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どうやら俺は気を使ったつもりが逆に使われた模様



「でも、良いのか?」


 俺は移動しながらリーフに聞いた。


「何がじゃ?」

「俺たち二人だけで戦場に向かうって事は、リーフに敵が集中するってことだろ?」

「なんじゃ、そんなことか」

「そんなことって……」


 俺の心配など無用とばかりに、リーフはプラプラと手を振った。

 俺は怪我などしないが、リーフはそうは行かない。

 如何に始まりの竜プリミティブ・ドラゴンが種族的強者といえ、まだ転生したての子竜なのだ。《魔国プレナウス》の魔人二人、それに得体の知れないゴーレム相手に無事で済む保証はは無い。


「心配無いわい。それにレイジには……いや、我が主殿には妾の力をちゃんと見せておかねばの?」

「いや、いつ俺が主になった?」

「レイジの魔力で孵化したときから、ずっとじゃ。今の妾はレイジ庇護下にあると以前も申したじゃろう? 今はレイジの傍にいられることが、妾の幸せなのじゃ。ゆめゆめ忘れてくれるな?」

「………………」


 リーフの言葉に、俺は少しばかり返答に詰まった。

 そんな風に思われていたとは、少しも認識していなかったのだ。


「えっと、もしかして俺って、転生しちゃ駄目ってこと?」

「そうではない。ただ、妾達の事ばかり気にして、レイジが間違って消滅するような事になって欲しくはないのじゃ。必ず、其方が望む形で、その魂を来世に繋いで欲しい。ちょっと特殊な死霊だからと言って、油断はしてくれるな。特に其方はうっかりが多い故……な?」

「む……」


 リーフは、本心から俺を心配してくれているのだ。それが痛いほどに伝わる。

 確かに俺は油断していた。

 誰も俺を害することは出来ないと、高をくくっていた。

 転生出来るなら、何時消えても良いとも思っていた。

 だが、それが許されない位には、俺は俺の周囲の人々と繋がりを持ってしまった。

 俺が不意に消える事は、既に親しい誰かを亡くす事と同義なのだ。


「分かった。警戒は怠らない様にする。ただ、俺は戦闘については素人同然だからな。何かの時は助けて欲しい」


 俺の言葉を聞いて、リーフが今まで見たことが無いほどの笑みを浮かべる。そんなに嬉しかったのだろうか?


「その言葉、モモやアリィ達にも言ってやれ。皆、喜ぶじゃろう」

「あ、改めて言うのはちょっと恥ずかしいかな?」

「駄目じゃ。言ってやれ」

「…………お、おう。分かった」


 少ない言葉に強い圧を感じ、俺はそう言って頷くしかなかった。

 しかし、今のは流れて言えたけど…………意識すると、やっぱり恥ずかしいな。

 肉体があったら赤面していたかもしれない。

 いや、今も、もしかしたら表面上は顔が赤くなっていても不思議ではない。

 俺はそんな顔を見られたくなくて、少しだけ飛行速度を上げた。


 って、あれ?

 俺、気を使ったつもりが気を使われた?



      ■



 ウィドナ・デュガ・リルドリア公爵は、専属の魔術師三人と直属の騎士七人を率いて、《白き風の森》の遺跡前まで到達していた。

 三人の魔術師による【透明化魔法インビジビリティ】と【消臭魔法デオドライズ】、そして【消音魔法サイレンス】を駆使し、森の眷属達に気付かれる事無く、ここまで到達したのだ。

 目的は勿論《神の武具》と言われるアイテム。

 それの正体については具体的には分かっていない。

 かつて創造神の一柱であるオグリオルが、地上で《神の武具》を使い、人類を導いたとする記述が聖典に残っているだけで、それが具体的にどんな武具なのかは分かっていない。一説には鎧であると言われている。

 ただ、その《神の武具》があるとされている場所に問題があった。

 《白き風の森》。

 霊獣が支配する領域。

 リルドリア領内にありながら、人間の立ち入りを禁じた地。

 リルドリア公爵は、自身が納める地に己の威光が届かない土地があることに、以前より憤懣ふんまんやるかたない思いがあった。

 彼の父である先代公爵は、《白き風の森》の霊獣との盟約を大事にしていたが、何故父があれほど拘っていたのか、リルドリア公爵は知らない。何より興味が無かった。

 寧ろ、父親が霊獣に怯えているのではないかと、内心父親を見下してすらいた。

 自分の代になったら、あの森を人間のものにしようとすら考えていた。


 そんな折り、《神の武具》について旅の魔術師が探っていること、その《神の武具》が《白き風の森》に安置されていることを知ったリルドリア公爵は、千載一遇の好機が訪れたと、内心ほくそ笑んだ。

 公爵はまず、旅の魔術師を自らの元に招き入れた。

 ランドという魔術師は、一見普通の少年に見えた。

 だが、外見とは裏腹に、膨大な魔力を有していることは、魔術に疎いリルドリア公爵にも分かる程だった。

 メーニエと名乗った女魔術師は、魔術師というより魔女然とした風体であったが、こちらも高い魔力を感じた。

 二人はリルドリア公爵に協力的だった。

 《神の武具》に関する幾つかの書物を提示され、リルドリア公爵は歓喜の声を抑えることが出来なかった。

 その書物は、《神の武具》の《最後の管理者》が書き残した書物だった。

 その管理者が、《白き風の森》にある《聖域》に《神の武具》を安置したこと、そしてその地に霊獣が住み始め、管理者は霊獣によってその地より追い出された事を、深い恨みと共に記していた。

 これを見たリルドリア公爵は《白き風の森》への侵攻を決断した。

 霊獣によって人間より奪われた《神の武具》を取り返す。それこそ、自分が公爵位を継承して、最初の功績と考えた。

 《神の武具》を取り返し、教会に献上することを《白き風の森》への侵攻大義とし、兵を動かした。

 そして、ゆくゆくは《白き風の森》を完全な支配下とする。

 当然、病の床に伏せった先代には、一切を秘密にして、である。


 勿論、名目はあくまで名目であり、リルドリア公爵は《神の武具》を教会に献上するつもりはなかった。《神の武具》を自らの求心力とするため、手元に置きたいと考えた。

 だが、そんな事をすれば公爵の立場を危うくしてしまう。

 どうにかして合法的に《神の武具》を手元に置く方法はないか考えた。

 そんなリルドリア公爵の元に、もう一つの好機が訪れたのは、直後の事だった。

 

 ファナムス侯爵の使いとして、クーエルという人物が接触してきたのだ。


 ファナムス侯爵がバンドア大司教を総司教の座につかせることを画策していることを知ると、リルドリア公爵はこれ幸いと、ファナムス侯爵に協力を申し出た。

 より深い親交のあるバンドア大司教が総司教となれば、監理者という名目で、《神の武具》を手元に置くことが出来ると、そう考えたのだ。

 更にレーゼンバウム大公爵を陥る方策があるとと聞き、リルドリア公爵は一も二も無く飛びついた。

 そして、討伐の際に報告義務のあるフレイム・ファンガスを秘密裏に討伐し、ファナムス侯爵に大量のファンガス・パウダーを譲り渡した。


 ところが、ここで誤算が起きた。

 自領土の治安悪化も省みず、やっと《白き風の森》の霊獣を討伐するだけの戦力を集めた直後、ファナムス侯爵が逮捕されたと報告を受けたのだ。

 それが三日前のこと。

 しかもファナムス侯爵は二週間以上前に拘束され、今は処分を待つ身だと言う。

 報告を受け取ったリルドリア公爵に焦りが生じた。

 ファナムス侯爵が捕まったとなれば、今頃自分との関係も白日の下にさらされているかもしれない。

 リルドリア公爵はその報告を聞いたとき、歯噛みした。

 一番の問題は、その報告を受けるのが遅すぎる。間違い無く、レーゼンバウムの諜報員による妨害があったとみるべきだ。

 つまり、完全に後手に回ったと言う現実。

 このままではマズい。あと数日もしない内に、王都から兵士が来て逮捕されるだろう。それまでに何とかして自分に嫌疑が向かないよう手を打たねばならない。

 そう考えた公爵は、適切な人物がいることに気付く。

 そうだ。旅の魔術師であるランドとレーニエに全てを押し付けよう……と。

 どうせあの二人も、《神の武具》を入手することが目的だろう。

 なら、ヤツらを《魔国プレナウス》の間者に仕立て上げ、全ての責任を押し付けよう。

 ファナムス侯爵を陥れたのも、あの二人のせいにすれば良い。

 《神の武具》も、ヤツらに奪われないよう手を打ったに過ぎないと主張すれば、何とか手元に残せるかもしれない。霊獣に預けるより、自分が管理した方が良いと、周囲を納得させられれば、どうとでもなるだろう。

 後は、ランドとレーニエが《白き風の森》に向かってくれれば、大義は立つ。

 そう思ったところで、その二人から《神の武具》奪取に手を貸したいと言ってきた。

 公爵はそれを聞いたとき、自分には運があると確信した。

 手を動かすより早く、状況が都合の良いように整うのだ。

 これを運が良いと言わず、なんなのか。

 ランドとレーニエが出立した後、公爵は側近の騎士と魔術師を連れ、彼らの後を追った。

 彼らを陥れる為に。


 だが、公爵は大きな間違いをしていた。

 一つは、公爵がファナムス侯爵に加担していたことは、既に白日の下にさらされていこと。

 その為、今更どう繕っても、公爵に処分が下されることは逃れようもなかったのだ。

 そしてもう一つ。

 ランドとレーニエは、本当に《魔国プレナウス》の魔人だった。しかも最強の《魔軍八将》の二人である。

 嘘から出た真なのだが、それに公爵本人が気付いていない。

 公爵の側近を何人集めようが、彼の魔人には歯が立たないと言うことすら、知らなかった。

 そして、最大の間違いは、自分に運が向いていると思い込んでいることだった。


 もう数日前から、公爵の命運は、とうに尽きていたのだ。


 それに気付かないまま、公爵は《白き風の森》の遺跡に到着し、ランドとレーニエを捕らえようと行動を開始した。


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