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どうやら俺は己自身と己の過去に向き合う必要がある模様 ~その7~

      ■



 母を救急病院に搬送した後、俺とミズハは待合室で検査が終わるのを待っていた。

 お互い言葉はない。

 俺もミズハも椅子に座ったまま黙って俯いていた。

 ミズハは何が原因で母が倒れたのか分からず、かなり困惑していたが、それでも冷静に救急車を呼んで俺に付き添ってくれた。その後、何かを確認しようと何度も声を上げかけたが、俺の只ならぬ雰囲気を嗅ぎ取ったのか、これまで何も聞いては来なかった。

 やがて……。

 俺は覚悟を決めると、絞り出すように言葉を紡いだ。


「ミズハは……鞍馬崎家の人間なのか?」

「……先輩は……倉志摩家が鞍馬崎家の分家だと知らなかったのですよね?」

「俺は知らなかった……ただ、母さんは……きっと俺の父親から聞いていたんだろう……」

「先輩の……お父さん……?」

「俺と母さんは昔、鞍馬崎家に捨てられたんだ。それだけじゃない。俺達の存在が気に入らないのか、方々に圧力をかけて嫌がらせをしてきたよ……」

「……え?」

「些細な理由で職を追われたり、街で買い物すら出来ないなんて当たり前だった。母さんは日々の食料を買うのに、わざわざ姿を隠して隣町まで行ってた。そんな生活に嫌気が差していた俺と母さんはジジ……祖父が死んだのをきっかけに、鞍馬崎家の影響の少ないこの地に引っ越したんだ」

「先……輩!? いったい何を……」

「俺は……鞍馬崎家現当主の不貞の子なんだ……一度も見たことすらない父親なんで実感はないけどな……」

「――――ッ!!」


 ミズハが息を呑むのを感じた。

 そしてそのミズハの反応は、俺にある確信を抱かせた。

 それは直感だ。

 だが決して思い過ごしではないという、妙な確信があった。

 俺とミズハは決して一緒にはなれない。

 絶対に幸せにはなれない。

 今までの付き合いすら許されない。

 好きになってはいけなかった。

 それはミズハが鞍馬崎家の関係者だからというのもある。

 だが、それより……。

 俺と……ミズハは……。


「え? 先輩は私のおに……い…………」


 ――異母兄妹だったんだ。


 コツリ。コツリ。

 人の足音とは思えないほど、規則正しい音が傍まで近付いて来る。

 違和感はあったが、足音の主を確認する気力が俺にはなかった。


「本家から早急に戻るように命令が下った」


 女の声だ。

 少し年配の声。

 聞いたことはない。

 だが、俺の横でミズハが顔を上げる気配がした。


「ど……どうして……どうして義母様かあさま……いえ、師匠がここに? それに三年間は私の自由にして良いと……」

「これ以上、必要ないと判断した。自由時間は終わりだ。早々に荷物をまとめなさい」


 感情のない声が待合室の一角に響く。

 響いたのは声だけで、俺の心には何も響かなかった。


「せ……先ぱ……」


 ミズハが何か言いかけたのを聞いて、俺はミズハを見た。

 ミズハは震えながら俺の方に向かって手を伸ばしていた。

 俺はこの時、どんな顔をしていたのだろう?

 俺の顔を見たミズハは身を震わせ、伸ばした手を静かに降ろした。

 そのまま視線を俺から外す。


「…………ご、ごめん……なさい」


 ミズハはそれだけ言うと、ミズハの義母と思しき女性と共に立ち去った。


「……あ」


 俺はミズハを追いかけようとして、そこで固まってしまう。

 追いついたとして、掛ける言葉が思いつかなかった。

 いろんな物が雁字搦めになり俺の心を締め上げる。

 俺はミズハが異母兄妹だったことより、鞍馬崎家の人間であることがショックだった。

 付き合い始めてからの一年半が嘘の様に思えてしまった。

 俺は……ミズハを信じてやることが出来なかった。


 何が一緒にいたい……だ。

 何がミズハを護るだ。

 昨日したはずの決心が、どれ程薄っぺらいものだったか徹底的に思い知らされた。

 そして何より……ミズハに対して手を差し伸べることすら出来なかった自分を嫌悪した。


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