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何度倒してもタイムリープして強くなって舞い戻ってくる勇者怖い  作者: 崖淵
第6部 終章

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第86話 最終決戦三日目~四日目

最終周回 エルデネサントの野 アドラブル


勇者軍のとる戦法がどう変わるかは分からないが、左右軍は防御陣地を頼りに守勢で中央は打って出る基本方針は変えなくていいだろう。

昨日のような二の矢三の矢を用意して、都度相手の心を折っていくような展開にはもうならないだろう。どちらも奥の手は晒してしまったように思える。

ここから総力戦だ。


アドラブルは本陣から戦況を見守っている。

敵陣後方には移動式と思われる固定式弩弓バリスタが二機ほど見える。所詮二機なので飛竜部隊を出してもなんとかなるかもしれないが、それでも無視できない被害となるだろう。まだここで消費してしまうのは惜しい気がする。

運よくバリスタを破壊できるような事があれば、それが一番いいが。


バリスタから定期的に矢が発射されており、単発の矢などなかなか直撃するものではないが、大型の矢は着弾すれば大きな破壊音とともに一定の範囲に被害を与える。なかなか当たらないとわかってはいても攻撃される方はたまったものではない事は確かだろう。敵に飛竜が出てこなくても、一定の効果を上げているのかもしれない。


しかし全体的な優位は魔王軍だった。

左右軍から中軍に一部兵士を戻し、数的優位を回復しようとしたが勇者だったが、魔王軍は昨日の勢いそのままに勇者軍を攻め立てた。

そのまま三日目が終わり、魔王軍に微かに傾いていたかのように思われた天秤は今はっきりと魔王軍に傾いた。

このままではジリ貧になる。勇者としては何か手を打つ必要があるはずだった。


「ハキム、お前が勇者ならこの劣勢をどう挽回する?」


「難しいですな。右か左を捨てて中央を最低限にして、もう一方の右か左を取りに行く。…それが上手くいってもわが軍の中央が万全な状態で残っています。まだ苦しい事に変わりはなさそうですな。そうすると残された手段は勇者軍定番の中央突破でしょうか。でもこの防御陣地と精鋭部隊を正面から突破するのは勇者軍の精鋭を集結させても骨が折れそうですな。」


「他に無いか?」


「…勇者軍中央を手薄にして魔王軍主力を勇者軍本陣まで誘引して、罠に嵌めてまとめて倒す。まぁそんな方法があれば、ですが。」


「なるほど、一考の価値はあるな。

たとえそこで魔王軍をまとめて倒せなくても、勇者軍本陣で魔王軍主力を足止めしておいて、その隙に勇者軍がこの本陣に攻め込んでくるという中央突破作戦と混ぜるのもありか。」


「なるほど…それなら勇者軍にも勝ちの目がありそうですな。むしろ、それ以外思い浮かびません。」


「そういえば偽装撤退からの伏兵攻撃はやつらの十八番だったな。であれば、わが軍としては今までどおり堅実に戦い、敵の手に乗らないことか。ただのゴブリン兵ならばともかくバルダッシュ率いる精鋭部隊であれば、稚拙な誘引などには引っかからないだろうよ。だが、念のため伝えておいてくれ。」


「はっ。」



4日目、勇者軍は左右軍はそのまま変わらず魔王軍の左右軍に攻め掛けてきた。こちらは左右どちらも勇者軍がやや優勢といった感じだが、防御陣地がある魔王軍が今すぐどうこうという事も無いだろう。

しかも明らかにという程でもないが、昨日よりも左右軍の総兵数が減っており、引き抜いて中央軍の手当てをしているのだろうな。相手が苦しんでいるのがわかる気がする。


そして中央軍を見ると昨日の日没時と同数…いや、もしかするとかすかに減っているように見える。負傷者の問題はあれど、左右軍から一定数引き抜いていれば減るどころかむしろ少し増えていておかしくないはずだ。これは…やっているな。


「ハキム!気付いたか?」


「はっ…?」


敵陣を見回すハキム。しばらく眺めていたが、やがて気付いたようだ。


「…勇者軍の兵の数が合わない、という事でしょうか。」


「そうだ。やつら、やるつもりだぞ。」


「なるほど、では私はバルダッシュ殿にその旨を伝えてきます。くれぐれも軽々しく敵の誘いに乗らないようにと。」


「ああ、それで奴ら勇者軍は益々苦しくなるはずだ。」


『はっ』と答えて前線に向かうハキム。


「しかし、高所というのは守るに易いという利点もあるが、敵の動きが手に取るようにわかるのが大きいな。勇者よ、悪いがこの戦もらったぞ。」


中軍の戦いは激戦で一進一退を繰り返していた。昨日までの勢いを考えれば勇者軍がよくやっていると言えるだろう。そして昼頃、戦況は次の展開を迎えた。極めて自然に勇者軍の一部が退き始めたのだ。


―――!ガタッ


これには本陣前の床几(簡易椅子)に座って戦況を見守っていた私もハキムも、思わず身を乗り出して声が漏れてしまった。勇者がこのような熟練の部隊運動を操れるとは。予め勇者軍の意図が分かっていなければ、魔王軍は絶対に釣られてしまっていただろう。


事実それでも魔王軍の一部が釣られてついていきそうになったが、バルダッシュがなんとか手綱を握り直し追撃を止めさせた。そしてまだ退き始めていない勇者軍に攻撃を加えた。そしてその後は付かず離れずある一定の距離を常に保ちながら、冷静に勇者軍に追撃を加えていく。バルダッシュもまた見事な部隊運用だと言えるだろう。


勇者軍はそれでも懸命に自軍野営地に魔王軍を誘引しようと決死の部隊行動を繰り返している。決まれば一発逆転の仕掛けが勇者軍の野営地にあるのだろう。だが種が分かっているこちらとしては、いじらしいまでの努力に少し同情してしまう。

そこをバルダッシュは淡々と攻撃を加え続け、容赦なく勇者軍に出血を強いていく。


勇者はここで再度決断を迫られていた。このまま、出血多量死を覚悟で誘引作戦を継続するのか。それとも作戦を諦めここで損切するのか。だが既に劣勢の中で更にこの損を許容するのは難しいのではないかと魔王軍からは思われていた。

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