第73話 勇者とその愉快な仲間たち
第25周回 5月 大都市ゴブラン 重戦士タスク
日が暮れる頃にようやく本日の補給に関わる手配やその他雑務も終わり、俺は勇者一行に割り当てられていた高級宿に戻った。宿屋の主人の話によると、勇者は結構前に戻っていたとの事だった。
流石大都市ゴブランが誇る高級宿だけあって、この宿には大浴場が併設されている。素晴らしい。一風呂浴びてさっぱりすると、これまた併設の食事処兼酒場に行く。と、そこでは聖女マミアと魔法使いメルウェルが既に食前酒らしきものを空けて、軽く食べ始めていた。
「あれ?勇者はまだ来てない?」
「まだ来てないわよ?」
「あれ?今日は早めに戻ってきてたらしいんだけどな。連絡いってると思うけど、勇者から話があるから夕食後に時間くれって言ってたけど聞いてる?」
「ええ、聞いてるわよ。」
と言いながら、食前酒から切り替えたのか聖女マミアはすごい勢いで枝豆とエールを消費している。…色々と言いたい事はあるが、100倍になって返ってくるのが分かっているので、黙っている事にする。この女に口で敵う訳が無いのだ。
一方で隣の魔法使いは、美味しそうに大きな骨付き肉にかぶりついている。一口食べるたびにとても幸せそうにほっぺを押さえている。幸せそうで何よりではあるが、こっちはこっちで話を聞いているのか微妙なところだ。
「タスクは話って何だと思う?」
「ん?」
俺は頼んでいたエールがきたので、それを飲みながら食事に手を付けようとしていたところに聖女マミアから質問が飛んできた。
「だって勇者が相談って珍しいじゃない?今までも大体一人で決めちゃうのが慣例だったし。まぁ以前の周回の記憶があるのは勇者だけだから、その辺の機微を考慮すると仕方ないんだけどね。もちろん今までもなぜそうするのかの根拠と理由は説明してくれてたし、内容は納得がいくものではあったけれど。」
「まぁ、そうだね。でもマミアはそれが不満だったりするのかい?」
「不満って程ではないけど、常に喉に小骨が引っかかってるくらいはあるわね。」
「それってかなりイラっとしt…いや、なんでもないです。そうだなぁ。ああ、そういえばちょっと気になった事があったんだ。」
「今日?」
「そう、今日。昼過ぎくらいまでは普通だったんだけど、午後のある時、急に勇者の顔色が急変して何やら考え込み始めたんだ。ん?と思って見ていたら、慌てるようにして今晩話し合いの時間を作ってくれとだけ言って立ち去ったんだよな。」
「勇者って予知とか天啓みたいな閃き系の力ってあったっけ?」
「いや、無いと思う。少なくとも聞いたことないね。まぁ、勇者召喚自体が天啓みたいなものかもしれないけど。」
「それをいったらそうかもしれないけど…というか、勇者遅いわね。自分から誘ってきたのに。」
そういえば、そうだな。
見ればマミアの前には既に半ダース程の空のエールの大ジョッキが並んでいる。メルウェルの前にも大振りな骨付き肉…いや、大きな骨が3個ほど積まれて、メルウェルは4個目に取り掛かっているところだ。
彼は普段から計画通りに行動するのが好きな性格だからなのか、勇者が遅刻したのを見た事無いのだけれど。
「どうしたのかな?ちょっと見てくるわ。」
よろしくとばかりに空のジョッキを振って応えるマミア。よろしくされたのは俺なのか、それともウェイターへのエールのお代わりなのかは分からなかったが。
二階にあがって勇者の部屋前まで来たが、鍵がかかっていたので店主に頼んで開けてもらう。…そっと中を窺うが部屋の中は窓から差し込む月明り以外は特に明かりもついておらず暗い。とりあえず、特に部屋が荒らされている様子もない。耳を澄ますとすーすーという寝息も聞こえてきた。無事か。まぁ、そうか。誰がこの世の最強の一翼を担う勇者の寝込みを襲うというのだ。
とりあえず店主には大丈夫だと伝えて戻ってもらった。
部屋に入って、ドアをそっと閉じる。
部屋の隅にある小さな灯りを点けて、ベッドを窺う。勇者はよく寝ているようだ。結構強めにノックしたんだけどな。勇者もこんなにも寝入る事があるのかと少し不思議に思った。
ちょっとの間、椅子に座って起きるのを待っていたが、このままでは起きそうもないので起こすとするか。
「おーい、勇h…」
と声を掛けかけたところで、勇者はカッ!と目を見開いたかと思うと、そのままギギギと音が鳴るかのようにゆっくりと首の向きを変えてこちらを見た。こええ、ホラーかよ。
勇者は俺を視認したのか、目力が緩んで少し優しめな眼つきになると
「なんだタスクか、どうした?」
「おいおい。なんだは無いだろう、なんだは。勇者様は俺なんかより美女に起こしてもらう方がよかったか?というかほら、外を見ろよ。もうこんな真っ暗な時間帯だぞ?」
「えあっ、まいったな、完全に寝入ってしまったようだ。…そうか、すまん。すぐに着替えて下に行く。先にいっておいてもらえるか?」
「ああ、でも早く来いよ。」
「ああ、分かってる。それと…起こしに来てくれたのが美女じゃなくてお前で良かったよ。ありがとう。」
「ああ、そりゃそうだろうな。うちの美女様達じゃこんなに安らかには起床できなかっただろうからな。
…余計なお世話かもしれんが、目がちょっと赤いから顔を洗ってから来いよ。」
といって俺はドアを閉じて勇者の部屋を出た。




