する乙女の眼差しでうるうるされると弱い。


 別れろと言っても、こういう状況では逆効果だ。さり気なくほかに目を逸らせたり、同じくらいの年回りの男の子を褒めたりしながら、気持ちが冷めるのを待つしかないだろう。


「わかった、一緒に行きましょう」


 もしアレがエーヴに手を出していたら殺そう、絶対に。


 そう思いながら村の近くまで付き合うのだった。

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