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辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~  作者: 紫月 由良
2章 辺境

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08. キエザ辺境伯家と隣の事情2

 隣国でスタンピードが発生したらしい、という情報が入ってきた。

 キエザ辺境伯領の隣、新しく迎えた当主が辺境の事情を知らずに問題を深刻化させていると聞いてから半年が経っている。


 たかが数か月でそこまで領内の状況が悪化するものかと思うけど、情報が入ってこないからよくわからない。

 あのときはこれから暑くなるという季節だったけど、今は昼が短くかなり寒くなってきている。


 こちら側は静観する構えとはいえ、魔法結晶をはじめとする支援物資の準備は万端だ。

 スタンピードの件は未確認情報であり、はっきりするまではルイーゼに内緒にすることになった。屋敷内で箝口令は敷かれていないけど、話題にすることはない。


 そしてスタンピードの報が入ってから三日後の明け方にディーノさんがやってきた。

 草臥れた様子だけど表情は明るい。


「隣の領でスタンピードが発生したと小耳に挟んだのだが……?」

「スタンピードではなかったんだが、狼の群れが集落を襲って、いくつかの村が壊滅的な被害を受けた」

 セザールの言葉を訂正する。


「狼の群れが森の外に出てくるとは想定外だったのだが、どうやら森で迷った村人を襲って味を覚えたらしく……」

 戦い方を知らない村人は狼にとって脅威にはならないだろう。逃げるといっても足は遅くて簡単に追いつける。獲物として美味しいと学習してしまえば、村を襲うようになるまで時間はかからない。


「群れは百頭を超す大所帯で、しかもアオメらしい」


 アオメ――青玉を思わせる深みのある美しい青い双眸から付いた名だ。

 魔獣化した狼は何種類かいるけど、その中で森の外縁や荒野に生息する狼は二種類。犬よりも一回りくらい大きいだけの、比較的小型な森狼と、立ち上がると成人男性の背丈と同じくらいになる青目狼。後者の方が凶暴で危険だ。しかも身体が大きい分、よく食べる。アオメの方は森の中から出ることが少ないから、被害に遭うのは行商人や、木の実を採りに入った村人が多い。


キエザ辺境伯家(こちら)は静観するしかないから、横から見ているしかないのだが、当主が相当追い詰められているらしい」


「手助けしないほど険悪に?」

「険悪というか、没交渉だ。領地への干渉は内政干渉だと言われて、一切の協力関係をぶった切られた形での関係解消なんで、向こうの領でどれだけ魔獣被害が出ても手助けはできん。こちらに魔獣が出てきたら討伐するが、意図的にこちらに追い出したら追い返す方向で動いている」


 今回みたいに魔獣が森から出て人を襲うようになった場合、撃退する能力がなければ蹂躙されて危機的状況に陥るのでは、と心配になるけど、多分織り込み済みなのだろう。


「皆の思っている通りですよ」

 ディーノさんが口の端を片方だけ持ち上げる。


「婚約者の嫁入り道具みたいな扱いで、騎士を借り受けているらしいが、てんで役に立たないらしい。里を襲撃したら騎士が到着する前に食べ散らかして森に戻るし、森を捜索する能力もない。協力を仰ごうもののウチとは縁切りを自分から言い出したんで頼めない、反対隣は辺境っていってもただの田舎で、原初の森と繋がってない森があるだけの、魔獣被害の少ない土地なんで能力的に無理だ」


 隣の隣の領は、こちら側でいうところの北の辺境伯家と同じような立ち位置らしい。

 少し前に北を根城とする傭兵団がワイバーンを捕獲したけど、それは西の辺境伯家に出張って狩りをしたときの戦果だった。北方にワイバーンをはじめとする大型の魔獣はおらず、危険な獣は狼と熊くらいだ。


「お陰でといっちゃなんだが、婚約者が逃げ出して、王家が手を引かざるを得ないかもしれん事態だ」

「結婚はさせなかったの? 醜聞にはなるかもしれないけど、名より実を取るなら式だけ後回しにして籍を入れてしまった方が確実だったでしょうに……。キエザ辺境伯にとっては好都合でしたが」


 婚約だけなら逃げられても、妻となってしまえば難しくなる。実際には実家に帰って別居して、名ばかりの妻になってしまっても。

 だから国王があれこれ口を出す余地が残るものだけど……。


「陛下が介在した貴族の、それなりの家の娘が、婚約期間を授けずに結婚なんて醜聞は無理だったんでしょうよ。いくら先代国王と仲が良くなかった異母妹の生んだ娘でも、一応従妹で王位継承権を持つ令嬢だから」


 確かに婚約期間のない結婚は、何かあるのではないかと陰口を叩かれる。実は花嫁が純潔ではないだとか、既に子を宿していて、父親を偽るつもりではないかというものから始まり、親が無理矢理結婚させようとしている、妊娠期間を設けたらその間にどちらか、若しくは二人とも逃げ出すんじゃないかとか。花婿が厄介な女を孕ませた結果、結婚を迫られているから慌てて結婚するなんて噂が出ることも。


 特に今回は王位継承権があるとはいえ、田舎貴族の令嬢と平民育ちの貴族という均衡が取れているとは言い難い組み合わせで、何より国王とさほど関係も悪くはないが良くもない微妙な王妹の子。


 母が違う兄弟姉妹が不仲なのはよくある話だ。確か隣国の先代国王には同母弟が一人、異母弟が一人、異母妹が二人いたはずだ。死別による再婚だから、離縁よりは不仲になる要素が少ないというだけで、確執が生まれない訳ではない。


 特に異母弟が玉座に魅力を感じている場合は。


 でもそういった醜聞が噂されても、強引に結婚までもっていくんじゃないかと思っていた。少なくともこちらの国の王ならやる。


「まあ先代国王の弟たちは、兄を蹴落としてまで王位を欲しなかったみたいだけど、だからといって腹を割って話すほど仲が良かったとも言い難く、全員が成人とともにさっさと結婚して下賜された領地で悠々自適に暮らしたみたいだ」

 疑問が顔に出ていたのか、私の方を見て少しだけ表情を柔らかくしつつ補足する。


「婚約者の母親は、そこそこ裕福だけど政治的な発言力が皆無の、田舎の伯爵家に嫁いだんだ。南方の、魔獣被害がほとんどない平和な領地らしいんだけど、そんな土地で育った令嬢が、狼の群れを見て逃げ出さない胆力なんか持ってないよって話だ」


 襲われた村の関係者にとっては悲劇だけど、スタンピードの影響よりはマシかもしれない。領主が考えを改めない限り、二度、三度と同じ状況を繰り返すだろうし、そもそも現在の被害も対処が終わっていない。


「そんな訳で王家が手を出し辛い状況になったところで、先々代当主の子が出てきたんだ。現在の当主より血が濃い上に、下位貴族とはいえ貴族として生まれ育っている」


「今の当主を探すときに、既に見つかっていたんじゃ?」

「いたんだけどね……」

 言葉を濁すってことは、何か理由(ワケアリ)なのだろう。


「三男の子なんだけど、乳飲み子のときに父親を亡くして、母親が実家に帰るときに連れ帰ったんだ。それで辺境を知らない子が継ぐのは悲劇を生むから、相続人がほかにいる場合はそちらを優先するという内容の書類を作っていて、相続権が低くなった。でもねえ、無能が当主をやっているよりはってことで、後継者としての正統性を訴え出たのが現在。国王は不利を悟って静観。今の当主は孤立無援の中でどうするか考えあぐねてるってところなんだ」


 形勢逆転とまではいかないけど、今の当主の立場が弱くて、いつ地位を追われるかわからない状況なのは伝わってくる。商売の世界に戻った方が、本人も周囲も幸せなんじゃないかって思う。


「そこにきて新たな後継者候補とキエザ辺境伯家との間に縁談が持ち上がったんだ。当主様の姪御にあたるけど、話がまとまるようなら養女に迎えて、正式に辺境伯家の娘として嫁ぐことになる。当事者二人も前向きだ」


 ディーノさんの表情が明るい理由はこれだったのか。

 村人の被害は違う領地の話でも楽しい話ではない。

 だけどそれ以上に問題を解決し、被害が出ない希望が見えてきたからなのだろう。


「上手くいくと良いですね」

「辺境伯が話をまとめてくれると思うよ」

 ディーノさんの言葉に応接室の空気も柔らかくなる。


 その後、ルイーゼに会って兄弟水入らずで話をしてから、向こうの国に帰っていった。次はワイバーンが苦手でこちらに来たがらないというお母様を連れてくると言っていたけど、あまり無理はしないで欲しいと思う……。

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