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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
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岡本千夏(7)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。部の面々を率いて、文化祭でも頑張っている。

・那智しずる:二年生、文芸部所属。一人称は「あたし」。学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。舞衣の策略で、写真集のメインモデルをやらされた。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。一年生。一人称は「あっし」。ショートボブで身長138cm、幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。文化祭でも、文集としずるで一儲けしようと企んでいる。今回は、「語り」を担当。


・水島由紀:文芸部のOGで、大学一年生。大学では、ミステリー研究会に所属。その名推理で、しずるの秘密に気がついている様子だが……。














 文化祭の当日、さすがに午前中は客足は少なかった。午後までの残りの数十分は、あっしと千夏(ちなつ)部長、それと部のOGである水島(みずしま)由紀(ゆき)先輩の三人で店番をしていた。

 それでも、十数人ほどの人がやってきて、文集や写真集を買っていってくれた。飛ぶようにとはいかないが、ちゃんと実績は出ている。まぁ、今はそれでよしとしよう。本番は午後だ。


 などと、あっしが販売戦略を考えているうちに、お昼になったらしい。廊下の向こうに、こちらに駆けてくるしずる先輩の姿が見えた。

「ふぅ。ごめんなさい、千夏(ちなつ)。来るのが遅くなっちゃって。午前中は大丈夫だった?」

「うん。お客さん、あんまり来なかったし。しずるちゃんこそ大丈夫? 色々と、いじられてたようだけど」

 部長がしずる先輩にこう訊くと、先輩は蒼い顔をして言葉を継いだ。

「もぉ〜たぁ~いへん。三十分おきに着替えさせられるんですもの。しかも、フリフリだったり、肌が露出するのだったりと、恥ずかしい衣装ばっかり。あんなの、もう二度と出来ないわ」

 そう言えば、先輩は、校則では禁止されているはずの華やかな大きなリボンで、長い髪をポニーテールに結いあげてあった。

「先輩、そのリボン、超かわいいっすね。すっごく似あってるっすよ」

 あっしが褒めると、しずる先輩はちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめながら、

「ええっと、これ? 着替えるだけで手一杯になっちゃって、そのまま来たの。……変じゃないかしら」

「変じゃないよ。しずるちゃん、すんごく似あってる。とってもカワイイよ」

「そうそう。とってもかわいいっすよ」

「そ、そうかしら。なら、いいんだけど」

 あっし達から褒められたしずる先輩は、まんざらでもないという雰囲気で、頭のリボンをちょんちょんと触っていた。

 その時、別の方角から声がかかった。

「やぁ、君が噂の那智(なち)しずるさんかい?」

「あ、はい。そうですけれど。あなたは……」

「ああ、しずるちゃん。この人は水島由紀さん。文芸部のOGだよ」

「そういう事さ。那智さんの文、読ませてもらったよ。なかなか良い短編だったよ」

 水島先輩にこう言われて、しずる先輩は少し顔を赤らめると、

「ありがとうございます」

 と、返事をした。

「いやぁ、写真集も見せてもらったけど、実物の方が美人だねぇ」

「水島先輩は、大学ではミステリー研究会に入ってるんだって」

「そうそう。だから今日は、那智さんの事を、色々と調査しちゃうぞ」

 と先輩は、両手をワキワキさせながら、しずる先輩に迫っていた。

「な、何ですか。調べたって、何にも出てきませんよ」

 しずる先輩は、そう言いながらも、迫ってくる水島先輩から後退っていた。

「なぁ~んてね。冗談よ、冗談」

 と、水島先輩は、そう言って笑っていた。


 さぁて、午後からはこっちが本番だ。まずは、しずる先輩の衣装っすね。

「しずる先輩、こっちでも衣装を用意したっす。是非とも着替えて接客して欲しいっす」

 しかし、あっしの申し出にしずる先輩は、

「無理」

 の一言で拒絶した。

「即答っすか。クラスでは、色々と着てたんでしょう。もう一回くらい、いいじゃないっすか」

「無理無理、無理。もう勘弁して。このままでも、いいでしょう」

 しずる先輩は両腕で肩を抱くと、そのまま、部長の背中の後ろへと逃げてしまった。

「舞衣ちゃん。クラスではいっぱいやったから、文芸部では、コスプレはやらなくていんじゃないかな」

 部長もそう言って、しずる先輩を擁護した。


(うー、確かに制服にリボンでも可愛いんだけどさ。ここはズバッとキラキラした服で決めて欲しいのだよ)


「しずる先輩、そんな事言わずに。大ちゃんが精魂込めて作ってくれたんすよ。部長だって着たいっすよねっ」

 その言葉に、部長はちょっとほだされたのか、

「大ちゃんの作った服かぁ。いいなぁ、しずるちゃんは」

 と、顔を赤らめながら、呟いた。よし、もうひと押しだ。

「ほらほら、こんなにカワイイんすよ。見て下さい」

 あっしは、そう言いながら部屋の隅に置いてあった紙袋から衣装を取り出すと、広げて先輩方に見せた。

「あれ? 何か普通に学校の制服じゃないの」

 という部長の反応に、しずる先輩も、

「あら、ほんと。ちょっとリボンとかが華やかだけど……、普通に制服ね」

 あっしは、心の中で「ニヤリ」と笑いながら、ここぞとばかりに攻勢に出た。

「これは、有名な某ロールプレイングゲームの主人公達が通う学校の制服なのです。初心者のコスプレイヤーにも知られる、有名なコスなのでさぁ」

 と、あっしがそう言う横では、水島先輩が笑いをこらえる為に、お腹を押さえていた。さては、元ネタ(・・・)を知ってるな。こりゃ、ばれないうちに着せちまわないと。

「ほらほら、部長の分もあるんすよ。しずる先輩とお揃い。お揃いですよ」

 あっしの申し出に、二人共考え始めた。よっしゃぁ、あとひと押し。

「舞衣ちゃんのは無いの?」

 部長が、何の気なしに訊いてきた。


(くっ、そうきたか。仕方がないっす。ここは一蓮托生って事ですかい)


「も、もも、勿論っす。ほらほら、これがあっしの分。カワイイっしょ」

 あっしは、まさかの時を考えて作ってあった自分用の制服を引っ張り出すと、部長達に披露した。

「ほんとだ。舞衣ちゃんのもカワイイ。ねぇ、しずるちゃん。こんな衣装なら着ちゃおっか」

 部長の言に、しずる先輩も少し興味が出てきたようだ。渡された衣装を手にとって、身体にあてがったりしている。クククク、もう少しだぢぇ。

「んーと……、これなら、着てみてもいかな。さすがは大ちゃん。いい仕事してるね」

「そうねぇ……。千夏がいいって言うなら、あたしも着てみようかな。クラスで着せられた衣装よりも、露出は少ないし」

「そうそう、そうっす。じゃぁ、あっし達はちょっと裏で着替えてきますんで。すんませんが水島先輩、店番をお願いしてもよろしいっすか?」

 あっしが、気軽にそう頼むと、

「舞衣ちゃん、それはちょっと図々しいよ。先輩はお客さんなんだよ」

 と、部長から叱られてしまった。そこへ、

「私でいいんなら、店番くらい任せて。これでも、過去三年間の経験があるからね」

「でも、それじゃぁ……」

「だぁーいじょうぶ、千夏っちゃん。気にしないで着替えておいで。きっとよく似合うよぉ」

 と、水島先輩は、ニヤニヤしながら了承してくれた。

「じゃぁ、すいません。わたし達、裏で着替えてきます。申し訳ありませんが、後をよろしくお願いします」

 と、店番を先輩に頼んで、あっし等は裏で着替えることになった。



「ほぅ、よく似合ってるじゃん」

 これが、あっし等の衣裳(コスチューム)に対する、水島先輩の第一声だった。

「ほんとですか? わたし、こんな短いスカート、初めてです。おかしくないですか?」

 部長は、あっしや水島先輩の前で、くるりと一回転して見せた。

「本当だよ、千夏(ちな)っちゃん。これで、あんた達も『セントロイヤル女学院』の生徒だね」

 先輩は、遂に元ネタ(・・・)をバラしてしまった。でも、部長もしずる先輩の、「何のことやら分からない」って顔をしていた。


「な、何ですか? その、せ、せ、せんと、何とかって」

「知らないんすか、部長? これは、今大流行している恋愛ゲームの舞台になってる学校の制服なんすよ。女子校の先生になって、生徒と仲良くなる。そして、あんなことや、こんなことや、とってもエッチな事をするのでぇーす」

「そうそう、その清純な制服を汗と涙と××で、汚していくところが萌えるんだよ」

「そうっす、部長。興奮するっす。萌えるっす」


 あっしと水島先輩が、そうやってゲームの事を教えると、部長もしずる先輩も、途端に真っ赤になった。

「そ、そ、そ、それって、エロゲーじゃないのよ。知ってて、あたし達にコスプレをさせたの!」

「舞衣ちゃん、エロゲの衣装なんて、わたし恥ずかしいよ。学校の制服に着替えちゃダメ?」


 事情を知って、二人共、難色を示し始めた。でも、そうは問屋が卸さない。


「ダメっす。ほらほら、お客さんも集まってきたし」

 あっしが、外を指差すと、廊下にはもう数人の男子が集まっていた。

「あっ、しずる先輩がいるぞ」

「ホントだ。しかも、あの制服は……、セントロイヤル女学院だ!」

「おお、すっげぇ可愛い。先輩、こっち向いて下さい」


(フヒヒヒ。やはり、このコスで大正解っす。うまい具合に、人が集まってきましたぜ。今こそ売り込みのチャンスっす)


「ちょいとお待ち。このしずる先輩の小説が掲載されている文集と、お宝写真の載っている写真集をセットで買ってくれた人には、漏れなく、しずる先輩とのツーショットをプレゼント! そこの兄ちゃん、どうだいどうだい」

 あっしがそう言うと、更に人が集まってきた。

「よし。俺、セットで買うぞ」

「俺もだ」

「あたしにも売って」

「はいはーい。いらはい、いらはい。二冊セットね。はい、毎度あり。はいどうも。……ほらほら、しずる先輩、スマイルスマイル」

「え? あっ、はい。文集と写真集ね。どうもありがとう」

 と、しずる先輩も、いつしか営業モードになって、笑顔を振りまいていた。これで、大儲け間違いなし。グフフフフ。



 そして、夕方。

「カッカッカ。見事に売り切れっす。大成功っす。やっぱ、しずる先輩は偉大っす」

 予想以上の売上を前に、あっしは高笑いをしていた。

「つ、疲れたぁ……。顔が引きつって、……愛想笑いが直らないわ。千夏、あたし、もうダメかも」

「わたしだって、フラフラだよぉ、しずるちゃん」

 あっしは、儲けを勘定しながら、薄ら笑いを浮かべていた。


(この調子なら、明日は、もっと攻められるっすね。写真集の方は、写真部の在庫を少しばかりかっぱらって来るからいいとして……。問題は、文集の方っすね)


「先輩達、この調子で明日も頑張るっすよ。文集は、今日のうちに、プリンタで大増刷っす。あっはっはぁ、もう、笑いが止まらないっす」

 そんなあっしの言葉に、部長達は気怠い声で返してきた。


「えー、舞衣ちゃん。明日もこれするのぉ」

「あたし、もーダメ。お願い、もー許して」


「ダメっす。文芸部の未来のために頑張るっす。これぞ青春っす」


 情け容赦のないあっしの言葉に、しずる先輩も部長も、床にへたり込んでいた。

 しっかし、今日は充実していたなぁ。やっぱ、文化祭は最高っすね。




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