岡本千夏（３）

　へい、毎度お馴染みの舞衣(まい)ちゃんっす。

　さて、岡本(おかもと)千夏(ちなつ)篇も、もう三話っすか。この辺で、何か変化が欲しいっすねぇ。単調だと、やっぱ飽きられちまいますから。

　て言うことで、火のないところに焚き火をしましょう。炎上、炎上、楽しいな。

　前回は、しずる先輩の秘密も握ったし、ここらで煽りに入りますか。読者の皆さんも、期待してるっしょ。

　って事で、三話目の始まり始まり。

　とは言うものの、今日も平和で呑気な文芸部。放課後も、図書準備室でまったりチータイムっす。おまけに、顧問の藤岡(ふじおか)先生も一緒なんて。気ぃ抜けるっすねぇ。しずる先輩は、相変わらずノートパソコンに向かって、＜ダダダダダ＞とキーを打ってるし、部長は部長で大ちゃんの隣で顔を赤らめている始末っす。

　もう、夏の盛りも過ぎて、そろそろ秋かなってところで、未だ春を満喫している人ばっかだ。あっしも、カッコイイ彼氏が欲しいなっと。

　とか何とか考えながら、部長の淹れてくれた紅茶をすする舞衣ちゃんでした。

（おっ、美味い。さすが部長。やっぱりダージリンかな？）

　そんなところに、美久(みく)ちゃんが話を切り出したっす。

「藤岡先生、最近ご機嫌ですよねぇ。部室にも、よく来ますしぃ」

　すると先生は、

「えっ？　分かるぅ。ははは、今度の彼氏にさぁ、週末に映画に誘ってもらっちゃってさぁ。何着ていこうか、今から迷ってるとこなのよぉ」

　て応えると、今度は久美(くみ)ちゃんが質問した。

「ええ！　先生、彼氏出来たんですかぁ。良いなぁ。今度、紹介して下さいませぇ」

「そうねぇ……、今年の文化祭に呼んじゃおうかな」

「良いですわねぇ。是非、呼んじゃって下さいな」

「下さいな」

　西条(さいじょう)姉妹の声が重なった。

「とーりーあーえーず、予定ね、予定」

「じゃ、わたしは、美味しいお茶を用意しますね」

　と、部長が言うと、

「ありがとね、千夏っちゃん。私も美味しいお茶の淹れ方、教えて貰おっかなぁ」

　と、藤岡先生もニコニコ笑って、応えていた。

「ところで千夏っちゃん、文集の準備は出来てる？　この部の一番のイベントだからねぇ」

　と先生が言うと、部長は、

「ダイジョブですよ。今年はしずるちゃんもいるし。一年生だって、頑張ってるよね」

　と返事をした。そして、あっし達をニッコリと見つめたのだ。見つめたのだ……が、

「…………」

「あ、あれ？　何で、返事が無いのかな？　ダイジョブだよね。ね」

　と言って、もう一度、あっし達を見つめ直したのだ。

「い、いやぁ。ちょっとぉ、自信が無いかなぁ……と」

「わ、私達も、ちょっとぉ」

「ちょっとぉ」

　返事を聞いた部長は、顔色を変えると、

「え？　え？　ええ？　何で？　舞衣ちゃんも、久美ちゃんも、美久ちゃんも、ダイジョブだよね」

　なおも、重ねて訊く部長だったが、

「だって、この前の写真集に載せたエッセイだって、しずる先輩のに比べたら全然ダサくって。あっし、恥ずかしくなったっす。もう一回なんて、無理っす」

『私達もですぅ』

　あっし達が縮こまって俯くと、軽快な笑いがそれを吹き飛ばした。

「アッハッハッハ。毎年この時期は、変わんないねぇ。去年の千夏っちゃんみたいだよ」

　藤岡先生である。

「先生、そんな恥しい事、バラさないで下さい」

　部長が反論すると、

「いいじゃん、それくらい。毎年、一年生部員はそう言うんだよ。だぁーいじょうぶ。案ずるより産むが易し。清水の舞台から飛び降りる気でやってみたら。私は、写真集に載せた文は、いい線いってると思ったけどね。ね、しずるちゃん」

　藤岡先生に訊かれて、しずる先輩はキーを打つ手を一旦止めると、

「そうですねぇ……、初めてにしては、よくまとまっていると思いました。技術的には、もう少しですが。でも、あたしは、心情がストレートに文章に入っているところに、好感が持てましたけれど」

　と、そう応えたのだった。

「ほぅら、本職(・・)もそう言ってるんだから間違いなし。自信持っていいよ、あんた達」

　藤岡先生はそう言ったものの、あっしには自信が無かった。夏休みの宿題の『読書感想文』すら、まともに書けないのだから。

「形式なんて気にしないで、何でも書いて良いんだよ。お薦めの本の紹介とか、好きな作家さんの話でもいいよぉ」

　あっし達が行き詰まってるのを見て、部長が助け船を出してくれた。

「でも、しずる先輩の書いた物を読んだ後じゃぁ、気が引けちゃうっす。先輩のは、まるでプロの作家さんみたいに上手で、ぐいぐい引き込まれちゃうっす。あっしのお気に入りの『清水なちる』先生に似た調子の語り口調も絶妙で、どうしたらこんな風に書けるのか、不思議なくらいっす」

　と、あっしが言うと、何故かしずる先輩と部長は引きつった笑いを浮かべていた。そして、そんな二人を藤岡先生はニヤニヤしながら眺めていたのだ。

「べ、別に、あたしそっくりに書かなくて、いいんじゃないのかな。テストの文章問題じゃ無いんだから、もっと気楽に考えて書いてみたらどうかしら。それで、テクニック的なところは、あたしと千夏とでサポートするから」

　と、しずる先輩はアドバイスしてくれた。

　千夏部長も、

「まずは簡単なあらすじを作ってみて、それを広げていっても良いんじゃないかな。わたし達も手伝うから」

　と、言ってくれた。

「そうですかぁ。なら、もうちょっとだけ頑張ってみましょうか。ねぇ、美久」

「そうですわね、久美。頑張ってみましょうか」

　西条姉妹の方は、書くことで同意したようだった。なら、あっしも頑張るかぁ。

「それじゃぁ、あっしも、もうちょっと頑張ってみるっす」

「そだよ、その意気だよ、舞衣ちゃん」

　部長は、あっし達がヤル気に傾きかけたので、ホッとしたようだった。

「ねぇ、しずるちゃん。『初心者にでも出来る小説の書き方』なんて、ある？」

　先生がしずる先輩に訊いた。うん、そんなのがあれば、積極的に使っちゃうぞ。

　しずる先輩は、少し頭をひねると、

「そうね、あたしが時々使うのは、カードかな。適当な大きさの紙に、思いついた事を書きつけていくの。それで、何枚かたまったら、メモを並べてお話が作れるかどうかを考えるのね。メモの順番を置き換えたり、更にメモを追加したりしているうちに、面白そうなプロットが出来るときがあるわよ。メモに書く事は、本当に何でも良いの。『主人公　里見大作』とか、『岡本部長を好きになる』とか。設定とか、エピソードなんかでも良いのよ」

　へぇー、そんなやり方もあるんすねぇ。

「何か、ＴＲＰＧみたいで面白そうっすね。やってみようかな」

『私達もやってみたいですぅ』

　うむうむ、何かヤル気が出てきたぞ。さっすが、しずる先輩。上手い事言ってくれる。

「そうそう、まだ若いんだから。チャレンジよ、チャレンジ。ガンバレ」

「先生もありがとうございます。じゃぁ、皆、頑張って書くって事でい？」

「オッケイっす」

『頑張りますわぁ』

　と言う事で、あっし達は文集作成に向けて、スタートを切ったのだった。