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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
第6章 農家と勇者と邪神ノ欠片 後編
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ep.168 修業パート③

 ぞくっ


 ? 急に寒気がしたんだが、風邪でも――いや、俺は風邪をひかない体質だったな。



『改めて、私は妖精霊のルルーチェ、よろしくね』


『自分はアウルです。……もう少し蜂蜜いります? 同じのはもうないですけど』


 文字通り魔力の糸で顔に蜂蜜が欲しいって書いてあることだしな。言外に欲しいって圧力をかけてくる豪胆さは少し見習ったほうがいいかもしれない。まぁ、俺からすればそこまで珍しいものでもないので、クインには申し訳ないが譲るとしよう。


『くれるっていうんなら貰っておくわね! くふふ、あとでみんなに自慢しちゃおっと』


 喜んでいるようでなによりです。対価は十分払ったわけだが、これでいろいろと教えてもらえるといいのだが。といっても、何を教えてもらえるのだろうか。


 みんなに自慢すると言っていたが、妖精霊は何体もいる? それとも、知り合いがこの山にたくさんいるのだろうか。フランクに話しかけてくれているルルーチェだが、その実力は把握しきれないほどに高い。


『嬉しそうで何よりだ』


『ま、タダほど怖いものなどないわね。私がこの山での生き方を教えてあげる』


『助かります』


 俺の下心などお見通しだわな。だが、話が早くて助かる。ある程度の生き方は心得ているつもりだが、今の伝音といい俺の知らないことは多い。それにここはまだ二番目の山。知っておかないとまずいこともあるに違いない。


『ところでアウル、あなたからびこ――いや……、そんなはずないわよね。アウルも知っての通り、二番目の山は視覚と嗅覚がなくなるの。そして、一貫してこの山々では話すということができないわ。なぜだかは分かっていないけどね』


『それは経験しているので分かっています』


『人族なのに優秀ね。それで、この山で気を付けるべきことだけど……、この山と最初の山の違いは何だと思う? あ、五感以外でね』


 五感以外で、だとなんだろうな。魔力濃度が高いせいで、魔力制御に長けていなければ魔力酔いを起こして正気ではいられないだろうが……、それは最初の山も似たようなものだ。


 最初の山も、そこらに比べれば十分に魔力は濃い方だったし。



『……生物がいること?』


『ふぅん……、この山に来るだけあって、索敵能力も優秀なのね。正解よ。ただ、生物とは微妙に違うわ。身外身(しんがいしん)と呼ばれるものよ。まぁ、この山特有の存在と思えばいいわね。二つ目の山以降の山には全部いて、奥へ行くほど強くなっていくわ。この山に出る身外身は、そうね、人族で言えばAランクの魔物と同じくらいの強さかしら?』


 身外身、ってなんだけ。なんか聞いたことがあるような、ないような。ぱっと思い出せないけど、二つ目の山でAランクの強さって凄いな。それにしては気配が希薄過ぎる気もするけど、きっと気配を薄くできたりするのだろう。存在が曖昧過ぎて把握しきれない存在がAランクと言うのも甚だ疑問だけどな。


『それにしては気配が希薄な気がするんだけど』


『それがこの山にいる身外身の特徴よ。それよりも厄介な特徴があるわ。身外身はそれぞれ知性を持っていて、意思疎通ができるの。つまり頭がすこぶるいいといこと。しかもここの環境にも適応しているから、とんでもなく強いし不死だから倒すこともできない』




 不死って、勝てないじゃないか。


『ふふふ、不死には勝てないと思ったでしょ。でも死なないだけであって普通に傷つくし、戦闘不能にすることは可能なの。放っておけば再生するから、一度コテンパンにやっつけて上下関係を教え込めば、ほとんど襲ってこないわ。ただ、中途半端に倒すと、リベンジを申し込まれるから、やるときは徹底的にね』


『死なないサンドバッグってことか』


 覚醒した恩恵を試す相手としてはこれ以上ないくらい都合が良い。死なない相手でそれなりの強さの生物なぞなかなかいるものではないからな。


『そうゆうこと。理解が早くて助かるわ。あと、身外身のもう一つの特徴として、この山の身外身は魔法が使えないから、身体能力だけでAランクあると思っていいわよ』




 ……それを人は、化物ばけものと呼ぶのでは?




 身体能力だけでAランクとか、普通に想像がつかな――いや、最近戦った孫悟空も割とそれに近い感じだったかもしれん。


 あ、身外身って孫悟空の使う分身の術の別称じゃなかったっけ? 毛を抜いて吹くと分身ができるあれだ。


 待てよ……。


 五苦行山、身外身、孫悟空――嫌な予感がするんだが。俺の黒武器の黒杖には、孫悟空からもらった如意棒が吸収されている。なぜ吸収されたかは分からんが、俺の武器には孫悟空の因子が含まれているのだ。


 それに、さっきルルーチェが言いかけた『びこ』という言葉。まさか、『美猴王』と言いかけたんじゃないだろうな。俺の持つ如意棒の気配か何かを感じ取ったのか? 今は収納空間にあるというのに?


 ルルーチェ、恐ろしい子……!!


 なんの因果かわからないが、ここは孫悟空にまつわる何かがあるのだろう。面倒ごとかどうかは置いておくとして、孫悟空は想像以上に強かった。あれのおかげで自分を見直そうと思ったくらいだし。


 この山でやりたいことが一つ増えたな。



『なるほど、勉強になったよ。他に気を付けることはある?』


『ん~、人族にとっては気を付けることだらけだと思うけど、アウルは優秀だし問題ないかもね。でも――今の実力だと、精々3つ目の山までが限界かな? 魔力制御がまだまだだし、3つ目の山からは身外身も魔法を使うようになるし、その数も桁違いに増えるからね』



 恐るべし五苦行山。グラさんはここをどこまで踏破しているのか気になるところだな。というか、身外身なんて化物がいるなら事前に教えてくれればいいのに。帰ったら文句の一つでも言ってやらねば。



『わかった、有意義な情報をもらって助かった。これ、少ないが貰ってくれ』


 食料は現地調達と思ってはいたが、必要最低限の食料は確保していた。その中から、もはや俺の代名詞と言ってもいいクッキーを取りだし、渡した。大小問わず、なんなら種族問わず女性は甘いものが好きだと勝手に思っている。


『わぁ、いい匂いね。これはなんていう食べ物なの?』


『これはクッキーって言うんだ。良かったら食べてみて』


『ふふふ、ありがとうアウル。さすがにお腹いっぱいだから、あとで食べるわね』


 まぁ、蜂蜜をたらふく食べたからな。


『じゃあ、俺はもう行くね。指摘してもらったとおり魔力制御をもっと磨いてみるよ』


『うんうん、素直でよろしい。この山で魔力制御を練習すれば上達は早いはずよ。またどこかで会いましょうね』



 ルルーチェはクッキーをどこかに仕舞うと、ふよふよと飛んで行った。彼女も収納系の魔法が使えるらしい。本当に不思議な生物だ。妖精霊など聞いたことのない種族だったが、この世界は俺の知らないことがまだまだたくさんあるようだ。



「さて、身外身とやらと戦闘でもしてみるか。もうすぐそこに――来ているみたいだしな」



 ルルーチェがいなくなってからすぐに、気配の希薄な何かが近寄ってきているのには気づいてた。おそらくこの身外身はルルーチェにすでに負けたあとなのだろう。だが、新参者の俺はまた別の話。




 と、ここでルルーチェから伝音が届いた。




『言い忘れてたけど、身外身は一貫して戦闘狂なの。新参者が来たときはきっと戦いを挑んでくるから、精々負けないように頑張ってね!!』



 言うのが遅いんだよ。まぁ、いい機会だ。覚醒した恩恵を、攻撃に応用したらどうなるか、試させてもらおう。



『お前、新参者だな? 人族にしては面白い気配(・・・・・)をしている。俺様と勝負だ!!』



 目の前に現れたのは、大きさこそ2mくらいだが、つい最近戦った孫悟空と同じ見た目の身外身だった。

細々と更新していきます。

評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。


あと、本作の書籍版第5巻が今月末に発売だそうです。

興味があれば詳しくは活動報告を参照ください。

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