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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
38/66

花澤彩和(2)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。お茶を淹れる腕は一級品。写真部との共同企画を進めている。

・那智しずる:文芸部所属。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマーク。その外見と舞衣の策略で、学校のアイドルに祭り上げられている。実は「清水なちる」のペンネームの新進気鋭の小説家。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。一年生。一人称は「あっし」。ショートボブで、身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。しずるを主役にした写真集で大儲けをしようと企んでいる。

・里見大作:大ちゃん。千夏の彼氏。一人称は「僕」。二メートルを超す巨漢だが、根は優しい。のほほんとした話し方ののんびり屋さん。その見栄えに反して手先が器用で、多彩な技能を隠し持っている。

・西条久美:久美ちゃん。一年生、双子の姉。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。大ちゃんに告白したが振られてしまった過去がある。

・西条美久:美久ちゃん。一年生、双子の妹。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。どちらかというと、積極的。

   彼女達二人は、髪型を別方向のサイドテールにしているが、ほとんどの人は見分けられない。二人共オシャレや星占いが好き。曲者ばかりの部に於いては、一般人の代表格と言える。


花澤彩和:写真部の副部長兼スタイリスト。スレンダーなボディーで漢前なお姐さん。写真部部長とは、浅からぬ縁があるらしい……のだが。





 花澤(はなざわ)先輩は三年生。写真部の副部長兼スタイリストだ。ショートカットにスレンダーなボディー。性格も漢前なため、部内でも外でも結構人気がある。外見はしずるちゃんと対照的だが、男女問わず人気があるところは、良く似ている。三年生なら、そろそろ部活は引退して、受験勉強に入るはずだけれど。


 わたしは、テーブルの端でティーカップを持ち上げている花澤先輩が気になっていた。

「花澤先輩は、受験勉強とかはダイジョブなんですか?」

 と、わたしは写真集のチェックの合間にそう訊いた。先輩は、頭を掻きながら、

「私は、私立の女子大に推薦がほぼ確定しているから、安全圏なんだ。まぁ、うちの部長は芸術家肌だから、今から技術を磨いとこうって、名門の芸大目指してるけどね」

 と、はにかみながらそう言った。

「推薦が決まってるなら、安心ですね」

 そう言うわたしに、彼女は、

「外ではあんまり大きな声で言わないでね。今は、難関校目指して勉強真っ盛りの人達が居るからさぁ。私が推薦ほぼ内定って事でうろうろしてると、妬みやっかみもあるからね」

 さすがは花澤先輩、気遣いを知っている。

「分かりました。皆も内緒ね。分かった?」

『はーい』

 と、文芸部の皆も協力してくれた。


「受験かぁ。あたし、来年はどうしようかなぁ」

 珍しく、しずるちゃんが弱気な事を言っていた。

「しずる先輩なら、東京の有名所の大学へ行って、読モなんかで生きて行けるんじゃないっすか」

 ああ、舞衣ちゃんがまた余計なことを。でも、しずるちゃんは今でも立派な小説家さんだから、将来はきっと困らないだろうなぁ、って思ってしまう。しずるちゃんにとって、大学って腰掛け程度なのかも知れないな。

 などと、わたしが勝手に推測していると、西条(さいじょう)姉妹から歓声が上がった。

「しずる先輩! こんな写真なんか載っけといて良いのですかぁ!」

 そう言われて、しずるちゃんは席を立つと、美久ちゃんの後ろに回った。

「ああ、これねぇ。気づいてはいたんだけど……。この際しょうがないから。もう、諦めの境地よ」

 と、眉根を指で摘みながら応えた。

「どれどれ、どの写真かな」

 と、写真部の花澤先輩も久美ちゃんの肩越しに、冊子を覗き込んだ。

「ああ、これねぇ。ゴメンねぇ、しずるさん。例のパンチラの連続写真でしょう。「どうしても載せろ」って、うるさくてねぇ。私も、それは可哀想と思って抵抗はしたんだけどねぇ」

 と、先輩が言うのを聞いて、わたしは思い出した。中庭で撮った時に、強い風が吹くというアクシデントがあったっけ。

「でもさぁ、私はしずるさんの正直な表情が出ていて、バストカットなら良い写真だと思うけどねぇ」

 と、先輩は続けた。

「どう言う意味ですか?」

 と、しずるちゃんが、少しキツイ言い方で先輩に訊いた。

「いやぁ、ねぇ。アングルってゆーのを通して見ていると、何かその人の本性ってものが見える気がしてくんのよ。しずるさんってさぁ、普段から、なんか無理してるんじゃないかって。なんか、そう思っちゃったんだわね」

「あたし、無理なんかしてません」

 しずるちゃんは、仏頂面で、そう花澤先輩に言い返した。

「ん? そっか。それならいいんだけど。そろそろ、チェック終わったかしら。それじゃぁ、お邪魔したわね。本刷りがあがったら、サンプル持ってくるね。お茶ご馳走様。じゃぁね」

 と言って、彼女は去って行った。


「慌ただしい人ね」

 と、しずるちゃんは一言呟くと、自分の席に戻って、またパソコンを打ち始めた。

 私は、ティーカップを片付けながら、

「なんやかんやで、大変だったけど、終わってみたらいい思い出だね、写真集。わたしは、結構面白かったかなぁ」

 と、お気楽な事を言ってしまった。

「まぁ、アンタ達はね。あたしには、いい迷惑だったわ。ホント、もう、これっきりにして欲しいものよ」

 と、しずるちゃんが、頬杖をつきながら愚痴をこぼした。これも、結構珍しい事だ。

「まぁまぁ、しずる先輩。綺麗に撮れているのですからぁ、いいじゃありませんかぁ」

「そうですよぉ。私も、しずる先輩みたいに美人だったらいいなぁって、思っちゃいますわよぉ」

 美久ちゃんや久美ちゃんが、そうやってフォローしてくれた。

「まぁねぇ。……今回は皆で撮ったから、『いい思い出』って事にしとくかぁ。ああ、なんか、やっと開放されたって感じ。おすましばっかりじゃぁ、肩が凝るわねぇ」

「しずるちゃん、それを無理してたって言うんじゃないの? 花澤先輩は、そう言うのを心配してくれたんだよ、きっと」

「え? まぁ、そうかも知れないわね、千夏」

 しずるちゃんは、そう言って「ふぅ」と溜息を吐くと、お茶を一口すすった。そんなしずるちゃんを、わたしはニヤニヤしながら見つめていた。

「どうしたの、千夏。何をニヤけているの?」

 しずるちゃんが、いつも通りにキッとした眼差しでわたしを睨め付けた。

「ううん。何でもな〜い。しずるちゃん、お茶美味し?」

「ええ、美味しいわ。いつもご馳走様」

 と言うしずるちゃんを、わたしは未だヘラヘラしながら眺めていたのだった。


 わたしは、しばらくそんなしずるちゃんを眺めていたのだが、大ちゃんの手元を見て、カップが空になったのに気が付いた。

「大ちゃん、お茶、お代わりする?」

 と、わたしが訊くと、

「え? ああ、お願いするんだなぁ、千夏先輩」

 と、低い声が返ってきた。

「じゃぁ、淹れてくるから待っててね」

 と言って、わたしは二杯目を淹れるために席を立った。

 しばらくして、大ちゃんの所にお茶を注ぎに行くと、彼は、スケッチブックを置いて大きな伸びをしているところだった。

「お待ちどう様。あ、大ちゃん、美術の課題、完成した?」

「うん。やっと仕上がったんだなぁー」

 と、返事をする大ちゃんに、わたしはお茶のお代わりを注いでいた。

「あっと、千夏先輩、ありがとうなんだなぁ」

 と、大ちゃんはそう言いながら、スケッチブックの一角を指差すような動作をした。


(なんだろう)


 そう思って示されたところを見ると、そこには大ちゃんのメッセージが、誰にも見られないように書いてあった。


『明日の夕方、一緒に天体観測をしませんか?』


 スケッチブックにはそう書いてあった。

 そう言えば、大ちゃんは地学の天体観測が未だ終わってないって言ってたなぁ。でも、これって、二人だけで観測しよって事だよねぇ。暗い所に二人っきりって……どしよう。

 わたしが決断できずにいると、大ちゃんは、ちょっとしょんぼりして、

「先輩がイヤなら、仕方が無いんだなぁ」

 と、小声で呟くと、さっきの文字を消そうとした。

「あ、ダイジョブ。ダイジョブだから。いいよ、大ちゃん」

 と言って、スケッチブックのメッセージのところを囲むように、指で丸くなぞった。そして、大ちゃんの耳元で、小さな声で、

{詳しくは携帯でね}

 と、誰にも聞こえないように言うと、彼の隣に座った。

「なぁに、ヒソヒソ話? デートの計画でもしてるの?」

 と、しずるちゃんが、目聡くわたしの不審な行動を指摘してきた。

「そんなんじゃないよ。宿題の課題の話だから。何でもないよ」

 と、わたしは、少し動揺しながら返事をした。

 そんな私達の事を見抜いているのかどうか、丸淵の眼鏡の奥の目は、いつも通り鋭かった。




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