第84話 最終決戦二日目
最終周回 エルデネサントの野 アドラブル
初日からそれなりに激戦ではあったものの、結果的にはお互いに相手の様子を窺うような形で一日を終えた。側近のハキムに話し掛ける。
「やはり思ったより相手の兵が多いな。」
「はっ、そうですな。兵の質で上回られている分、この程度の兵数差では精鋭部隊がいる中央はともかく、防衛陣地があっても左右はこのままでは劣勢になるのは否めません。」
「ふむ…そうだな。どうするか。劣勢なのにただ打って出るのは愚策よな。一応ゴブリン兵中心の左右軍も防衛陣地の恩恵が無い訳ではない。」
「そうですな…
1.左右はこのまま守らせて精鋭部隊で中央突破を図る
2.中央への相手の攻め手が薄くなったら精鋭部隊を中央から抜いて左右軍にぶつける
3.中央にいる精鋭部隊以外のゴブリン兵を左右に回して、左右に厚みを持たせて敵との兵数差を広げて左右でも勝てるようにする
あたりがすぐ浮かぶところですかな。リスクが無いのは3で中央のゴブリン兵を遊ばせておくのももったいないので、中央のゴブリン兵を左右軍にまわしましょうか?」
「ふむ…だが明朝、敵も何かを仕掛けてくるかもしれぬ。それを確認してからにしよう。だが、すぐ動けるように準備はしておけ。」
「はっ。かしこまりました。」
とアドラブルの天幕からハキムは下がっていった。と、入れ替わりにタリアトが食事を載せたカートを押して入ってくる。
「閣下、お疲れ様です。」
「うむ、タリアトもご苦労だな。」
いえ…と言いながら食事の準備をしていく。ちゃっかりタリアトも同席してご飯を食べた。その際、いくつか会話を交わしていた気がするが、色々と考え事をしていたので、あまり頭には残っていない。『ごちそうさま』と食事を済ませるとタリアトはそれを片付けて退室していった。退室時に『私の方こそごちそうさまです』とタリアトが言ったとか言わないとか。
翌朝、本陣前から戦況を見守る。高台にあるので本陣にありながら全体の戦況を把握し易いのは大きな利点だ。開戦時、魔王軍は中央左右いずれも6万ずつで合計18万(中央は精鋭部隊2万含む)。一方で勇者軍は中央が6万で左右が4万ずつだったはずだ。
…ん?敵の左右軍の厚みが増していないか?
「勇者は、左右軍を分厚くしてきたか?」
「そのようですな。このままでは左右軍が劣勢になるのも時間の問題です。中央から予定の増援を派遣しましょう。」
「待て…その分、中央が薄くなっているように見えるな。」
今は防御陣地を中心に防衛戦をしているが、魔王軍の本質は攻勢だ。ここは仕掛けてみるか?
「ハキム、精鋭部隊に突撃準備をさせろ。日和見している敵の中央軍なんぞぶち破って勇者の首を挙げるぞ!」
『ハッ』と言って、精鋭部隊を率いるバルダッシュのところに向かうハキム。アドラブルは他にも数名の側近を呼ぶと何やら他にも指示を伝えた。
1時間後、準備を終えた精鋭部隊は防衛陣地の門を開くと突如討って出た。あまり攻める気の無いまま中央防衛陣に攻めよせていた勇者軍を突き破ると、そのまま敵本陣に向けて砂煙を上げて突撃を敢行する。
勇者軍も中央本陣から、それを迎え撃つべく出陣し両軍が激突する。兵の数は中央から左右に引き抜いたといえどそれでも魔王軍が精鋭部隊のみならば同じかやや勇者軍の方が多い。精鋭部隊も兵の練度と運用で強いだけで、個の強さは帝国軍一般兵より若干強い程度だ。だからその勝負は五分、いや勢いと精鋭部隊を率いるバルダッシュの統率力でじりじりと魔王軍が押しているかもしれない。それでも今日のうちに決着がつくような状態ではなく、左右軍の劣勢を考えればプラスの戦況とは言い難い。しかし、
―――おおおおおおおっ!
左右軍に援軍予定で準備済だった、ゴブリン兵が精鋭部隊のその背後から左右に分かれて戦場に雪崩れ込んできた。こうなると話はまた別である。数でも上回り戦術でも上回った魔王軍が中央の勇者軍を押していく。
しかし勇者もさる者。この事態を想定していなかった訳ではない。ここで予備隊として後方で控えていた勇者軍の誇る重騎士隊が『半年前の悪夢よ再び』とばかりに魔王軍の横から突っ込んできた。
半年前と違い魔王軍精鋭部隊も十分な訓練を積んで、その練度は大陸最強と言われていた重騎士隊と遜色なくなっていた。しかし練度の部分ではほぼ互角になっていても、ゴブリン特効とも言える騎兵という強みは未だ健在だった。ただのゴブリン兵は言うに及ばず、精鋭部隊と言えども重騎士隊相手では苦戦は免れなかった。ただ精鋭部隊の方が数が多いため簡単に瓦解するような事はなかったが、魔王軍の勝利に傾いていた針は重騎士隊の活躍によりまた五分に戻されたのだった。




