第67話 帝国領侵攻計画
第25周回3月 魔王都総司令部 アドラブル
聖女と魔法使いの両名を欠いた勇者一行などやはり敵ではなく、前周回の最終決戦も無事に終える事が出来た。
そして今は次の周回の3月であり、ここ最近の周回の要となっている北東攻防戦の時期が近くなってきた。
勇者一行率いる帝国軍の動きを探らせているが、今のところ前回と帝国軍の動きはほとんど変わらず、前回同様に帝国領北東部へ向かうようなルートで順々に帝国内の反乱を潰しているようだ。という事でまたもや今周回も来月あたりに帝国領北東部で魔王軍と帝国軍が激突する――北東攻防戦が行われる事になりそうだ。
だが、今までの周回と今回とでは北東攻防戦の重要度が変わった。いや、重要である事に変わりはないのだが、最重要課題ではなくなったというべきか。
今までも目標が無い訳ではなかったが、目先の目標しか無かった。それは最終決戦を乗り越える事。そしてその最終決戦を有利に戦うためにここ最近の周回は北東攻防戦が最重要課題だった。
しかし今は違う。
グダンネッラの調査により判明した過去の勇者召喚の詳細。
それが本当に正解への鍵なのかはまだ分からないが、帝都近郊にあると思われる勇者を召喚した魔法陣を探す事が第一目標になったのだ。
そこでエルデネトの諜報部隊に、帝国内のどこかにあると思われる召喚魔方陣を帝都近辺で探させることにしたところ、前周回後半において一箇所怪しいと言える場所があった旨の報告が挙がっていた。
帝都東の森が数百名単位の兵士によって、不自然なくらいに厳重な警戒が敷かれている…と。
その後も調査・偵察を継続したところ以下のような事が分かった。
その帝都東の森は皇帝の狩猟場として昔から立ち入りが禁止されていたそうで、そこに侵入しようとした者は容赦なく処刑されたそうだ。しかし特に皇帝がその森に狩猟に出掛けたという記録も無いらしい。
皇帝の狩猟場を荒らされないために立ち入りに制限はかけるのは当然だと思うが、そのためにそこに常時数百名単位の兵士を駐留させるとか、それはやり過ぎだろう。しかもそんなに大事にして全然狩りをしている記録が無いときた。
―――これは…当たりか?
だが、問題はそこまでどうやって行くか…だな。
帝国の奥深く帝都近くまでなど、普通に行くのは無理がある。飛竜部隊で強行突破も止む無しか…?少数精鋭で帝国内にバラバラに忍び込み現地集合という手もあるが、それだけで数百名単位の兵士を相手取るには厳しいものがある。
私ならばなんとかなるかもしれないが、私が出て万が一の事があれば、その時点で魔王軍は終わりである。最終決戦で魔王軍は勝てないだろうから。
うーむ、どうしたものか。
良い手段が浮かばないままに時が過ぎて行く。
そんな中またもやエルデネトの手の者から、帝都の森の話では無かったが興味深い報告が挙がってきた。
要塞エルグレアに駐留している防衛の要、帝国軍最精鋭である重騎士隊がひっそりと出撃したというのだ。そしてその出撃した方角は帝国領北東部。
なるほど、前回の北東攻防戦で聖女率いる伏兵部隊がこちらの精鋭部隊に全滅させられたから、それへの対策かな。
ふむ。
ふむ…。
ふむ…?(ピコーン)
何事か考えていたハキムと目が合う。すると程なくしてこちらも何か考えていたバルダッシュと目が合った。
おりしも帝都東の森へどのようにアプローチするかを皆で考えていたところだ。そして皆も同じ考えに至ったようだ。
「エルデネト、敵に重騎士隊がいないならば要塞エルグレアは落とせるか?」
「相手は難攻不落の要塞。ただのゴブリン兵だけでは数万で攻めても難しい部分はあります。そして重騎士隊がいればまず確実に落ちますまい。ですが、今は精鋭部隊がおります。ゴブリンが苦手な城攻めも精鋭部隊であればこなせるでしょう。そして、あの要塞には設置式の弩弓がありますので、無闇には近づけませんが、飛竜部隊も運用次第では効果があるでしょう。」
「で、どうなのだ?」
「確実とは言えませんが、可能性は少なからずあります。少なくともダメ元でもやる価値はあるでしょう。」
「攻城兵器は必要か?」
「万全を期すなら欲しいところですが、正直攻城兵器は目立ちますし足も遅いです。要塞周辺は荒地ですので、近くに森が無く現地で木を切って作成する事もできません。」
「うむ、ではどうする?」
「幸い、要塞エルグレアの城壁は老朽化しており、応急処置どまりのところも多いです。本当はそこを攻城兵器で突きたいところですが、攻城兵器が無くても隙には違いないのでチャンスはあります。」
「ふむ、要塞の攻略方法の細部はまた詰めよう。だが、重騎士隊が要塞エルグレアを離れるなど今後無いかもしれん。これは千載一遇のチャンスだ。皆の者聞いたな?要塞エルグレアを抜いて帝都東の森を目指す。帝都まで遠足の準備だ。」
―――おおーっ!
「おやつは300イェンまでだぞ?」
―――そんなーっ!?
『うおおおお、やるぞー』と総司令部にやる気の喊声が挙がる。
急に慌ただしくなった。それぞれが部下に合戦の支度――しかも城攻めや遠征の準備付き――を指示すべく何名もの武官が総司令部を出ていった。
ただ我ら首脳部はこの遠征計画を具体的に細部まで詰める作業が残っている。北東攻防戦も同時進行なので、その辺との兼ね合いもある。
会議は連日深夜にも及んだ。
魔王国軍は総勢二十万で、うち五万ずつ計十万が帝国領北東部北西部に遠征中だ。そのうち北東部五万は動かせない。勇者率いる帝国軍を引き付ける贄となってもらわねばならぬ。毎回一~二万は敗残兵が残るのだが、重騎士隊が北東へ向かっていることを考えるとそれより更に減るかもしれないな。まぁ、どちらにしろその敗残兵は本国の守備へ回そう。
帝国北西部侵攻中の五万は、この遠征のために今すぐに撤退なり転進させると勇者にこちらの目的を勘付かれる恐れがある。なので、北東攻防戦開始前までは現作戦を継続させ、その後全軍移動させる事にする。新兵ばかりとはいえ五万もの大軍を使わないのはもったいないからな。本国に戻して本国の守備とさせても良いのだが、折角帝国領にいるのだから、帝国内で動かす事にしよう。要塞エルグレアが比較的近いのでそちらに回すか。
本国にいる十万だが、このうち三万を帝都の守備に残そうか。北東部の敗残兵も併せれば五万近くになるし、帝国軍が魔王都を攻める余裕は無い筈だ。それに魔王都は固い。とりあえずは三万の守備兵で事足りる筈だ。
七万で要塞エルグレアを落とし、守備に二万を置いて五万で帝国内を侵攻する。で北西部の部隊がエルグレアに入ったら、守備に置いた二万を後詰として本体を追わせよう。
で、北西部の五万は要塞エルグレアを防衛させつつ休養させて、一万ずつを二回で合計二万を帝都へ向けて増援に出させよう。三万はそのまま要塞エルグレアを守備だ。
もし帝国内で敗北しても要塞エルグレアがあれば、最悪の事態は免れるはずだ。
要塞エルグレアを落とせるかという問題もあるにはあるのだが、詳細な偵察結果とそれを元にした軍議を重ねていくうちになんとか落とせそうな算段が立った。
そうするとやはり問題になるのは勇者率いる帝国軍だな。北東攻防戦の帝国軍はいつも二万以上で周回毎に少しずつ増えている。今回は二万五千以上…下手をすると三万近くいるかもしれないな。
しかも敵にはこの時期では群を抜いて優秀な重騎士隊もいるはずだ。そうすると魔王国軍の兵数が五万で、そこから要塞戦で減った兵数如何では、やや苦しくなるかもしれないな。




