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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
第6章 農家と勇者と邪神ノ欠片 後編
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ep.159 『第4の封印』②


『この森に邪神の封印があるのは確かだ。別にそれ自体には問題なかったのだが、最近になって誰かが封印の神殿に侵入し、封印の守護者を取り込み別の存在を生み出してしまったのだ。しかも、新たに生み出された存在を3つに分裂させてこの森にある封印の神殿を三角形で囲むように配置し、強固な結界を発生させている。何がしたいのかは不明だが、その3体を倒さないと結界は破壊されないだろう』


 何者か、ね。気になることがいくつかあるな。


「えっと、何か問題でもあるんですか? 結界があるのはいいことなのでは?」


 新たな守護者たちが暴れて困っているとかならまだ分かるが、三角形に配置されて結界を立てているくらいではあまり影響はなさそうなものだが。むしろ、神殿に侵入できないから安全になったとも言える。俺達からすれば厄介なことだが。


『そうとも言えぬ。結界内では異様な魔力が発生し、充満しているせいで結界内にいた魔物が変異して狂暴化しているのだ。その変異する速度は異常で、放っておけば危険な魔物になることが明白なのだ』


 邪神の力を魔物に流用し、危険な魔物を人為的に――いや、神為的に発生させるということか。どうやったらそんなことを思いつくのか分からないが、早々に対処する必要があるのはわかった。俺たちも結局は神殿に入る必要があるからな。


「事情はわかりました。それで、俺たちは何をすればいいですか?」


『話が早くて助かる。そなたらにしてほしいのは、その結界の原因となっている存在の討伐及び変異した魔物たちの駆除だ。その後、神殿内でそなたらが必要とするものを持ち出すとよい。もちろん礼はしよう。お主らの霊樹に樹妖精ドライアドの加護を授けよう。さすればそなたらの霊樹はより一層力を蓄えるはず。それによる恩恵は永久に続くはずだ』


 ドライアドの加護がどんなものかは分からないが、きっと凄いのだろう。霊樹とも話をしているということは、霊樹が必要だと思っているからかもしれないしな。というか、霊樹って話せるのか。いつか話せるときがくるといいな。


 そうと決まれば決行あるのみだ。ドライアドが手配してくれたのか、先ほどまで鬱蒼としていた森が、俺たちを避けるように道を示してくれている。きっとこの先にその対象となる原因がいるのだろう。魔物なのか、はたまた前回のように鬼なのかは不明だが。


 すぐに情報を共有するために伝声にてあらましを説明すると、アルフだけが驚いたようにしていた。アルフはドライアドを知っているらしい。あとで詳しく聞かねばならんな。


 ドライアドに頼んで他のチームも森に迷わないように木たちが避けるようにしてもらった。これでほとんどの準備が整ったわけだが、果たして俺たちは勝てるだろうか。人数を分散させられているせいで戦力は明らかに落ちている。


「やり口が前回とおんなじなのも気になるな」


「言われてみればそうですね……同一犯、ということでしょうか」


「おそらくね」


 だが、その真意がわからない。邪神を開放したいにしてはやっていることに違和感を覚える。なんというか、見えない何かに誘導されるようなそんな違和感。だけど、これを放置してしまったら取り返しのつかない何かが起きてしまう気もする。


 気持ち悪いな。掴んでいるはずの紐がスルスルと抜けていくような……俺は何かを見逃している気がする。


「だめだ。こんなこと悩んでもしょうがない。俺は仲間のために戦うだけだ」


 ルナとイナギを助けるために俺は封印を巡っているのだ。それ以外のことを考えても仕方ないし、今できることを全力で取り組むほかないだろう。俺には心強い仲間がたくさんいるのだ。いざとなれば総力を挙げて抗えばいい。



「!! あそこを見てください!」


「……いたね。かなり大きいな」



 見つけたのは大きな猿型の魔物。しかし、赤い服を着て頭に緊箍児きんこじをつけ、武器として一本の棒をもっている。


「……西遊記の孫悟空にそっくりだな。皮肉なことに棒術に長けているやつと戦う必要があるとはトンチがきいてるね」


「あの魔物……孫悟空というんですか? とてつもないオーラを持っていますね。今までで相対した敵の中でも指折りの強さかもしれません」


「違うんだろうけど、分かりやすいから孫悟空と呼ぼうか」



 孫悟空が相当強いことは俺も感じていた。まだ距離は少しあるのに奴と目が合っている。その目力は半端じゃなく、空間がひりつくような感覚に襲われる。あの魔物には確実に意思がある。対話することも可能かもしれない。


「みんなのとこにいる魔物が弱いことを祈るだけだね」



なんで西遊記の孫悟空がこんなところに。この世界に天竺があるとでもいうのか? 三蔵法師でもいるのか? って、そんなわけあるかい。


  これはあとで考えを整理する時間が必要になりそうだ。




 気を取り直して武器を取り出し、自らにバフを全開でかけていく。出し惜しみして勝てるかどうかはわからないレベルの敵だから。でも、今回はありがたいことが一つだけある。


 周囲を気にする必要がない、という点だ。今までは全力で戦うことを制限されてばかりだった。洞窟の中や街、場所はそれぞれだけどいずれもセーブして戦っていた。だが今回はその制約がない。


 全力も全力、フルパワー全開でやらせてもらうぞ。今まで使うことが無かった魔法も思う存分試してやろう。今日のパートナーはヨミ、つまり水属性魔法を見せてあげたい。俺も鍛錬はしているところを見せつけてやろう。



 ある程度まで近づくと、胡坐をかいていた孫悟空が立ち上がって俺たちを見下ろしている。


『俺様を討伐しに来たか。確かにそれなりの気配を感じる。いいだろう、相手になってやる!』


「はは、どんだけ戦闘狂だよ!!」



 戦闘はすぐに始ま――らなかった。


 孫悟空がみるみる縮み、2mくらいの大きさに変化したのだ。先ほどまでは立つと6mくらいあったのにだ。


『手加減無しのガチンコ勝負だ。貴様も棒術を嗜んでいるのだろう? 一手指南してやる』



 ――あからさまな挑発。こんなのに乗ってはいけないと心では分かっている。だが、こいつの言葉には揺さぶられてしまったのだ。



 愛用している黒杖こくじょうを取り出し、言い返した。


「俺のは杖術だ! 一緒にすんじゃねぇ!!」


 突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀の極意を見せてやる。もちろん全力で魔法も使ってやるが、一勝負してからでも遅くない。


 ヨミに離れているように言いつけ、何かあった際は頼むと念押しして俺は集中した。



 身体強化をフルに使った飛び込み。弾丸の如く飛び込んで技を放つ。もちろん魔纏をしている状態でだ。


《杖術 槍の型 瞬華》



 この技はアザレ霊山のドレッドコングすらも一撃で倒した技だ。手加減無しの全力攻撃、かつ魔力を纏った状態なので威力も上がっている。いかに孫悟空と言えどこれは――


『――人間とは思えない魔力量、技のキレ。悪くない。だが、お前の技には足りないものがある』


如意金箍棒にょいきんこぼう 迎撃ごうげき


 俺を迎え撃つ如意棒によるカウンター。しかし、その技は明らかに俺ではなく武器めがけて放たれたように見えた。そう、見えたのだ。早すぎて反応する間もなく俺の武器は如意棒にぶち当たった。


 その瞬間、かつてないほどの衝撃が俺を襲った。そう言えば聞いたことがある。如意棒、またの名を如意金箍棒とも言い、その重さは約8トンにも及ぶという。そんな超重量の棒を、全力で身体強化した状態の俺でも速すぎて捉えきることが出来なかった。


 武器はなんとか手放さなかったが、空高く吹き飛ばされて俺はギリギリのところで着地した。



『武器を離さなかったのは褒めてやる。だが、貴様には3つ足りないものがある。一つ、貴様の技には覚悟が足りない。二つ、能力は高いが技を貴様が生かしきれていない。三つ、貴様の技はひとりよがりなのだ』


如意金箍棒にょいきんこぼう 羅刹らせつ



 追撃と言わんばかりに孫悟空は接近し、俺めがけて8トンある如意棒を振り下ろした。その速度は異常に早く、ギリギリ避けられるかどうかというところ。自動障壁が発動したおかげで少しだけ速度が落ち、すんでのところで避けることができた。


 俺のいたところには大きなクレーターが発生し、その威力の高さをまざまざと見せつけられた。


 少ししか相対していないが、わかったことがある。あいつのスペックはまさに西遊記の孫悟空そのものだということ。異常なまでの身体能力、怪力無双、8トンある如意棒。どれをとっても最強クラスだが、一番厄介なのは、ほとんど不老不死かもしれないということ。そうなれば手に負えないぞ。


 本来、孫悟空の弱点らしい弱点と言えば、短気で自分勝手なところかもしれないが……。そうには見えない。戦闘狂であることはいなめないが。


「……やめだ。悔しいけどこのままでは勝てそうにない。だから、魔法を使わせてもらうよ」



 杖術で勝てるかもしれないと思っていた俺は、いつの間にか驕っていたのだろう。今回は勉強になった。そして、もっと鍛えようとも思った。孫悟空の攻撃はどちらもシンプルなものだったが、それゆえか練度、威力、正確さ、どれをとっても最高峰だった。さらには、武器を十分に扱う身体能力も然り。武器も使い手も超一流ということだ。


 逆に俺は先ほどのカウンターを受けてからというもの、手に力が入らなくなってしまっている。黒杖は無事だったが、そう何度も受けられるものではない。ヒールでは治らないし、手の痺れは厄介でしかない。


『ふはは、そうだ。挑発に乗らずに自分の得意な分野で戦うべきだった。勝負は勝ってこそだ!! だが、気付くのが今更だな。俺様の勝ちだ!! 勉強がてら教えてやったのは、冥途の土産だぜ!!』



如意金箍棒にょいきんこぼう 八猿ノ首(おろち)



 猛スピードで接近してくる孫悟空が俺へと如意棒を振るうと、如意棒が分裂したかのように全方位から降り注いできた。さすがにこれは避ける場所がない。防御をしても8トンを超える質量をあの速度で振るわれれば、さすがに防ぎきれないだろう。



 覚悟が足りない、という言葉。俺は覚悟をもっていたつもりだった。けど、いつの間にか技は強くなるための道具くらいにしか考えていなかったかもしれない。本来、技にはその技一つで相手を倒すという気迫と覚悟を持って臨むくらいの気概が必要だったのだろう。


 生かしきれていないのは鍛錬が足りない上に、体が出来上がっていないというのもある。しかし、一番堪えたのは『ひとりよがり』という言葉。こんなにも心を抉る口撃は久しぶりだ。


 思い返せば俺はあまり考えず、挑発に思わず乗って攻撃してしまった。そこに孫悟空のことを考える余地はなかったし、ドレッドコングを一撃で倒したという驕りがあった。きっと、どこかで俺はなんとかなると思っている節があったのだ。




気を付けていたはずなのに、俺は自分の力に知らず知らずのうちに溺れていたようだ。




「ありがとう、大事なことを気づかせてくれて。また一つ強くなれた気がするよ」


『死ぬがいい!!』


「アウルっ!!」



 死ぬ直前だというのに不思議と頭は冴えていて、何かを悟ったように落ち着いていた。大切なことに気付けた俺は顔を上げ、前を向いた。俺が今やるべきことは相手のことに集中し、ぶっ倒すことだ。


 前世の俺が以前言っていた言葉だな。



《恩恵【器用貧乏】が覚醒しました。【蓋世之才】へと至りました》



 もともと夢世界で一度覚醒の感覚は掴んでいるからか、慌てるようなことはない。慣れたように俺は呟いた。




「白眉の盾」




 俺を取り囲むように幾枚もの盾が出現し、孫悟空の攻撃を完全に防いだ。盾はひび割れることもなく完璧に俺を守り切っていたのだ。


『なに?! これを防ぐだと?!』


「反撃開始だ」



 覚醒したことにより体のリミットが外れたような気がする。今まで全力だと思っていた身体強化はまだまだ序の口だったのだ。



『ほお……先ほどの助言だけで壁を超えたか。面白いっ!!』


 弾いたばねの様に跳んでくる孫悟空。だが、なぜか分かる。あいつの攻撃がどう来るのか。そして、その攻撃を俺は耐えきれないということも。恩恵が覚醒したからと言っても、孫悟空の強さが変わったわけではない。逆に俺も覚醒したから強さが倍になったとかそういうわけでもない。


 蓋世之才とは本来、時代を覆い包むほどのすぐれた才能を持つ者という意味だ。完全に器用貧乏の上位互換である。では何ができるようになるかというと、今まで出来ていたことの限界上限が一気に上昇するものと考えられる。


如意金箍棒にょいきんこぼう 斜麟しゃりん


水龍降臨(・・・・)


 俺が今まで使っていた技は招来、つまり召喚術と言ってもいい。しかし、今発動したのは降臨。降臨にも種類があるが、俺は自身に水龍を憑依させる形で降臨させた。すると、どうなるか。


『……貴様、本当に人間か?』


 孫悟空の技が俺の体を通り抜けていった。袈裟切りのように斜めからわきの下めがけて神速で振り下ろされた如意棒は、とくに何の抵抗もなく俺を切り裂いたのだ。しかし、俺にはなんのダメージもない。


 蓋世之才が俺に教えてくれたのは、水龍をその身に宿すことで一時的に物理攻撃を無力化する最強技のひとつ【水精霊化ウンディーネ】だった。魔力消費は莫大だし、長時間は維持できないが、幸いにも青龍帝であるレティアの加護があったおかげで実現した技だろう。


「いくよ」


 ――水神槍の投擲――


 巨大な水の槍が空中に出現し、標的を定めた瞬間に自動で発射された。発射までにかかった時間は0.001秒以下。およそ生物が認識できる時間知覚を超えている。つまり、槍を認識したころにはすでに串刺しにされているということだ。


『がぼっ……、バケモンだな、貴様』


 どてっぱらを貫通するように突き刺さっているというのに、未だに倒れる気配はない。さすがは不死身と称される孫悟空だ。今も突き刺さった槍を引き抜きやがった。確かに質量を持った槍として発射したが、それでも水だ。魔力を上手に操れなければできない芸当だ。


 もう一度黒杖を取り出し、悠然と構える。


 それに呼応するように如意棒を構える孫悟空。



 お互いに色々と限界が近いのを理解している。慣れない恩恵の覚醒に、魔力を湯水のように使ってしまって少し頭痛がしている。それに対し、思いのほか水の槍が効いているらしい孫悟空。腹からの血が止まっていないようだ。



如意金箍棒にょいきんこぼう 猿王降臨えんおうこうりん


《杖術 杖の型極意 稲妻》



 俺と孫悟空が交差し、俺が先に膝をついた。



「アウルっ!!」


 ヨミの悲痛な叫びが聞こえたが、返す余裕は無かった。


『見事だ。俺様の負けのようだな。だが、面白い闘いだった。礼を言う。一つ、我儘を聞いてほしい。この如意金箍棒を貴様の武器に取り込んでくれ。こいつはまさに俺様の生きた証、つまりは俺様そのものだ。頼む』


 俺に振り返り如意棒を俺へと伸ばしてきた。如意棒としての基本性能も持ち合わせていたらしい。


「取り込む?」


『如意金箍棒は少し特殊でな。俺様が認めた場合に限って他武器へと帰属することができる。貴様にならこれを任せられる。ふはは、俺様の武器は強かったであろう?』


「あぁ、過去最高に強かったよ。お前も、武器も」


 恩恵が覚醒しなかったら、負けていたのは俺だったのだから。


『過去最高、か。それも悪く……ない、な……』


「名前を聞いてもいいか?」


『俺様、は……斉天大聖 孫悟空様だ……!! 覚えておけ、よ。小僧……』


 そう言い残した孫悟空は、不思議なことに灰となって空へと消えていった。


「……俺はアウルだ。よろしくな」


 孫悟空からもらった如意棒は8トンあるとは思えないほど軽く、俺の手の中で脈動しているそれは俺の黒杖へと吸収されていった。

細々と更新していきます。

評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。

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[一言] 三蔵と白竜(三蔵が乗ってる馬)は何処へ逝った(スットボケ
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