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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
31/66

藤岡淑子(3)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。一つ下の大ちゃんが彼氏。今回は、文芸部の合宿で熱海に来ている。

・那智しずる:文芸部所属。一人称は「あたし」。人嫌いで千夏以外の他人には素っ気ない。長身でスタイルも申し分のない美少女。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマーク。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部一年生。一人称は「あっし」。ショートボブで千夏以上に背が低く幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。その上、性格がオヤジ。

・里見大作:大ちゃん。千夏の彼氏。一人称は「僕」。二メートルを超す巨漢だが、根は優しい。のほほんとした話し方ののんびり屋さん。千夏には頭が上がらない。

・西条久美:久美ちゃん。一年生、双子の姉。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。大ちゃんに告白したが振られてしまった過去がある。

・西条美久:美久ちゃん。一年生、双子の妹。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。どちらかというと、姉よりもホンの少し積極的、かな?

   彼女達二人は、髪型をサイドテールにして違いを出してはいるが、ほとんどの人は見分けられない。二人共オシャレや星占いが好き。小さい頃からイジられてきたので、コスプレ写真の撮影も平気。


・藤岡淑子:国語教師で文芸部の顧問。喋らずにじっとしていさえすれば、超のつく美人。しずるの事情を知っている数少ない人物の一人。実はかなりの酒豪らしい。





 わたし達は、文芸部の合宿と称して、熱海にやって来ていた。


「あ〜、足湯最高! 何か生き返るわぁ」

 藤岡(ふじおか)先生は、ストッキングを脱いで、足湯を堪能していた。

「女の子は温度差に敏感ですからねぇ」

 と、久美(くみ)ちゃんが感想を述べた。

 そして、しずるちゃんは、眼鏡を外して拭いていた。

「しずるちゃん、どしたの?」

「え? ああ、湯気で曇っちゃって」

「ふぅん。しずるちゃんは、コンタクトとかにしないの?」

 彼女がトレードマークの丸渕眼鏡を外したところは、滅多に見ることが出来ない。

「コンタクトレンズを目の中に入れるのって……、何か気持ち的に怖くって。後、便利なように皆言うけど、洗浄とかこまめにしないといけないみたいだし……。いいのよ、あたしは。眼鏡キャラで通ってるから」

 と、しずるちゃんは、そんな風に応えた。

「眼鏡を外しても、しずるちゃんて凄い美人なのに。何か、勿体ないよ」

 わたしは、しずるちゃんにそう言った。

「ありがとう、千夏(ちなつ)。でも、これ以上、変な人気が上がっても鬱陶しいしねぇ」

 そんなものなのかなぁ。あ、そうだ、ここの足湯もレポートしなけりゃ。

美久(みく)ちゃん、足湯の看板の説明、メモ取っといて。レポートに載せるから。後、舞衣(まい)ちゃん、写真とかをお願いね」

「ガッテンです、千夏部長」

 よし、これでネタ(・・)一つ確保できたぞ。今回は旅行じゃなくって、合宿(・・)なんだからね。


「じゃぁ、そろそろ、次に行こっか」

 わたしは、少し移動しようかと、そう提案した。

「そうだねぇ。足湯で疲れもとれたし、行きましょうか」

 藤岡先生も賛同してくれた。

「先生、タオルどうぞぉ」

「おう、助かるよ。サンキュー」

 久美ちゃんが、先生にタオルを渡していた。

 さてぇー、次は、どこに行こっかな」?


「あ、部長、部長。温泉饅頭ですわよぉ。温泉饅頭」

「部長、温泉饅頭って、何で温泉饅頭って言うんでしょうかぁ? 温泉街で売ってるからですかぁ?」

 双子の西条(さいじょう)姉妹が、妙な所に引っかかってしまった。

「あぁっと、何でだろねぇ」

「温泉の蒸気で蒸して作るからよ」

 わたしの代わりに、しずるちゃんが答えてくれた。

「さすがは、しずる先輩ですぅ。何でもよく知ってるのですねぇ」

「私、お土産に買おっかなぁ」

 温泉饅頭は、なんだか西条姉妹に気に入られたようである。

「ちょっと待ってよ。これからあちこちを見学するんだから。お土産は、帰る時ね。それから、商店街なんかも見るんだから、大きな荷物なんかは駅のコインロッカーに預けておこ。荷物重いし、かさばるでしょう」

 わたしは、民宿に行くにはちょっと早い時間だったので、そう提案した。

「そうですわねぇ。二泊三日だと思って、荷物が思ったよりもかさばっちゃいましたぁ」

「あっしも、この辺を見て回るんなら、身軽な方が良いっす」

「よーし。じゃぁ、荷物は一旦預けるよ」

 それで、わたし達は、一旦駅に戻った。


 身軽になったわたし達は、駅前からアーケード街を見て回ることとした。

「おっ、地酒があるぅ。買っちゃおうかなぁ」

「先生、お酒なら民宿で頼めますよ。それでも欲しいんなら、帰る時に買いませんか。かさばりますし」

「そうだねぇ、しずるちゃん。さすがに、良く頭の回る()だねぇ。一晩付き合うかい? 結構呑めるんでしょう」

「お正月のお屠蘇(・・・)くらいです。まぁ、弱くはないですけれど。でも、学校の先生が言っていい話じゃありませんよ」

 しずるちゃんは、眼鏡の位置を整えると、鋭い視線とともにキツイ口調でそう言った。

「おやおや、叱られちゃった。まぁ、しょうがないわね。今夜も一人酒かぁ」

「先生、呑むのはいいですけれど、暴れないで下さいね。わたし達、二度と来れなくなっちゃいますから」

 と、わたしも先生に釘を刺しておいた。

「おっ、干物だ。干物っすよ、部長。さすが、海の街っすね」

「炙った干物で一杯、ってのも良いねぇ」

「先生、呑む話ばかりじゃないですか」

「いいじゃないの。プライベートな時くらい」

「いや、プライベートじゃないですから。先生は、部活の引率なんですよ」

「え? そうなの、千夏っちゃん。んー、まぁ、堅いこと言わないでさぁ」

「もう、相変わらず呑んべぇなんですから」

 顧問の先生とはいえ、わたしは去年の大惨事を覚えていたので、何とかセーブしてもらおうと苦言を呈した。

「だってさ、私だってお年頃なんだよ。千夏っちゃんはいいわよ、彼氏出来たし。あー、彼氏欲しい。いい人見つけて結婚したい」

 そう言われて、わたしはいつの間にか大ちゃんと手を繋いで歩いていた事に気が付いた。

「あっと、ごめん。歩くのに邪魔になってたかなぁ」

「いいんじゃないっすか。部長達もお年頃だし。ねぇ」

 舞衣ちゃんがそう言うと、文芸部の皆が、わたし達二人を生温かい目で見ている事に気が付いた。ちょ、ちょっと恥ずかしいかな。


 そうして、わたし達は、駅の近くを見て巡っていた。すると、

「ねぇ、千夏。お昼にはちょっと早いけれど、今のうちに、お昼ご飯とか食べておかない? 込み出す前に」

 しずるちゃんがそう言った。

「そだねぇ。今日は新幹線の時間に間に合わせようと、朝早かったもんね。皆はどう思う?」

「そうっすねぇ。あっし達はちょっと人数多めだから、混む前に席を陣取るのも、悪くないと思うっすよ」

「そうですわねぇ、部長。お昼、何にしますかぁ?」

「そりゃ、海の街ですのでぇ、海鮮ではないでしょうかぁ」

 美久(みく)ちゃん達は、海の幸をご所望のようだ。

「しずるちゃんも、海鮮でい?」

「あたしは、別に構わないわよ」

「いいねぇ。海の幸で一杯。これっきゃないっしょ」

 先生は、やっぱり先生だった。未だ、お昼前なのに。

「大ちゃんも、お昼は海鮮でい?」

「僕もそれでいいんだなぁー。でも、僕はたくさん食べるから、あんまり高いところは、予算的にちょっとダメかもなんだなぁー」

「何言ってんのさぁ、大ちゃん。折角の熱海なんだから、食も楽しまなくっちゃ。ねぇ、千夏っちゃん」

「そだよ、大ちゃん。あ、そだ。誰か、好き嫌いとか、アレルギーとかある人いたっけ。時々、カニとかがダメな人、いるよね」

「あたしは大丈夫よ」

『私達も大丈夫なのですぅ』

「あっしは、好き嫌いはないっすよ」

 部の皆は、海鮮も大丈夫のようだ。

「私もオーケイよ。ちょっとくらいダメでも、アルコール消毒するから」

 藤岡先生、絶対呑む気だ。暴走しないように、わたしが気をつけないと。


「えーと、……じゃ、あそこのお店にしよっか。ネットで見たら、お座敷席があるみたいだし」

『賛成』

 と言う事で、わたし達は、ちょっと早いお昼を摂ることにしたのだった。




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