アフター・エール カンナルコ・デイズ 後編
「カッラアゲッ『イェイ!』、カッラアゲッ『イェイ!』。
パーパの作る、カッラアゲッ『イェイ!』」
俺の家、すなわちウォルのカンナルコ家で唐揚げを作る場合、必要になる材料はまずニワトリ3羽分の鶏肉だ。
骨の部分は食べられないため単純には計算できないが、それでもおおよその可食重量は2キロに達する。
羽をむしり内臓を抜き、さらに解体してニワトリを鶏肉の状態に変えるという家庭では手間のかかる作業は、ロザリアが部門長を務める調理部員があらかじめ終わらせ、氷室に保管してくれている。
ウォル内で自宅を持っている住民が自炊する場合は、穀物や野菜も含めここで食材をもらえばいい。
「カッラアゲッ『イェイ!』、カッラアゲッ『イェイ!』。
マーマも大好き、カッラアゲッ『イェイ!』」
そうして受け取ってきた鶏肉は2口くらいのサイズに切り分けた後、下味をつけていく。
これをいかに丁寧に行うかが、唐揚げの味を段違いに上げるコツだ。
塩、コショウ、アリス厳選のハーブ類のみじん切り、大量のおろしショウガと隠し味として少量のおろしタマネギ。
尚、俺の好みの問題でカンナルコ家の唐揚げではニンニクを使わない。
さらに、ようやく製造が安定した酒と醤油に漬けてよく揉んだ後、引き上げて軽く油を纏わせる。
これは、染みこませた下味を逃がさないためだ。
「カッラアゲッ『イェイ!』、カッラアゲッ『イェイ!』。
いっぱい食べたい、カッラアゲッ『イェイ!』」
そして、粉も2種類を使う。
最初に小麦粉を、次に白芋から作った片栗粉を使うことで、よりクリスピーな食感に仕上げることができる。
粉はまんべんなく、しかし丁寧にはたいてできるだけ薄く。
調味料に漬けた後引き上げておくのも、必要以上の粉をくっつけてしまう余計な水分を切るためだ。
「カッラアゲッ『イェイ!』、カッラアゲッ『イェイ!』。
世界をすっくう、カッラアゲッ『イェイ!』」
最後に、二度揚げだ。
最初は低温で6分ほど揚げてから、油を切りつつ3分休ませる。
その後、高温にした油で1分だけ揚げることで、カンナルコ家の唐揚げは完成だ。
やはりしっかりと油を切りレモンを添えることで、アイリいわく世界すら救う肉料理は完璧になる。
「カッラアゲッ『イェイ!』、カッラアゲッ『イェイ!』。
ニッワトリも、しっわわせ『イェイ!』」
……それは、多分そうでもないと思うが。
「ほら、できたから座れー」
「はーい!!」
自作の『カラアゲのうた』を歌いながら踊っていたアイリが元気よく返事をするテーブルの前に、アリスが俺から渡された木の大皿を置く。
サラダを作りながらずっと合いの手の「イェイ!」を入れ続けていたアリスのいつになくハイテンションな視線の先、ザルが敷かれた上に積み上がっているのは約60個の唐揚げで構成された黄金色の山だ。
大人2人と子供1人が食べる量としては明らかに異常な多さだが、全員が高位魔導士であるカンナルコ家の3人にとっては常識内の量でもある。
「「いただきます」」
「いただきます!」
ごはん開始の挨拶と共に、アイリが持つフォークとアリスが操る箸がそれぞれ閃光に変わる。
アイリは満面の笑みで、アリスも満面の笑みで。
ところどころ雪が散ったように白い片栗粉を残す唐揚げに軽くレモンを搾り、かぶりつく。
サシュッと軽い音、テーブルに漂うレモンと油の匂いを上書きするショウガの香り。
「「……!」」
同じように幸せそうな、大小2対の緑色の瞳。
飲み込むように唐揚げを食べていくアイリとアリスを眺めながら、一方の俺はアリスが作ったサラダを味わっている。
揚げ鍋を長時間にらんでいたため、体が水とビタミン、クエン酸を欲しているのだろう。
ついでに言えば猫舌なので、揚げたての唐揚げはどうせ食べられない。
むしろ、今の俺の目にはカットしたサンドイッチの方が魅力的に映っている。
このサンドイッチ、実は夕方にアイリと帰ってきて「れんらくノート」を確認した後に発見したもの、つまりは今朝アリスが持って行くのを忘れたものだ。
幸いに冷蔵庫に入っていたため痛んではいなかったものの、アリスがおそらくまともな昼食を摂っていないことを悟った俺は夕食のメニューをガッツリした唐揚げに変更することにした。
久しぶりの「パパのカラアゲ」に狂喜乱舞するアイリに絡みつかれながら準備をしているところに帰ってきたアリスは、案の定ローテンションの極みだ。
今日のアリスの職場は近くに飲食店どころか建物すらない開拓中の畑だったため、聞けば生のまま食べられる野菜を品質チェックの名目で適当に摘まんで空腹をごまかしていたらしい。
ランティアたち農産部員の誰かに弁当を分けてもらうのは、流石に恥ずかしくてできなかったそうだ。
「……幸せ」
だからこその、『カラアゲのうた』への全力の合いの手とこの溜息だ。
「うん、『しわわせ』ー……」
ハムとチーズをたっぷり重ねたサンドイッチに手を伸ばす俺の視界の中で、母親と同じく唇をテカテカに輝かせるアイリがしみじみとつぶやく。
こうして見ていると、本当にアイリはアリスにそっくりだ。
「パパと結婚してよかった」
「わたしも、パパの娘でよかった!」
「……どうも」
愛の溢れる発言は大変光栄なのだが、緑色の瞳たちが捉えているのが俺ではなく唐揚げの山の方だという事実が俺の感情に水を差す。
それは、既に半分以下の高さになっていた。
「じゃあ、ここね」
「ギャーーーー!
わたしの『ぼーえーせん』が!?」
それから、およそ1時間後。
食事を終えて片づけも済ませた俺たちは、リビングでボードゲームに興じていた。
「ハントグラム」というやはりサリガシアが発祥のこのゲームは、囲碁とチェスを合わせたような内容のゲームだ。
相手の駒を閉じ込めるように自分の駒を動かしていくという、最大で4人用のゲームである。
「甘いな、ママのそれ『ハンテッド』」
「あっ……」
スリプタでは電気が発明されていないため、テレビもゲームも存在しない。
必然的に、室内娯楽は全てがアナログだ。
ボードゲームにカードゲーム、人形やパズル、あるいは本。
最初の頃はチェスと恋愛小説しかなかったカンナルコ家でも、アイリの成長に合わせてその種類は大幅に増えている。
「……あ! パパのそれ『ハンテッド』!
…………で、ここ!」
「……やるな」
あるときは、3人でこういったボードゲーム。
あるときは、3人でひたすらお喋り。
あるときは、3人でパズルに挑戦。
あるときは、3人で並んで読書。
これが、カンナルコ家における夜の過ごし方だ。
「……ここ」
「させるか、ここだ」
「で、そこを『ハンテェーッド』!!」
「「あ」」
アイリ渾身の一手が、小競り合いを始めていた俺とアリスの陣営をまとめて狩り獲った。
残りのターン数から考えても勝利がほぼ確定したため、小さな狩人はご機嫌だ。
残りは2位争いだが、いつも通り防衛に重きを置いていたアリスに数マス分の利があるか。
となれば、最後に少しだけ父親の威厳を示しておこうかと、俺はアイリの陣地に駒を移動させる。
アイリ圧勝の現状を3ターンあれば逆転できる手順だが、実際にはあと2ターンしかないためそれは叶わない。
「はい、それでおしまい」
「1ターン届かず、か」
「うー、けっこうギリギリ……。
……でも、勝ったー!」
それでも、辛勝と呼べるくらいにはアイリの陣地を削ったところで、本日のゲームは終了した。
……ちなみにだが、俺はもちろん手を抜いている。
5回やれば2回はアイリの勝ち、2回は引き分け、1回を惜敗くらいになるように調整しているので、なかなか骨の折れる戦いだ。
たまには、アリスも勝たせないといけないからな……。
「じゃあアイリ、そろそろお風呂に入ろっか」
「うん!」
平日に限るなら、夕食後からアイリが就寝するまでの3時間ほど。
1日の中で唯一となる家族団欒の時間をしっかり楽しんだアイリは、勝利の喜びを携えたままアリスに連れられて浴室に向かう。
ボードをしまった後、持って帰ってきた報告書を取り出しながらアリスが浴槽に栓をするのを【水覚】で知覚して湯を生成。
ソファーで準備学校の支出一覧に目を落とした俺の耳には、アイリがキャイキャイとはしゃぐ声が微かに聞こえてくる。
準備学校による育児の一斉管理という、ウォル独特のシステム。
今のような家族団欒の時間が大きく削られるデメリットを享受してまで俺がこれを断行したのは、「親」というものに対する俺の評価が大きく影響している。
アイリを育てながら実感したことであるが、やはり産後から数年間の育児を1人や2人だけで行うのは無理だ。
人間の親は結局人間であり、生物である以上その体力や気力は有限でしかない。
有限である以上、そこから無限の愛など生み出されはしないし、それすらも愛で……言い換えれば熱意や善意で何とかしろというのは、引き算すら理解できない人間の暴論だ。
2リットルのペットボトルからは2リットルの水しか出せないし、それを3リットルの氷にすることは絶対にできない。
それを何とかしてしまった人間の余力がマイナスに振れたとき、生まれるのはまさしく負の感情と陰惨な結末と相場は決まっている。
育児に限らず「経営」全体に言えることだが、人間の熱意や善意に頼らなければならない時点でそのシステムは破綻しているのだ。
故に、そうならない、人間の熱意や善意に頼らずとも継続できるシステムを創造するのがリーダーに課せられた仕事となる。
かつてサーヴェラたちに説いた、想像する力。
その先に求められるものが、実際に創造する力なのだ。
……また、準備学校や学校の時間を長くすることで家庭育児のウェイトを小さくした理由には、ウォルの住民の大半が孤児だからというのもある。
親を喪うどころか親に売られたような経験を持つ元子供たちにとって、育児を想像し家庭を創造するということはなかなかハードルが高いものだ。
その負担を軽減する方法が、準備学校や学校への強制的なアウトソーシングなのである。
同時に、これらは育てられる子供たちからできるだけ格差を取り除くための施策でもある。
たまに忘れられているが、ウォルの住民というのは全員が元奴隷か難民であり、ウォルにその身柄を買われている状態だ。
成人した後にはその返済をしていく義務があるため、ウォルの住民たちは生活に不自由こそしないものの決して無意味な贅沢をできる余裕があるわけでもない。
必然、倹約すべきところは倹約している。
弁当、衣服、筆記具……いや、それ以前に教育を受けるための費用。
この部分をウォル側から一律支給しているのは、親や子供自身にこの部分で節約をさせないためだ。
また、学校内において子供たちに経済格差、ひいては愛情格差を感じさせないためでもある。
……まったく、親というのは、大人というのは本当に大変だと思う。
召喚されず人間のままだったとして、果たして俺に務まっただろうか。
何せ、大人が想っている以上に、子供たちにはこの世界が見えているのだから。
「あがったーーーー!」
「アイリ、まだ拭いてない!」
数字の羅列を追い続けていた俺の耳に、トトトっと小さな足音の連続が聞こえた。
アリスの声を背にして走ってくるのは、ボトボトのままこちらに走ってくる笑顔のアイリ。
慌てて報告書を頭上に逃がした俺の胴体に、自称「可憐」志望の全裸娘が飛びついてくる。
「パパに乾かしてもらうから、だいじょーぶ!」
いや、まぁ、もうこの状況だとそうするしかないけどな……。
ただ、それを善しとするほど、俺もアリスも放任してはいない。
水気を飛ばしてやったアイリをにらむ俺、タオルを巻いてリビングに顔を出したアリス。
それぞれが……。
「それに、ママもしてもらってるでしょ?
パパがいるとき、ママも髪の毛ふいてない!」
「「……」」
叱ろうと出しかけた声を、しかしアイリはそのまま狩り獲ってしまう。
……ほらな。
大人が想っている以上に、子供たちにはこの世界が見えている。
「……でも、ママは裸のままリビングに出てきたりはしないからな」
「す、するわけない!」
してやったりと唇をつり上げそうなアイリの頬を挟む向こうでは、きまり悪そうなアリスの顔が脱衣所へ引っ込んでいった。
「「……っ、……、……、……」」
息を整えながら、俺とアリスはゆっくりと体の力を抜いた。
必然、俺の上半身分の体重をアリスに浴びせてしまうわけだが、本人いわく「それがいい」らしいので俺も素直に甘えることにしている。
……とはいっても、せいぜい数十秒だが。
互いの汗と鼓動、体温。
腕に力を入れ、ジットリしたそれらの密着をやめると、できた隙間に寂しい涼しさを感じる。
アリスも同じだったようで、すぐに伸ばした腕が捕まえるのは俺の後頭部。
引き戻される力に逆らわず、再び唇同士を密着させる。
「……」
「……んぁっ」
舌と舌を絡ませる、静かでゆっくりとした、しかし激しいキス。
アイリがいる前の「パパとママ」ではない、アイリを自分の部屋で寝かしつけた後の「ソーマとアリス」のキス。
左手で腰に絡みついたままのアリスの足を膝から腿、腰から腋へと撫でると、触れている舌が激しくはねる。
髪をグシャグシャと混ぜる掌は、熱い。
俺とアリスの夫婦生活は、意外なことにアイリが生まれた後の今、最高潮を迎えていた。
おそらく、心理的な緊張が一切なくなったからではないかと思う。
今になって思えば……出逢ったばかりの頃は、お互いに必死だった。
ようやく得られた自分の半身を溺れさせようと、繋ぎ止めようと、失わないように必死だった。
結婚してからしばらくして、今度はそれが子供ができないことへの必死さに変わった。
……いや、あれはもう悲壮だったとも言える。
あの頃に俺たちがやっていたのは、紛れもなく単なる生殖行為だった。
が、アイリが生まれたことで、それらは全て過去のものとなった。
今、俺とアリスの間にあるものは純粋に愛しかない。
他のあらゆるものから得られるそれとは一線を画す、癒やしと安らぎ。
心地よさと、楽しさ。
全てを解き放ち、満たされる。
ただお互いを求め合い、与え合うという幸福。
「……どうしたの?」
顔を上げてそんなことを思っていた俺に、下からアリスが声をかけた。
ベッドの上に広がる瑠璃色がかった銀髪に、かつてと比べればやわらかくなった表情。
が、俺を見つめるのはあの夜から変わらず美しい瞳。
深い、深い森の奥の、優しい大樹の葉のような色。
怜悧に澄んだ、エメラルドの色。
「やっぱり、綺麗だな」
「っ」
留める気もなかった無意識は、不純物がなかったからこそアリスに刺さったらしい。
頬を赤くしたまま逃げようとした緑色の視線を、俺は追いかける。
「今更、照れなくても」
「今更だから……、……あっ」
横顔、一際赤くなっている耳にキス。
表情や首に回された腕、圧力の緩んだ足からアリスの同意を読み取った俺は、自分の姿勢を調整し…………、…………!
「!!」
……たところで、【水覚】で動きを感知したその方向へ首を向けた。
……。
……。
……。
…………ダメか。
「……!」
緊張した面持ちのアリスに苦笑いを見せると、その瞳には焦りが満ちる。
まぁ……、こればかりは仕方がない。
俺はただちに全身を【精霊化】し、汗やら何やらを含めた体の一切合切をリセットする。
ベッドから降り、バトルドレスの横に散らばっている黒いパンツとコロモを着用。
帯を締めつつ寝室のドアへと向かい、ゲホッとわざと大きく咳払いする。
そのまま廊下に出てドアを閉め、視線は左へ。
「……どうした、アイリ?」
「おしっこ……」
廊下の奥、ゆっくり開いた自室のドアから現れるのは、半分脱げかけたピンクのコロモを引きずるアイリだ。
目をこすりながらも、廊下で待つ俺を見つけてその表情には安堵が浮かんでいた。
「よし、えらいな」
「うん」
差し出された小さな手を握り、俺とアイリは一路玄関へと向かう。
外にあるトイレに夜行くときは、パパかママを起こすこと。
その言いつけを守れていることとおねしょの前に起きられたことを褒めながら、リビングに置いてある月光石をアイリに持たせる。
コロモを直し、サンダルを履かせ……外へ。
一方、その頃【水覚】で知覚する寝室の中では、俺が生成しておいたお湯の中でアリスが名人芸ともいえるような速度でのシャワーを始めていた。
4年前に冒険者を引退したとは思えない身のこなしでの、全身の洗浄。
壁を隔てて外にいるとはいえ、音がほとんど聞こえないところが凄まじい。
「コロモ汚さないように、ちゃんと持つんだぞ」
「わかってるー」
トイレでアイリがゴソゴソとコロモをたくし上げている時点で、アリスは入浴を完了。
俺が水気を飛ばすと同時に、当の本人は全裸のままバトルドレスと高級下着、アリスが体を洗っている間にベッドごと洗濯しておいたそれらをクローゼットに収納する。
先日のようなことがないよう、高級下着ボックスの鍵はしっかりと施錠。
その後は急いで普通の下着を身につけ、コロモに袖を通していく。
我が妻ながら、本当に信じられないスピードでの早着替えだ。
「終わったか?
拭くときは……」
「前から後ろー」
「よろしい」
再びゴソゴソという音が聞こえた後、樽から汲んだ水を便器に流し込む音が聞こえた。
スッキリした笑顔で出てきたアイリの頭を撫でた後、水浸しの両手を乾燥させてやる。
一方のアリスは、音を立てないよう慎重に寝室の窓を開けたところだ。
流れ込んでくる森と水の匂いが部屋の中の空気を追い出していくのを感じながら、本人はベッドメイクに取りかかっている。
【水覚】で白黒が反転した世界の中、ものの5分程度で全ての痕跡を消し去ったその手腕は、まるでミステリー映画の一幕を目にしているようでもあった。
が、残念ながら、このコンビネーションを人前で自慢する機会は永遠に訪れないだろう。
……というか、訪れたら困る。
整えたベッドに横たわり適当に寝返りを打ってシーツにしわを作るアリスを確認しながら、俺は台所でアイリに水を飲ませる。
起きてきた口実として俺自身も水を飲んだ後、再びアイリの手を握って廊下に向かった。
「……いっしょに寝ていい?」
「いいぞ」
ただ、アイリからこう言われることがわかっていたので、最初からアリスが寝たふりをしている寝室の前で足は止めている。
目が冴えてしまった夜中に、もう一度自分だけで部屋に戻るのは怖い。
その感情はアイリの表情を見るまでもなく共感できるので、俺はまるで今掃除が終わったかのように清められた寝室へとアイリを招いた。
ベッドで寝ているアリスを目にしたアイリは俺を手から離れ、すぐにその隣に潜り込む。
「……ちゃんと、トイレで起きられたの?」
「うん!」
「そう、流石アイリ」
ちゃんと眠そうな声で褒めるアリスに褒められ嬉しそうなアイリの隣に、俺も体を横たえた。
アリスに胸をトン、トンと叩かれ、それを見守る俺の隣で、アイリの瞼はゆっくりと下がっていく。
その表情は……とても、幸せそうだ。
「おやすみ、アイリ」
「おやすみなさい」
俺、アリスの順に小さな額へキスを落とし、最後に無言でアリスと微笑み合う。
……そうだな。
今日も、いい1日だった。
あたたかさの中で目を閉じると、意識は黒の中。
やわらかく、解けていった。
『カラアゲのうた』
さくし、さっきょく、うた…アイリ=カンナルコ
イェイ!…ママ
カラアゲづくり…パパ
カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
パーパの作る、カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
マーマも大好き、カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
いっぱい食べたい、カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
世界をすっくう、カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
カッラアゲッ「イェイ!」
ニッワトリも、しっわわせ「イェイ!」
※いこう、カラアゲができるまでくりかえし
(うたは全体的に「かれん」に、そして「てんしらんらん」に)
(おどるのは、しかられない程度に)




