第90話 降伏とその代償
最終周回 エルデネサントの野 勇者
負けた…か。
最初からアドラブルとの一騎打ちなど、勝ち目が薄い事はわかってはいた。アドラブルが強いという事は身に染みて分かっている、彼とは凡そ二十回ほど戦っているのだから。惜しかった事が無かった訳ではないが、それはいずれも皆の助力あってこそだった。
首筋に当てられた奴の破軍刀を見、そしてその持ち主を見上げた。逆光になって奴の表情まではよく見えなかったが、悪い表情ではないように思えた。有無をいわさず首を刎ねられても仕方がないところを斬られなかったのだが、今までの戦いでは逆にそのように容赦なく切り殺された事は多々あった。うん?俺は何で命が助かっているんだ?
…ふう、敵わないな。その強さも男としても。降伏するのも止むをえまい。この男なら俺はともかく少なくとも勇者軍の面々にとって悪い事にはならないだろうし。
「分かった。敗北を受け入れる。だが後ろの奴らや勇者軍の命は…っ!?」
―――ドクン
―――ドクン
なんだ?急に心臓の音が…!?
そして、俺の世界が心臓が大きく鳴動するたびに、視界が白黒反転する!
―――ドクンドクンドクン
―――ドクンドクンドクン
うわ、なんだこれは!そして心臓が苦しい…!
―――ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン!
心臓が破裂するかのように大きく鳴動する事二十四回を数えた時、視界が白黒反転したまま時が止まり、どこからか声が聞こえてきた。
―――なんだ、もう終わりか。ならば歪みは元に戻さないとな…フフフ。
と、魂が冷えるような声が終わると、白黒反転していた視界が戻り時間がまた進み始めた。そして、俺の腹から…
―――ドンッ!
「ぐはぁっ!」
突如、多数の暗紫色の先端が尖った…まるで杭のような物が勇者の腹を次々に突き破って出現した。そしてまた勇者の身体に帰るかのように俺の身体に次々と突き刺さった。
―――ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!
うがあぁぁぁぁぁ、痛い痛い痛い!
巻き戻った回数と同じ合計二十四本の暗紫色の杭は両手両足を始め、勇者の全身を次々と隈なく貫き、勇者は地面に縫い付けられるような恰好になった。
自身を貫く暗紫色の杭から、おぞましい力の波動を感じる。それはかつて俺を何度も蘇らせた魔法陣の不気味さと同じ…そういえばこの杭の色は魔法陣の色に似ている。そして俺の身体を貫いたこの杭は俺から力を吸い取ろうとしているのが感じられた。
―――う、うぐ。な、何が起きた…いや、これは…これが魔王軍討伐というミッションを失敗した俺への罰なのか。
誰に言われることもなく、俺にはその事が分かった。
そして俺は杭によって暗闇に引きずり込まれるようにして意識を失った。




