第93話 エピローグ
あの後、エルデネサントの野でぶつかった両軍の間で停戦協定が結ばれた。元々既に一騎打ちで決着が付いていたのもあるが、あの騒動の後はあの膨れ上がった聖女の気に当てられたのか、まだ戦おうとする者は皆無だった。
期間は十年間。それくらいの方が両者ともちゃんと守るだろうとの事。
全権は、魔王軍が総司令官アドラブル
勇者軍は、副司令官タスク
締結後は、両首脳陣の間で軽く宴席が開かれた。勇者君はもちろん療養のため不参加だけど。
そして、その席で私はアドラブルさんに一つのお願い事をした。
「ほう?我が国に亡命したいと?」
「はい。このままでは勇者は帝国に戻っても敗戦の責任を取らされるだけでしょう。ましてや、勇者はあの杭を抜いた一連の影響で、勇者の力を喪失しています。帝国にとってもはや価値は無いに等しく、それなら最後の利用価値として敗戦の責任を全て押し付けるでしょう。そして、それは聖女の力を失ってまで勇者を助けた私も同様です。」
「別に勇者軍は負けた訳では無いと思うのだけれどな。まぁでもその主張は十分に理解できる。魔王様に許可をいただく必要があるが、まぁ受諾されると思っていて構わない。魔王軍は他民族国家だからな。それには人族も含まれるし、住み難くは無いだろう。私も知らない仲じゃないし、何かしらの要望があれば便宜も図ろう。」
「ありがとうございます。」
「その力を失ったとはいえ、勇者と聖女のネームバリューは強大すぎる。少なくとも帰国するまでは魔王軍で保護させてもらう形でいいかな?」
「はい、もちろんでございます。ただ、これに関してもう一つお願いがあります。対外的には私たちを魔王軍の捕虜として魔王国にお連れいただけませんでしょうか。」
「ほう、それはなぜだ?」
「勇者が一騎打ちで負けたのは周知の事実です。そこをこのようなほぼ対等な停戦条件ですと、あらぬ疑いをかけてくる者がいないとも限りません。私どもは亡命するのでそれでも構わないのですが、帝国に残すタスクやメルウェルやその他この大戦に参加した帝国兵の事を考えると、私たちは捕虜として魔王国に連行された事にする。責任を負うべき者はもう既に負っているという形にしたいのです。」
「なるほどな。特に我らに不利はないから、別に良いのではないか?以後、困ったことがあったらこちらのハキムに伝えると良い。」
「はい。この度は亡命を受け入れていただいてありがとうございました。」
そう言ってアドラブル様の元を辞すると、タスクとメルウェルの元に行く。
「よう。調子はどうだ?」
「うーん、聖女の力を失った違和感はあるけど、私はもうすっかり元気だよ。勇者は、勇者の力を失ったのでまだまだかかるでしょうけど。しかし、タスクには迷惑をかけるね。私たちの後始末を全部押し付けてしまうような形になるのだから。」
「はは、まぁいいさ。こんな事でも無ければこの若さで一軍の大将になどなれないだろうしな。この停戦十年の間に反乱を完全に鎮圧し、世界各国に侵攻中の他の魔王軍の軍団を全て撃破する。これが当面の目標だな。十年は少し厳しい気もするが、十年後までに終わらせていないと、あのオッサン停戦明けと同時に普通に攻め込んできそうだからな。…まぁそうやって発破かけてきたんだろうけどな。」
「これを機に魔王軍も中央集権化を進め、各地の軍団を完全に支配下に置きたいらしいですからね。そのためにもタスクには各地の魔王軍の軍団を撃破して弱体化させて欲しいと。」
「食えないオッサンだよなぁ。魔王軍の完全勝利のこの戦いを見た目上は引き分けにしてこちらに恩を売り、各地の魔王軍を撃破せざるを得ない帝国軍はそのために駆けずり回り、その果実の一番美味しいところはオッサンがいただいていくっていうんだからな。」
「ふふ…でもそのために各地の魔王軍の情報もある程度提供してくれるそうですよ。」
「けっ、ありがたいこって。しかし、長い戦いになるな。」
「メルウェルもいるですぅ!魔王軍なんてメルウェルの魔法でけちょんけちょんにしてやるですぅ!」
―――スパーン!
頬が腫れたままのメルウェルが考え無しにそんな発言をしたため、宴席会場がザワっとした。とりあえずタスクはメルウェルをハリセンで殴って、タスクは周囲にぺこぺこと頭を下げる。
「魔王軍との宴席で何て事を言うんだ、お前は。せめて、『各地の』魔王軍って『各地の』を付けろ!…はぁ。俺一人でメルウェルを御せるんだろうか。」
「ふふ、貴方なら上手くやれると思うわよ。」
「どうかなー。あんまり自信ないよ。」
タスクと別れると、宴席に長居する気になれなかった私はそのまま退席し、勇者が療養する天幕に入る。
そこでは勇者が脂汗を流しうなされながら寝ていた。
―――回復
すると、苦しそうに寝ていた勇者の顔が安らかになる。
聖女としての力は失われてしまったが、回復魔法は一応使えるのだ。その効果はだいぶ下がってしまったが。
魔王都で医者の真似事でもしていけば、勇者がたとえ今後身体に障害などが遺って普通に働けなかったとしても、私の稼ぎだけでも十分に食べていく事は出来るだろう。
その前にアドラブル様が私たちにいくつかして欲しい仕事もあるそうだが。
何だろう?あの方であればそんな無茶ぶりはしない気がする。
二十四本の杭を祓った今、マミアには二十四周回分の勇者の記憶がある。今周回を見ていて分かっているつもりだったが、勇者にはアドラブルとの間に憎しみという感情は無い。どちらかいえば畏敬の念、まさしくライバルといった感じだった。
その二人が手を携えて作る未来を見てみたいとマミアは思った。もちろん勇者のすぐ隣で。
以上で完結となります。お読みいただきありがとうございました。
次話ではあとがきとして制作秘話を書いていこうかと思ってます。
作者は当初こういう設定でこういう風に考えてたけど、結局はこうなったとかそういうの。全部書き終わってから考えるとここはこうするべきだったかその辺をつらつらと書いていこう思います。
興味ないーとか世界観壊れるからいらねーって人は飛ばして、今後はゆっくりと載せていきたいと思ってる後日談などを読んでください。現時点ではまだないですけどね。
アドラブルの物語のはずなのに最後しばらくアドラブル視点の話が無かったし、その辺も書きたいなぁ。
もしよろしければそちらもお楽しみにお待ちください。
新作おいておきます。『魔法学園デビュー~僕だって頑張れば彼女できるはず』
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