第88話 最終決戦五日目
最終周回 エルデネサントの野 勇者
昨晩、中央軍に所属する主だった将を集め、敵総大将アドラブルに一騎打ちを申し込む提案に関する採決をとった。重騎士隊長ログミンなどは強硬に反対するかと思われたが、先日の飛竜部隊との戦いにおける重騎士隊の不甲斐なさも影響したのか、そこまででも無かった。勇者軍の劣勢は諸将認めるところで、方針転換を理解する声は大きかった。
ただし、相手が一騎打ちを受け入れてくれるかどうかには諸将も大いに疑問を持っていた。この状況で魔王軍が一騎打ちを受けるメリットは無いに等しく、勇者より敵総大将は強いとはいえ、わざわざ危険を犯して一騎打ちを受ける理由が魔王軍にはないと。だから結果的に一騎打ちを申し込んで断られて、ただ単に赤っ恥をかくだけではないのか。ただ負けるだけでなく、その上に恥辱を上塗りされるのは耐え難く、ゆえに易々と承服はできないと。
負ければ人類は滅ぶのだから、恥を忍んでもたとえ僅かでも勝ちの目がある方に賭けた方がいいのではないか。一騎打ちを受けてもらえる可能性がまず低く、その上受けてもらえても負ける可能性が高い。どうせ負けるなら、せめて恥の無い生き方にしたい等々議論は荒れに荒れ、夜遅くまで続いた。
最終的には勇者が責任は全て自分が引き受ける。それに笑いものになるのは恐らく勇者軍の総大将で勇者たる自分だと諸将を説得した。反対していた面々も他に良案がある訳でもないので渋々ながらも同意し、翌朝魔王軍に一騎打ち申し込みの使者が出された。
この使者も誰がなるかでもまた揉めたが、結局使者になったのはマキタ指揮官だった。ある程度の格が無ければ魔王軍の相手にされないだろう。しかし、使者は有無をいわさず殺される可能性がある。タスクや第一皇女ルクレリナも立候補したが、どちらも万が一にも殺される訳にはいかないと諸将は首を縦に振らなかった。
そして、諸将が全く期待していなかった訳ではなかったが、マキタが受諾の返事を携えて持ち帰ったときには少し拍子抜けしたものだ。
一騎打ちはお互いの両軍のちょうど真ん中あたりで時刻は本日正午ごろ。見学は認めるが、もちろん一切手出しは無しだ。直接手出しが出来ないように見学人と決闘者の間には双方が魔法で障壁を張る。一騎打ち前に事前に補助魔法をかけるなどの行為は一切無し。
勇者がアドラブルといい勝負が出来ていた時は決まって聖女の強力な補助魔法があった時で、補助魔法が切れてそのまま押し込まれるという展開が多かった事を考えるとより厳しい条件になったと言えるが、一騎打ちを受けてもらえるだけで御の字とも言えたため、マキタはこの条件を了承せざるを得なかった。
正午近くになり、見学者と決闘者の間にお互いが魔法の障壁を張った。不正が無いように魔王軍側の障壁は勇者軍のメルウェルが、勇者軍側の障壁は魔王軍のグダンネッラが担当した。
そして見学者が互いに席に着き、アドラブルが魔王軍側から、勇者が勇者軍から進み出てお互いの中央にまで歩み寄る。その距離1メートル。そのまま始めても良かったのだが、この際どうせならと勇者はアドラブルに今まで疑問に思っていたことをぶつけた。
「なんで受けてくれたんだ?断っても良かっただろ。魔王軍としてのプライドか?」
「ん…?なんだそんな事か。確かに負ける気がしないという自信もあるが、まぁお前とは何回、何十回とやり合った仲なんだ。4対1と言われたら流石に断っただろうが、1対1なら最後くらい受けてやっても罰は当たらんかなと。まぁ、部下達には止められたがな。」
「…お、…お」
「ん、なんだ?お?」
「お前だったのかぁー!!!」
「ん、何がだ?」
「魔王軍に誰かが周回を認識している奴がいるなって思ってたんだ。でも大した動きが無い周回も結構あったから、てっきりそれはあの犬耳メイドみたいに地位が低いやつで、献策が通らない時とかがあるからだと思っていたのに!」
「…勇者、お前俺をディスっているのか?これから一騎打ちするんだから構わないとも言えるがな。ただ、お前は俺を怒らせた。もうお前はロクな死に方をしないからな。」
とアドラブルはちょっとイラっとしたのかもしれない反応を見せた。話は終わりだとばかりにアドラブルは破軍刀を腰から引き抜いた。
「うるせー、もっと文句言わせろ!ラスボスが自由に動けるっておかしいだろ。そんなの勇者に最初から勝ち目なんてねえじゃねえか!こんなクソゲーあるか!俺の25年を返せ!」
ぜぇぜぇ。
まぁ、いい。言いたいことは言えた。お互いの全てを賭けた勝負と行こうじゃないか、我が宿敵よ。お前は自分の勝利を疑っていないだろうが、俺もただでやられるつもりはないぞ。




