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クール・エール  作者: 砂押 司
第2部 カイラン南北戦争

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水竜と火竜

森人エルフのアリス様と行動を共にしていることにも驚きましたが、次は魔人ダークスですか」


「ふふふ、よろしくお願いしますわー」


「シムカ、そいつは守らなくていい。

むしろ、守るな。

アリスとは違って俺とは主従契約だから、様もいらん」


「……かしこまりました。

確かに、どちらも必要ないでしょうね」


「ふふふ」


荒れ果てた山を進む途中で、俺はシムカを呼び出した。

シズイとサラスナの説得にあたって、面識のある人物が必要だと思ったからだ。

俺としてはシムカを完全に便利使いしていることにそろそろ心苦しくなってきているのだが、当の本人は別に嫌そうな顔はしていない。

……というか、あまり表情が変わらないのでよくわからないのだが。


1600年以上を生きるシムカが、魔人ダークスであるミレイユにどういう反応をするかも見ておきたかったのだが、あまり思うところはないらしい。

一方のミレイユの赤い瞳にも、特筆すべき感情は浮かんでいなかった。


「この先にシズイとサラスナがいるから、捕獲する。

説得は俺がするから、お前はシズイに俺の説明だけをしてくれればいい。

……先に言っておくが俺は2人の関係を認めるつもりだから、口を出すなよ?」


「御意に、ソーマ様。

我ら兄弟姉妹、それが当代様のご判断であれば謹んで……」


「ふふふ、霊竜同士のつがいを見られるなんて、多分二度とありませんわー」


歩きながら状況説明をしたが、エバの契約精霊のベテルや、マモーの契約精霊のレブリミとの会話を見た限り、またなんだかんだでシムカは怒鳴ることになると思う。

俺の中では、シムカにしゅうとめのようなイメージが定着しつつあるのだが、絶対に本人には言わないようにしておこう。

















シムカいわく。


精霊と大精霊は、根本的には違う存在らしい。

精霊が寿命のない完全な非生物であるのに対して、大精霊は元生物である。

俺の場合で考えれば半人半精で、寿命もある。


一方の霊竜であるが、これはどちらかと言えば大精霊に近いシステムのようだ。

赤竜、青竜、白竜、黄竜、緑竜、光竜、天竜。

これらの中で最も強い竜が、それぞれの大精霊を守護する半竜半精の存在。

火竜かりゅう水竜すいりゅう風竜ふうりゅう土竜つちりゅう木竜もくりゅう命竜めいりゅう時竜ときりゅう

すなわち、それぞれの霊竜となるのだ。

大精霊となった俺が元の人間の姿と、精霊としての姿 (シムカのように全身が水になる)を持つように、霊竜は元の竜の姿の他に、人間としての姿を持つことができるようになる。


シズイとサラスナも同様に、少女と少年の姿だった。

実際こうして前に立っても、この2人の正体が巨大な爬虫類だとは全くわからない。

内在する魔力自体もそれなりのものなのだが、うまく抑えこんでいる。


むしろ、ミレイユが上空から遠目で見ただけで看破した方法が謎だ。

それを本人に問うと、血のにおいが全然違いますわー、と全く共感のできない返事が返ってきた。

余談だが、王都で俺の方に向かってきたのも、魔力ではなくて美味しそうな血の香りがしたから、らしい。

半径400メートルの全てを知覚できる俺が言うのもなんだが、それ以上の距離から血のにおいがわかる、というのはどういう日常なのだろうか。

本当にやることがなくなって暇を持て余したときにでも、ミレイユに聞いてみたい。


……話が横に逸れてしまったが、さて。

水竜シズイと、火竜サラスナ。


200年前に駆け落ちし、名目的にではあるがこのカイラン南北戦争の引き金となった2柱の霊竜。

種としては600年以上の寿命を誇り、討伐には国家戦力が必要とされる、世界最強の生物。


その2人は今。

俺の前で、地面に正座をさせられていた。





「げ、ババァ!!!?」


シムカを視界に入れた瞬間にシズイがそう叫んだため、結局シムカは開口一番で怒鳴ることになった。

ただ、その剣幕に怯えたサラスナが腰を抜かし、さらにシムカが俺が大精霊であることを告げたことによって、シズイも戦意は喪失したらしい。

結果として、シムカの命じるがままに2人は正座の姿勢をとり、俺が最も懸念していた霊竜2柱との激突は避けることができた。

眼前に水の大精霊、つまり内縁の妻が仕えるべき主人が仁王立ちしている事実に、シズイはともかくサラスナは完全に怯えきっている。


シズイが人化した状態の姿は、10歳くらいの少女のものだ。

サファイヤのような光沢のある青い髪は肩口で切り揃えられており、所々がはねている。

その下の同色の瞳も、勝気そのものだ。

が、その目は見下ろす俺と決して視線を合わそうとせず、斜め上の中空を忌々しそうににらみつけている。

口をとがらせて頬を膨らませるその姿は、どこからどうみても反抗期の子供だった。


一方のサラスナは、さらに幼く7か8歳くらいの外見にしか見えない。

シズイと対をなすように、その髪はルビーのような赤色だ。

ふわりとした巻き毛で、ボーイッシュな少女と言えなくもない姿である。

やはり同じ赤色の瞳は、しかし目をギュッと閉じてうつむいているために今は見ることができない。

小刻みに震えている顔は今にも泣きだしそうで、隣に笑顔のミレイユを並べておけば、極めて不健全で退廃的な物語が始まってしまいそうだった。

おそらくは、そのミレイユの皮膚の外装化と同じ原理だと思うが、2人はそれぞれが、やけに丈夫そうな青と赤のローブを着ている。


その前で黒いマントに身を包み、腕組みをして2人を見下ろす俺の姿は、さしずめ放蕩娘とその夫に絶縁状を叩きつける頑固親父、といった役回りなのだろうか。

難しい役柄だ。

現世で小さかった頃に妹の朱美あけみのおままごとにつきあってやったことはあるが、そんな高度な役柄は演じたことがない。

そもそも俺には父親がいなかったので、うまく想像ができない。


とはいえ、別に本当に威圧をしたいわけではない。

むしろ、本当に子供のように暴れられでもしたら困る。

こいつらはただの子供ではなく、それぞれが霊竜なのだ。

が、態度、特にシズイのそれだけを見れば、やはり子供にしか見えない。

正直言って、こういう子供の相手は苦手なんだけどな……。


溜息をついた俺は2人の前であぐらをかき、できるだけ目線の高さを2人に合わせて話しかけることにした。

少なくとも、10日程度でプロンにとけ込み、サーヴェラから信用を得られるだけの社交性と知能はあるのだから、言葉だけで解決してしまいたい。

怪獣を懐柔する、とどうでもいい言葉遊びが思い浮かんだが、すぐに忘れる。

口に出してしまえば、それこそ親父だ。

俺が地面に座ったことに合わせて俺の後ろで跪いたシムカと、1歩下がっていたミレイユが興味深そうに俺を見つめている。

主人のお手並み拝見、といったところだろうか。


まぁ、見てろ。

まずは怪獣が暴発しない程度に、軽く追いつめていく。


「……で、何か言うことは?」


「「……」」


「……」


「……も、申し訳ありません」


「サラスナ、別に謝らなくていーの!

悪いこと、してないもん!」


予想通りというか、サラスナが早々に折れて、シズイが早々にわめいた。

その瞬間に後ろでシムカの怒気が膨れ上がったので、俺は片手を上げてシムカを制する。

シムカが深く頭を下げたのを確認してから俺は腕を戻すが、実際のところ、駆け落ちのことを責めるつもりはない。

むしろ誰もいなければ、よくやった、とシズイを褒めてやりたいくらいだ。


なぜなら、この場で俺が手に入れたいのは、火竜のサラスナの方なのだから。


まぁ、ここはシズイを先に追いつめながら、サラスナを立てる方向で行くべきだろう。

サラスナには、俺に対するうしろめたさと、最終的には感謝と尊敬の意を抱いてもらわなければならない。

子供は苦手だが、こいつらの精神性が子供のそれで好都合だった。

俺がこれから演じるのは、厳しくも優しい子供に理解のある大人、だ。


「シズイ……、俺はお前が水竜だと聞いているんだが?」


「そーだけど!?」


シズイが、ヒステリックな声でわめく。

身元確認でいちいち叫ぶな。

耳が痛い。


「じゃあ聞くが、水竜の務めは?」


「……大精霊様を、お守りすることです」


トーンダウンする程度には、自覚あるんじゃねぇか。

あとシムカ、いちいち頷かなくていい。


「で、お前は今それをできているのか?」


「……」


むくれて視線を外したシズイを軽くにらみつけ、俺は溜息をつく。

もちろん演技だ。

最悪のケースとしては、問答無用で暴れられて、力ずくで押さえつけるケースさえ考えていたのだ。

あと数分間のおままごとで片付きそうだと確信できた俺は、ガッツポーズをしたい気分だった。


続けて、俺はサラスナの方へ目を向ける。

水の大精霊と、その配下の上位精霊筆頭。

その2人からの強い視線にさらされたルビーの色の赤い瞳は、今にも涙をこぼしそうになっている。


いい……傾向だ。

俺は唇がつり上がりそうになるのを、無表情で噛み殺す。


「サラスナ、お前は火竜だな?」


「……はい」


「シズイにしたのと同じ質問をしよう。

火竜の仕事は何だ?」


「……火の大精霊様を、お守りすることです」


「俺は水の大精霊だから、直接口をはさむのはどうかとも思うが、一応聞いておく。

お前は、今その仕事をできているのか?」


「……いえ」


俺が水の大精霊であることを、強調しておく。

つまりは、俺はシズイの主人なのだと。

そのまま無言でサラスナをにらみつける俺を見て、ついにシズイが立ち上がって爆発した。


「だって、アーケロン様がサラスナと番になっちゃいけない、ってゆーんだもん!!

でも、あたしはサラスナが好きで、一緒にいたいんだもん!

水竜だからサラスナと番になっちゃいけないなら、あたし水竜やめる!!」


「シズイ、当代様を前にしてどういうつもりですか!?」


「シムカ、控えろ」


「しかし……」


「控えろ、と言ったんだ。

お前が言ってくれたように、当代の水の大精霊はこの俺のはずだが?」


「……は、失礼いたしました」


シムカには悪いが、いい感じだ。

このまま、これを使わせてもらおう。


「シズイ、俺はアーケロンではなくソーマだ。

当代の水の大精霊は、この俺だ。

そして、……俺は別にお前がサラスナと番になってはいけないと、1度も言ってはいないはずだが?」


「「……え?」」


俺が無表情で放った甘い言葉は、シズイとサラスナの瞳を丸くするには充分なものだった。


「シズイはこう言っているが、お前はどう思う」


俺はサラスナに視線をずらし、その瞳を正面から見つめた。

やはりルビーのような赤い瞳には、まだ少年の幼さが揺れている。

もう少し、か。


「……」


「男……あるいは雄として、お前は今どう思っている?」


まだだ。

もう少しだけ、追いつめる。


「仮にも番になりたいと言い、そのために主人である大精霊に霊竜をやめるとまで言う雌が隣にいて、お前は黙っているだけなのか?

だったら俺は、やはりお前とシズイのことを認められないだろうな」


お膳立ては、これくらいでいいと思うんだが。


「……水の大精霊様!」


サラスナが土下座した。

そう言えば、爬虫類でも正座とか土下座とかは知ってるんだな。


「ソーマでいい」


「では、ソーマ様!

僕に、この火竜サラスナに水竜シズイをください!

絶対に、一生を懸けて大切にしますので!

お願いします!!」


俺は視線を、感激に震えているシズイにずらす。


「……お、お願いします!」


立ったまま口を押さえていたシズイも、慌てて頭を下げた。


「顔を上げろ、サラスナ、シズイ」


俺の声に従って顔を上げたサラスナの瞳を、俺は真っすぐ見る。

その燃えるような瞳の色は、男としての決意に満ちていた。

これで、った。


「……わかった、認めよう」


用意していた答えを重々しく読み上げながら、俺は自分でも予想外の思いにとらわれていた。





アリスとそういう話をしたことはないが……。

……俺にも、アリスと夫婦になる日がくるのだろうか?





自分の家庭がシングルマザーでしかも早期に崩壊したため、いまいち家庭というものがイメージできない。

現状、隣にアリスがいてくれていれば充分なので、それ以上を望むという発想が俺にはない。

だが、俺もいつかはサラスナのように、アリスの両親に頭を下げるのだろうか。

……俺が?


にしても、まさかそれより先に頭を下げられる方になるとはな……。

胸の中を去来する色々な感情に、俺は小さく苦笑いを漏らしていた。


「あの……?」


「ソーマ様?」


「……あぁ、だから認める、と言ったんだ。

番になりたいなら、なればいい。

それが、俺の決定だ。

……シムカ、色々と手間をかけたな」


「いえ、御意のままに」


「「あ、ありがとうございます!!」」


あっさりとお許しが出たことではしゃいでいる子供2人を見ながら、俺は頭を切り替える。

どう見ても子供同士の結婚なのだが、まぁ200年も事実婚状態だったのだから今更離婚することもないだろう。

霊竜同士の離婚の調停など……、絶対にやりたくない。

心からそうならないことを祈りつつ、忘れずに本題も付け足しておく。


「ただし、住む場所は移ってもらうぞ?

今の戦争が終わったら、俺はカイラン大荒野に村を作るつもりだ。

プロンの人々は、そこに住むことになるだろう。

お前らには、そこの守護に付いてもらう。

かまわないな?」


「も、もちろんです!」


「あたしも、頑張ります!」


ナイトの駒2つ、ゲット完了。

そして、これからが本当に重要な案件だ。


「それからサラスナ、シズイをお前にやるにあたって火の大精霊とも話をつけておきたい。

今、どこにいる?」


世界を支配し、戦争をなくす。

これが俺とアリスの目的だが、そこには大きく分けて3つの敵がある。


1つ目は国家だ。

俺は、国というものの力を決して過小評価はしていない。

いかに個人の武力が優れようとも、群体生物ともいえる国家の生命力は半端なものではない。

それを倒すためには、経済や思想のような遅効性の毒も併用する必要があると俺は思っているし、その使用を躊躇うつもりもない。


2つ目が強者だ。

とはいえ、現状ではこれにあたるのは2人しかいない。

フリーダと、ミレイユだ。

確実な勝利が臨めない限り、俺は個人でこの2人と激突するつもりはない。

するにしても、それは本当に最後の段階だ。


そして3つ目が、他の大精霊だ。

7属性の大精霊のうち、所在が判明しているのは命と時を除く5柱。

水は、当然ながら俺。

風のレムは、フリーダと契約しているため後回し、というよりもほぼ敵対関係になると見て間違いない。


問題は残りの3柱だ。

すなわち、木のフォーリアル、土のガエン、火のエンキドゥ。

この3柱を味方にする、あるいは敵対させないように行動する必要がある。


特に『浄火』と共に1度世界を滅ぼしかけた、火の大精霊エンキドゥ。

自らが焼き尽くしたバン大陸のどこかで眠り続けていると言われているが、手中に収めるのは無理にしても、友好関係を構築しておきたい。

そのような概念があるかは微妙なところだが、霊竜の婚姻という口実を利用して縁戚関係を結べるならば言うことはない。

少なくとも、敵対しなくなってくれればそれで充分だ。


俺がサラスナを重要視する理由は、ここにある。


「エンキドゥとは、話せるのか?」


しかし、その答えは残念なものだった。


「いえ、無理です。

エンキドゥ様とは、直接お会いしたことはありません。

僕が生まれたときには、もうお眠りになっておられましたので」


「そうか……。

ついでに聞くが、他の霊竜や大精霊に会ったことはあるか?」


「いえ、それもありません」


「あ、あたしもありません」


「そうか……」


まぁ、一気になんでもかんでも手に入れるのは無理か。

国家戦力2匹を支配下におけたんだから、良しとしておこう。


「よし、プロンに戻るぞ。

シムカ、お前もそのままついてこい」


「御意に。

……シズイ、ソーマ様がお決めになった以上は、私もあなた方のことは認めます。

ですが。

これまでの200年間のことについては、じっくりとお話をさせていただきますからね?」


「……ソーマ様ー、なんとかしてくださいー……」


「シムカ、好きにしていいぞ。

シズイ、先代以前のことは俺の権が及ばないところだ。

しゅ……いや、シムカともきちんと話をしておけ」


「うえぇぇぇー……」


「旦那様、面白かったですわー」


「……何よりだ」


俺の許しを得たシムカがクドクドとシズイを叱り続け、シズイが絶望に満ちた顔でそれを聞き続ける中。

サラスナが俺の方に寄ってくる。


「あの、ソーマ様。

本当にありがとうございました。

それに、きっとエンキドゥ様もわかってくださると思います!」


「……だと、いいな?

それからサラスナ、お前もシムカと話をしてこい。

もう、家族なんだから」


「は、はい!」


「……」


「ふふふ」


嬉しそうにシムカの方へ走っていき、叱られ始めてすぐにシズイと同じ表情になったサラスナを見ながら、楽しそうに笑うミレイユの横で俺は小さく溜息をつく。

そうだサラスナ、お前はもう俺の家族のようなものだ。

だから、忠告しておく。





会ったこともない相手を、無条件に信用するな。

目の前の俺からして、最悪はお前を洗脳しようとしたのだから。





マインドコントロール。

俺がやったのは、そう呼ばれる行為だ。

極限状態の中で、甘い言葉と共にそれしか道がないように手を差し伸ばし、その思想を操ること。

これに暴力が伴えば洗脳と呼ばれるものになるが、過程が違うだけで目的は同じようなものだ。


ちなみに文言から、極限状態の中で、を抜くとそれは「教育」と呼ばれるものになる。

手段と名称、意図が違うが、人格形成に影響を与えるという意味では、結果に大きな差異はない。


クロタンテで助けた、アンゼリカたちにしても。

新天地を用意すると言った、サーヴェラたちにしても。

番になることを認めてやった、サラスナとシズイにしても。


俺しか、すがれるものがないと思いこませ。

彼らにとって、甘く優しい言葉を差し出し。

最大限に利用し、彼らの未来を捻じ曲げた。


これは全て俺の目的のために必要なことで、善意からの行動ではない。

だがその上で、俺はこれを間違ったことだとは思っていない。


これをマインドコントロールと呼ぶか、洗脳と呼ぶか。

善意と悪意には、それくらいの差しかないからだ。


善意から来る悪行と、悪意から来る善行。

この2つにも、大きな差異はない。

例えば、恵まれない人々が救われることを願って、心から祈り続けること。

あるいは、自分の名前を売ることを狙って、その人々を実際に支援すること。

どちらが結果として、その人々の救いになるだろうか?


大切なのは結果であり、現実だ。


だから俺は、善悪の区別に興味はない。

それはチェスの駒の白と黒、その程度の差しかないのだから。

















ミレイユとシムカ、涙目のシズイとサラスナを従えて、俺はプロンへと戻る。


アリスによる、サーヴェラたちの説得も終わったようで、3台の馬車の荷造りは終わっていた。

俺とアリスは視線を合わせ、お互いに頷き合う。


いよいよ、終盤戦だ。

あとやるべきことは、盤面に並んだチョーカの駒を全て払いのけること。

おそらくは数万の命を、揃ってこの世界から退場させることだけだ。


俺は立ち止まり、いつもの癖で首を左右に捻ってクキクキと鳴らす。





実際のところ、子供2人を相手するよりも。

……よっぽど簡単だな。

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