ep.99 万能執事の力①
SIDE:アルフレッド
主様から重要な任務を頂いた。ここ数日は少女達を迷宮で特訓していましたが、やはり今回のような案件の方が性に合っているかも知れませんね。とは言っても、後進育成も悪くはありませんな。保護した少女達はまるで別人かのように強くなりましたし、これはこれで面白いものです。
吹けば倒れるような彼女たちが、能力的には冒険者Cランク下位相当には強くなったでしょうか。まだまだ技術的な面や戦略的な面は拙いと言わざるを得ませんが、それでも基礎能力はそれなりには向上したでしょう。
幸い本人達のやる気もあるようですし、この調子で頑張れば準一流くらいまでは成長できるはずです。あとはメイドとしての心得や技能についても育成しなくてはいけませんね。誰か適役がいればいいのですが、これは後ほど主様と相談すると致しましょう・・・。
先ほど気配を探ったところ、巧妙に隠していますが居場所が分かりました。しかし、第二階級のうち一体の居場所が全く分からないとは、現代の魔人にもそこそこ出来るものがいるということでしょう。これは喜ぶべきなのでしょうか・・・。まぁ、気配を悟らせるということはまだまだですが。
この一体が何を考えてこの帝都にいるのかはわかりませんが、こちらもあとで調べるとしましょう。
「さて、実際に魔人のいる場所に来てみたわけですが・・・」
スラム街かどこかかと思いましたが、まさか貴族街と商業区のちょうど中間地あたりとは。人通りも多く、たとえ貴族がいても不思議ではない絶妙な位置取りですね。・・・こんな絶好の場所を用意できるとは、闇ギルドは思いのほか力のある組織のようですね。
建物も一見するとただの屋敷に見えますが、地下にはかなり大規模な空間がありますね。この組織を完全に潰すには時間が掛かりそうですし、不都合も多いでしょう。こういった組織は潰すより、支配下に置くのが手っ取り早いですか。
幸いにもトップは魔人のようですし、ちょっと『おはなし』すればわかってくれるでしょう。ふふふ、久々の戦闘に血が滾ってきましたね。・・・まぁ、戦闘になれば、ですが。
当然といえば当然ですが、門には屈強そうな大男の警備がいますね。この敷地内には・・・ふむ、300強といったところでしょうか。この程度の数でしたら余裕ですが、あまり大事にしても仕方ないですし。
「ふむ、どうしたもので・・・おや、あれは何かを搬入していますね。・・・人、ですか。奴隷かはたまた誘拐された人か。なんにしろちょうどいい。少し様子見も兼ねて利用させてもらいましょう」
跳躍先の座標はあの馬車の中に設定して、と。
『空間跳躍』
「うわっ!」
「人が急に!」
おっと、驚かせてしまいましたか。ですがこれ以上騒がれたら拙いですし、静かにしていただきましょう。
パチン!
「~~~!(あれっ?!)」
「?!~~~(声が出ない!?)」
「・・・静かにして下さい。私は怪しい者じゃ・・・、いえ怪しい者かもしれませんが貴方たちの敵ではないので安心して下さい」
さすがに指パッチンで沈黙の魔法を使用したのは驚かせてしまいましたか。つい昔の癖がでますね。主様は無詠唱が出来るみたいですが、最近の魔道士は詠唱を必要としているようですし、時代は変わったのですね。
それにしても、この人達は奴隷でしょうか。少年少女から老人まで幅広い年齢が揃っておりますし、間違いないでしょう。気になることといえば、この子達が人族ではなく獣人やドワーフが混じっていることでしょうか。
見目がいいのが多いですし、違法に集められた可能性が高いですね。
おや・・・?あの長耳はエルフ、いやこの魔力量だとその上のハイエルフでしょうか。
「って、まさかあなたは『エゼルミア』ではないですか?」
「・・・?私の名前を知っているとは、私も有名になったということでしょうか!これはこれは嬉しいことですね」
あぁ、そうでした・・・。この人は物覚えが悪いんでした。覚えたら覚えたで面倒なのですが、忘れられるのも悲しいものですね。
「私ですよ、アルフレッドです」
「アルフレッド?・・・・・・あぁパン職人の!」
どのアルフレッドと勘違いしているのでしょう。本当に物覚えの悪い人ですね。
「違いますよ。魔人のアルフレッドです」
「魔人のアルフレッド・・・あぁ、思い出した。アルさんか~!・・・あれ?でもアルさんって昔のあの大戦で命を落としたと聞きましたが、実は生きていたんですか?」
大戦・・・?ズキッ。
頭痛がしますが、これは私の記憶に何かしらの制限が付いている可能性がありますね。昔のことを知るためにも、エゼルミアを助けるとしましょう。
「ときにエゼルミア、貴方ほどの方が何故こんなところに?この程度の反魔法が付与された手枷など余裕で破壊できるでしょう」
昔の記憶は曖昧なところが多いですが、彼女のことははっきりと覚えています。ハイエルフと言うだけあって、彼女の寿命はかなり長い。もう何千年と生きているはずですが、人に換算するとまだ30歳手前といったところでしょうか。
魔人も寿命は長い方ですが、それでも人間の5倍程度ですから4~500年がいいところです。まさか私を知る者に会えるとは重畳です。この機会を与えて下さった主様には感謝しないといけませんね。
「実は最近、またエルフが攫われることが頻発しているらしいの。攫いに来るやつらは随時捕まえて対処していたみたいなんだけど、きりが無くてね。で、たまたまエルフの里を訪れたら助けを乞われたから、仕方なくその親玉を潰しに来たってわけ」
エルフ攫いですか・・・。いつの時代も見目麗しいエルフは奴隷にするに人気がありましたからね。しかもそれをやっているのが魔人トップの組織とは、本当に魔人のレベルも落ちたものです。
「それはそれは。私もちょっとここの組織のトップに用がありましてね。利害は一致しそうですし、共闘ということでどうですか?」
「うーん・・・。それもいいけど、私が攫われた人たちを救出するから、アルさんはそのトップとやらをどうにかしてきてよ。そうすれば効率的でしょ?」
ふむ、それもそうですね・・・。ではそうするとしましょうか。まぁ、攫われた人たちの救出は元々の計画にはありませんが、助けて悪いということはないでしょう。それに、救出が済めばエゼルミアを連れて帰る事も出来ますしね。
「わかりました。そうしましょう。おっと、そろそろ着くようですね。私は気配を消して直ぐにトップのところへ行きますので、救出は任せました。もしなにか不測の事態になったら魔力波動を出していただければ、なるべく早く駆けつけますので」
「わかりました。救出準備が完了した場合も波動を送りますので・・・。申し訳ありませんが、脱出を手伝ってもらってもいいですか?」
救出するのが何人いるかわかりませんが、まぁなんとかなるでしょう。ただ、問題はどこに転移するかですが・・・。あぁ、そういえばスラム街で賊が使っていた家がありましたね。
あの程度の距離なら問題ありませんね。
「ええ、構いませんよ。脱出先にアテもあります。ではまたあとで会いましょう」
パチン!
気配遮断と隠密を発動させましたから、よっぽどのことが無い限りバレることは無いでしょう。私のことがバレた気配もないですし、思ったよりも警戒が緩いな。まぁ、この今の時代で考えると第三階級程度の実力でも敵はいないのですかね。だとしても傲慢と言うべきか。同じ魔人としてここまで劣化が進んでいると思うと、少々腹立たしいですね。
時間をあまりかけても仕方ありませんし、さっさと行くとしましょう。
「第三階級は2人とも三階の一番広い部屋にいるようですし、まずはこちらからですね」
しかも都合の良いことに、第三階級のいる部屋の近くには警備もいないようですね。ひとまず部屋の前の扉に跳ぶとしますか。
『空間跳躍』
「っと、ここですね」
『・・・・・・ぁんっあんっ!』
『おらおら!』
『・・・しかし、そろそろこの玩具にも飽きてきましたね。確かそろそろ奴隷達が届く手筈になっていたましたし、あとで新しい玩具を見つけに行くとしましょう』
ふぅー・・・。侵入者が目の前まで来ているというのに、情事に夢中で私の存在に気づかないとは・・・。なんとも嘆かわしい。こんなのが同族だと思うと吐き気がしますね。
ガチャ
「情事の最中に失礼、お二人がベリアスで間違いないですね?」
女一人相手に2人がかりとは、変わった性癖をお持ちのようだ。ここまで来ると、教育と言うより躾けが必要なようですね。
「誰だお前!どこから入った!」
「ちっ、警備の奴らは何やってるんですかねぇ。これだから人間は使えない・・・。というか俺たちがベリアスって言いましたね?・・・その聞き方をするって事は俺らが魔人だって気づいているようですね」
ほう。短髪の方は短絡的で頭が悪そうですが、長髪の方はそこそこ頭が回るようですね。しかし、私を敵だと分かっていながら仕掛けてこない辺り、少しは慎重そうです。
せっかく久しぶりにある程度の強さを持っている敵ですし、私の今の力を試させていただきましょう。
パチン
『黒の帳』
「これは・・・確か黒の帳だったか?随分古くさい魔法だな」
「外界から隔離したということは、余程自分の力に自信があるようですね」
この魔法を知っていましたか。にしても古くさいとは心外ですね。この魔法は魔力こそ大量に消費しますが、性能は破格だというのに。
「えぇ、最近生まれたばかりで自分の力を振るうタイミングが無くて困っていたのですよ。心配しなくとも殺しはしませんから、安心しなさい。・・・・・・まぁ、死んだ方が良かったと思うかも知れませんが」
「おい、俺たち馬鹿にされてるんだよな?」
「そのようですね。その自信を粉々にしてあげましょう」
「ふふっ、粉々ですか。それは是非ともお願いしたいところですな」
「なめやがってぇ・・・!死ね!黒稲妻!」
「黒炎球!」
ふむ・・・。これが現代魔人の使う魔法ですか。見たことのない魔法ですが、威力・展開速度・弾速、どれをとっても中途半端ですね。人間相手ならこれで十分なのでしょうが、主様相手だと足下にも及ばない程度ですね。試しにくらってみましょうか。
ドォォォォォン!!!
「へっ、てんで大したことないじゃねぇか!」
「本当ですね。口だけの敵でし・・・・・・いや、おかしい。黒の帳が解除されていない。あいつはまだ死んでいませんよ!」
「この程度ですか・・・。見かけ倒しもいいところです。第三階級とはいえ魔人の質もここまで落ちたとなっては、魔王の器も知れますね」
「んだとぉ?!」
「至高の主人まで馬鹿にされて、黙ってはいられません!」
おお、自分の王を馬鹿にされて怒るくらいにはまともでしたか。少しだけ安心しました。ですが……。
「もうけっこうですよ。私の攻撃はもう終えていますので」
流石に私の攻撃を見切る実力はありませんでしたね。
「はぁ?俺はまだピンピンしてるぜ?」
「・・・・・・そういえば、あの男どこかで見たことがあるような・・・」
パチン!
今更気づいても遅いですよ。それにしても今の魔人でも私のことを知っているとは、私もずいぶん有名人になったようですね。
「ぎゃあああああ!俺の、俺の足が・・・・・・?!」
「あなた、は・・・まさか・・・ぐふっ」
ふむ、気絶しましたか。昔の魔人だったらこの程度の攻撃じゃあ止めることも出来なかったというのに、随分と脆弱になりましたねぇ。まぁ、あの頃ほど戦う要因が無くなったといえど、自己の鍛錬もしていないのでしょうか。
「致命傷は避けたとはいえ、悪魔の刃はやり過ぎでしたかね」
切るという過程を発動と同時に終えるこの技は、発動させない以外に止める術が無いですからね。まぁ、その発動も私は指を鳴らすだけなので、止めるのは至難ですが。
さて、とりあえずこの体の性能はおおかた把握できました。全盛期の8割~9割といったところでしょう。私をこの完成度で召喚できる主様はもはや人間を辞めていると言ってもいい領域かもしれませんね。
こいつらは腐っても魔人。あの程度の傷で死ぬとは思えませんが、念のために拘束して結界の中に閉じ込めておくとしましょう。一応回復もしておいたほうがいいですね。
「おや、さすがに私の気配の発動を察知しましたか」
しかし、逃げるどころかこちらに向かってきているようですね。流石は第二階級というべきでしょうか。いや、この組織のトップだから、という理由もあるのですかね。
「何者だ。・・・・・・いや、その佇まいに魔力量からしてただ者では無いことはわかるぞ」
「なに、私の主にちょっかいを出す組織があると聞きまして。しかも魔人が統率していると聞き及びましたので、こうして釘を刺しに来たわけですよ」
「主だと?それほどの力を有しておきながら、誰かの下に付くなど・・・。いや、待てよ。お前まさかアウルの手の者か?」
勘は良いようですね。伊達に巨大組織のトップはやっていないというわけですか。私の力量を測ることも出来ているようですし、先ほどよりは楽しめそうですね。
「その通りです。私の主は大変困っておりますので、少し『おはなし』しに来た次第です。ついでと言ってはなんですが、暗殺依頼を出したのが誰なのかということと、何故魔人が組織の運営なんかをしているか聞かせていただきましょう。黒の帳!」
「黒の帳、隔絶結界か・・・。用件は分かったが応えられないし答えられないな。俺たちの邪魔はしないでもらおうか!暗黒の槍×10!」
おっと、10連の多重詠唱をこの展開速度で発動するとは、なかなかやりますね。しかもこの感じは第二階級の中のカレアウといったところでしょう。下手をすれば第一階級下位にも匹敵しそうな感じですね。
これほどの威力ともなると指を鳴らすだけでは防ぎきれないかも知れませんね。少々本気を出させていただきましょうか!
「強力な技ですが、そっくりそのままお返しします。八咫の鏡!」
自分の技をそのまま返されるという経験はなかなかできないでしょう。
「?! 解除!」
解除までできるとは少しはやりますね。せっかくですし、もっともっと私と踊っていただきましょうか!
前話、投稿する日を間違えましたすみません!単純に足し算間違えました!
ゆっくりと更新していきます。
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